調査
コーサはメイド達を連れて西の森に来ていた。
「コーサ様、調査なら私たちに言ってくれればして来ますから。帰りませんか?わざわざコーサ様自身が来なくても。」
「レス、お前達が行っても意味がない。まだ、僕も情報不足だからね。欲しい情報は集まっても必要な情報が集まっていない可能性があるからね。」
「そうかもしれませんが………」
レスはコーサが言っている事は分かるが納得はしていなかった。コーサに何かあったら………
「別に僕が死んだら君たちが処刑になるわけでもないんだから。気にせずついて来い。」
ストロンガー家には騎士達に主人を守るなんて事は通常ないのである。戦闘最強を掲げているだけあってストロンガー家こそが前線に立って戦い味方を鼓舞しないといけない。
その為、自分を守る事に力を注ぐくらいなら敵を一つでも多く倒せが騎士達の仕事である。
今回の調査もコーサが自身で言ったことなのでレス達にはお咎めなんて法的にはないのである。
「そうですよ。それにコーサ様は私達より強いじゃないですか。」
レスに意見しているのはレスと同期のナルフである。
「ナルフ、そう言う話ではないです。コーサ様は私たちの主人です。その主人が死ぬかもしれないところに行かせるなんて従者として賛成できません。」
「レスは外様みたいな事言うんだね。」
ナルフの発言にレスは明らかに怒っていた。
「私をそんなのと一緒にしないでください。」
「ごめん、ごめん。それにコーサ様はあの執事長も騙してたなんて言うじゃない。」
凄いですと自分で言っていて興奮しているナルフだった。
「それは違うよ。」
でも、その発言はコーサによって否定された。
「あれは一見だから。騙せただけ。」
「どう言う事ですか?」
この場いる全員がコーサの言っている事が分かっていなかった。
「百聞は一見にしかず、百見は一考にしかず。執事長は審美眼など目に優れいるから。その目を一回騙せば勝手に一考より先に行ってくれる。まぁ、それも今回だけでそれ以降は通じないけどね。」
「前から聞きたかったのですが、何故そんなことを?」
アマネムが指摘しなくてもあのまま見ていたらラバイは自然に気づけていただろう。その事はコーサも分かっていた。
レスはこの話を聞いてコーサがそれを行なったかをわからなかった。
「調子に乗っていたから。勿体無いって思った。」
執事長の目をより進化させる為のきっかけをコーサが作ったのである。
今回の件でラバイはより目を使う特訓をするようになるだろう。そして、ラバイにとって目はプライドそのものだった。それを傷つけられてラバイは今ものすごく自身にキレていた。
子供にキレるほどラバイは狭量ではなかった。
「それに戦場から離れているとは言っても百戦錬磨の人間に自分の脳がどれほど通用するか気になっていたんだよね。」
でも、一番はコーサ自身の力を試したくて仕方なかっただけである。
前世でのコーサは石橋を叩いて叩いて違う石橋を叩く。
そんな一生前に渡る事ができない人間だった。
でも、今は違う。この身体は、この脳は、自分に勇気をくれる。石橋の叩き方をくれる。
楽しくて仕方なかった。1日1日が面白くて仕方なかった。
「だから、この場所にも来たんだよ。」
「此処はバラカイナ草の群生地。」
バラカイナ草
バラカイナとはこの森の名前であり大名詞の植物である。
そして、よくポーションの材料に入っている。
「もう無くなった訳ではありませんね。」
「あぁ、乾燥も生もまだある。それに今回は採取じゃないよ。調査だ。」
メイド達はコーサが此処に来た理由は分からなかった。
「言っただろう。調査だよ。バラカイナ草の栽培する為のね。」
「なぁっ!」
一同は驚いていた。
バラカイナ草はポーションによく使われる為、昔は乱獲されたせいで今では森の代名詞になるくらいあったバラカイナ草は幾つかの群生地を残して無くなっていた。
だから、ここ百年、内外とはない研究者が栽培しようと研究したが、誰も成功する事はなかった。
少し前に百年問題に指定された研究テーマである。
「コーサ様、流石に………」
「流石に?何?」
百年問題に挑んで人生を棒に振った天才は山のようにいる為レスはコーサ止めようとした。
でも、それはコーサの殺気に止められた。
「これは僕の人生の成功の一つにしかないんだ。言わば通過点でしかないよ。」
その姿には子供らしからぬ気迫があったが、ある意味ストロンガー家らしい姿でもあった。
「さぁ、調査するよ。」
コーサは収納袋から調査機材を出した。
「空気中の魔力量に、地中の栄養。様々な事を調べるんですね。」
関係ないようなことも調べようとしているコーサに違和感を感じていた。
「皆が失敗した。つまり、バラカイナ草の栽培には必要な要素を皆が調べなかったところにあると考えるのは自然だろう。才能だけで頑張ろうなんて馬鹿じゃないよ。」
コーサはここに来る前に農家や栽培書から知識を得ていた。
「コーサ様!」
コーサが調査機材を使っていると、木々の隙間からリス型の魔物が襲ってきた。
「叫ばなくても分かっているよ。」
「キュイ?!」
コーサは後ろに目があるようにリス型の魔物の攻撃を避けてその小さい頭を握り潰した。
「この程度の不意打ちで僕を食えるとは思わない事だね。」
「コ、コーサ様っ!!」
メイド達は木々の上に無数のリス型の魔物がいた。
「騒ぐな。バラカイナ草はポーションにしなくても回復効果はある。魔物に限らず生物は傷付いたらこれを求めて群生地にやってくる。この程度は想定内だ。」
メイド達も臨戦態勢をとった。
「そんな意気込まなくてもこうすれば良いんだよ。」
「っ!!!」
メイド達が感じたのは悪寒。
コーサから振り撒かれる殺気は生物の本能に直接呼びかけるものだった。相手に抗戦ではなく逃走しか考えられなくする。
「さぁ、逃げたよ。さっさと調査を終わらすよ。強い魔物が現れたら流石に今のは効かないからね。」
「は、はい。ですが、腰が抜けちゃって。」
「だらしないね。君達。」
コーサの殺気は若いメイド達には刺激が強すぎた。