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怨霊

「こ、これは。」


「怨霊だね。それもすごく強い。」


 扉の向こうに居たのは鎖でがんじがらめになっていた怨霊の姿だった。


「ダークエルフだね。」


「どうして分かるのですか?」


 ダークエルフと断言するコーサの発言をアイシャが疑うのも理解できた。

 怨霊の姿は身体の色んな部位が混ざったような不定形で元の姿がなんなのか分からなくなっていた。


「僕はダークエルフのサンプルを持っているからね。見えている部位は何の種なのか判別出来るんだ。」


 エレス特効薬の研究の際にラナを使ってダークエルフの研究も行っていたのである。

 それによってダークエルフの性質をコーサは知り尽くしているのだ。


「うーん、やっぱり封印が解けかけているようだね。」


 怨霊に巻き付いている鎖の一部が腐食し始めていた。

 怨霊の近くの地面を見てみると既に腐食して壊れた鎖の残骸があった。


「どうにかして封印を強化するか、掛け直さなければこれがアルカディアに放たれたらアルカディアだけではなくエルフは絶滅してしまうかもしれません。」


 明らかにアイシャが入室した瞬間から空気の禍々しさが増していた。

 ダークエルフとエルフの歴史からしてエルフに怨みがあるのは自然のことだった。


「アイシャには悪いけど、もう手遅れみたいだよ。」


「え?!」


 封印の鎖の腐食が一気に進んでいき鎖が一本ずつ弾け飛んでいった。

 そして、最後の鎖が吹き飛んで怨霊が地面にベチャッ!と音を立てて落ちた。


「逃げましょう!」


「少なくても国外に逃げないとこのクラスの怨霊からは逃げた事にはならないよ。」


 つまり、二人が逃げるのは不可能ということだ。

 不定期だった怨霊が地面から形を再構築していきダークエルフの姿に変わっていった。


「うわぁ、ぁあああ!!!」


「姿はダークエルフになっているけど、中身はまだ形成出来ていないみたいだね。」


 怨霊は声を出そうとしているのに禍々しい怨嗟の叫びとなってコーサ達の耳に届いた。

 それが外は完璧にダークエルフでも中身はまだ不定形の時のままだと言うことをコーサは理解した。


「すごい声だね。」


「どうして?!コーサ様はこの状況で!冷静にいられるのですか?!」


 アイシャは発狂しそうな自身の心を保たせるのに精一杯なのにコーサは汗ひとつかかずに落ち着いていた。


「この程度の精神攻撃が効くほど柔な心ではないだけだよ。」


 強靭な心の持ち主でもいとも容易く発狂させそうな声をこの程度と言うコーサの心の強度は異常としか言えなかった。

 でも、そんなコーサにアイシャは安心感をおぼえ心の余裕を取り戻し始めた。


「ヒューマンのガキとエルフ風情が!我の怨嗟に耐えるとは!」


 いきなり流暢に話す怨霊にアイシャは驚いていた。

 怨霊などの幽霊の類は弱点をつかない限り倒す事が困難を極める代わりに大抵は知能を無くしたり、低下する事で知られていた。

 そんな怨霊がこれほど流暢に話すと言う事は、それだけ高位の霊と言うことを示していた。


「ほう、感じるぞ。貴様、エルフの王族だな!」


 アイシャの姿を見て、過去の王足の陰でも見たのか、怨霊はアイシャが王族である事を言い当てた。


「ならば!貴様の死体を国中に晒して!我らダークエルフの復讐の狼煙としてくれる!!」


「あーごめんだけど、そんな事されたら僕の研究に支障が出てしまうんだ。」


 怨霊の殺気と怨みを一身に受けるアイシャは震えでその場から動くどころか何一つ話すことも出来ていなかった。

 コーサはそんなアイシャの姿が雨の日に震える捨てられた子犬を連想してつい前に立って護る形になってしまった。


「邪魔をするなら貴様から殺すぞ!」


「それも無理だよ。だって…………君はもう詰んでいるんだよ。」


 怨霊の殺気に晒されるコーサはそれが微風の如く平然としていた。

 そして、入室してから仕掛けていた罠を作動させた。


「なっ!何!!!馬鹿な!これは!!」


 怨霊は必死に罠から逃れようと必死にもがいていた。


「霊を封じる事に特化した結界だよ。怨霊である君なら本能的に効果が分かるみたいだね。」


「コ、コーサ様はどうしてそんな物を?」


 霊を封じるのみに特化した結界。

 しかも、地面を見たらそれを使用するために使っただろう瓶と瓶の中身で湿ったのであろう地面が見えた。

 そんなものを常備しているわけがなかった。コーサ、この国に来る時点で霊的な何がアルカディアにいることを分かっていたのだ。


「前にアイシャから貰ったエレス発生原因の布を調べた時に変な魔力でエレスを変異させられた痕跡があったんだよ。だから、アルカディアには何か得体の知れないものがいるということが分かっていたんだよ。」


 コーサは他にも霊だけではない様々ものに特化した道具を携帯できるものにして懐に忍ばせていたのだ。

 そして、洞窟と扉の前の気配から霊の類である事を確信して己の今の手札で対処可能と判断したのである。


「僕は臆病だからね。準備を怠らないんだよ。」


「こ、こんなもの!!こんなもの!!!」


 怨霊は力をより入れているが、一向に解ける気配はなかった。


「それは僕の心とリンクしているんだ。だから、僕が君にびびらない限りそれが弱る事はないんだよ。」


 力では解けない代物だと教えたコーサは怨霊に近づいた。


「そして、僕が君にビビる事はない。そして、そこから攻撃もできない。」


 解けないのなら術者を殺したらいいとコーサに攻撃しようとしたが見えない壁に阻まれてコーサに攻撃する事はできなかった。


「まさか、コーサ様はこのような危険なものから私を助けるために!」


 コーサの事は少なくとも理解しているアイシャが理由もなくこんな事をするとは思っていかなった。

 だから、自分に危険がないように対処しに来てくれたのではないのかと考えた。自分はそれだけの手間を費やすほどの価値がコーサにあると思うとアイシャの心を嬉しさで満ち満ちていた。


「それもあるけど、僕もそろそろメイン武器が欲しかったんだよね。」


 コーサは怨霊を見ながらそう言った。

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