妖刀
「さてと、これを刺して……と。」
「ま、まて!何をする?どうなっているんだ?!!」
いきなりメスを刺された怨霊は霊体でありながら刺されていると言う感覚だけを感じることが出来ることに違和感を感じた。
死んでいるのに生きている時に感じた感触が蘇りつつある自身の身体の変化に驚いている。
「コーサ様。一体何をしているのですか?」
作業に集中するコーサに無視され続けて不憫に感じてもいたがアイシャ自身もコーサが何をしているのか気になっていた。
「うん?だから、僕の武器を作っているの。」
「武器ですか?」
どう見ても怨霊にメスを刺して怨霊を中心に魔法陣を描いている姿からは武器製造をしているようには見えなかった。
「これはアイシャから貰った古文書に書いていた製造法だよ。」
エレス発生原因の布と一緒に発掘された古文書もコーサに贈られていたのだ。
しかも、写本ではない本物をである。アイシャがこっそり配下を使って古文書を写本と入れ替えて盗ませたのである。
「そこには妖刀などの曰く付きな品を作る製法が描かれていた。僕前々から妖刀みたいな武器が欲しかったんだよね。でも、あれって貴重かつ危険な品だから。滅多なことでは市場に流れていないんだよね。」
コーサはそこで古文書で曰く付きの品製造法を見つけた。手に入らないのなら一から作ろうと考えたのである。
「曰く付きの品を作るには幾つか方法がある。例えば、この洞窟にある鉱石を使って鍛治をするとかね。」
でも、その場合鍛治師も呪われる可能性があるため、凄腕の鍛治師を使い潰す事になるかもしれないのだ。
「鈍を妖刀にしても呪ありな上に脆くて切れない武器とかゴミより酷い品でしょう?」
生半可な人間が作ろうとしても、呪いや精神汚染に晒され続ける中で作らないといけない為に製造環境も過酷な状況でも安定して作れる人物でもない限り一流の鍛治師でも製造は難しいのである。
「でも、鍛治があまり得意じゃない僕でも作る方法があるんだ。それがこれ。」
コーサはようやく魔法陣を描き終えることが出来たのか、立ち上がって最終段階に移行した。
「怨霊を捕らえて武器に封じ込める。怨霊にとって住みやすい武器なら定住してそれは曰く付きになる。」
「定住しなければ?」
「その武器は壊れて怨霊は解き放たれる。」
だが、これは怨霊の意思とは一切関係なく定住するかしないかが決まるため、怨霊自身がこんなに嫌がっていても無駄なのである。
「ふざけんなよ。こんな小さき器に収まる我ではない!」
弱々しく見えるメスに封じ込めることが分かった怨霊は自分の力を過小評価されていると感じた怨霊はコーサに威嚇していた。
「うん?それは最高級の魔鉄に多種多様な金属を混ぜ込んで作った合金を様々な魔石を埋め込んでドラゴンの血やマーメイドの血などの151の血に一年漬け込んだ。僕が持っている最高峰の武器だよ。君が気にいること間違いなしの代物だよ。」
アイシャはこの小さいメスを造るにはあり得ない素材の数々に勿体なさすら感じていた。
怨霊の禍々しさに上手く隠れていたが、コーサのメスからも重く魅惑的な魔を感じられた。
「だから、安心して住み込んでね。」
「!!!!!!!」
封印が最終段階に移行して既に怨霊は話すことも出来なくなっていた。
メスに一部分が入ってしまった今だから理解することができたこのメスは我ら怨霊にとって実家のような安心感を覚える代物であることを、そして、自分が定住を選んでしてしまうことを確信してしまった。
しまったからこそさっき以上に必死に抜け出そうと暴れていた。
「諦めて僕のものになろうね。大丈夫。生前の時より楽しい生涯を送らせてあげるよ。」
「!!!!!!!!!ふ!!!ざ!!!!けっ!」
怨霊は完全に封じ込められた。
メスはさっきまでの銀色に輝く見た目からは想像出来ないような禍々しい血の色に変わっていた。
「うんうん。良い色。じゃあ、帰ろうか。」
もうこの場には用がないコーサはアイシャを連れて洞窟を出た。
「コーサ様!大丈夫ですか?!!」
レスが息を切らしてコーサ達の元にやってきた。
「どうしたの?レス?」
「コーサ様が行った方角から圧倒的な禍々しい空気が流れてきた為、心配して来たのです!何がお体に異常はありませんか?!!!」
洞窟から離れていたレスたちの場所にも怨霊の気配を感じることが出来たようだ。
「安心して、もう解決したから。」
コーサは新しくなったメスを見せながらレスを安心させるように言った。
「よ、良かった………」
「ふふ、そんなに心配しなくても僕は死なないよ。」
アイシャはそんなコーサとレスの姿を見てこの二人の間に主従以上の関係がある事を確信した。
でも、それは恋人同士などの甘い関係ではない事も直感した。