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未払い報酬

「ふふ、面白いね。」


「?!」


 コーサは今さっき届いたアイシャからの手紙を読んで笑っていた。

 その事が隣で部屋の片付けをしていたレスには度肝を抜くほどの異常事態である事が分かった。

 通常、コーサが笑うのは作り笑いか、嘲笑が多い。家族に対しては笑顔を見せることもあるが、他人からの手紙で本当の笑顔を見せるなんてここ数年見たことのないあり得ない事態だった。


「どうされたんですか?コーサ様。」


 だから、つい聞いてしまった。

 コーサが何故、そこまで笑顔になるのかの手紙の内容が気になった。


「ん?アイシャからの手紙でね。僕に対して面白い考察とプロポーズしてきたんだ。」


 コーサはそう言って口で言うより見た方が早いと手元にあった手紙をレスに渡した。


「これはまた命知らずの事を書いてきましたね。」


 内容はコーサが嫌うコーサ女性説であった。

 これだけならコーサは不機嫌になりはしても笑顔になるとは到底思えないが、その続きの内容は確かに興味深かった。


「完全な性転換薬ですか?」


「そこも面白いけど、僕が一番面白いと思ったのは僕が女になるのなら自分が男になるってところ。イカれてると思わない?」


 確かにイカれている。コーサが女になるのなら女であってもコーサには変わりないのだから、愛し続けるが正常な思考だろう。

 コーサが女になるのなら自分が男になるなんて決心が直ぐにつくところが、コーサにとって面白い点だった。


「アイシャがここまで恋で狂うとは思わなかった。」


 自分の予想を超えるコーサはそれが好きなのだ。

 だから、機嫌が良かった。


「でーもー、間違いは正さないといけないよね?」


 レスはコーサのその声を聞いた瞬間に身体全身の震えが止まらなくなった。

 思い出そうとしても思い出せないトラウマの記憶。

 それが無理矢理、恐怖だけが浮上してきたような悪寒を纏った感覚がレスに襲いかかっていた。


「は、はい。間違いは正すべきです!」


 レスは肯定することしかできなかった。

 アイシャが次、コーサの前に立った時、どうなるかなんてレスには理解不能ではあったが、これだけは分かった。

 この世の地獄が蘇る。

 それだけは確定している事実であった。


「それにしても世界樹にそんな薬が作れる薬効があったなんてね。」


 さっきまでのドス黒くオーラが幻だったかのように感じれる口調で話すコーサだったが、長年一緒にいるレスは騙されなかった。

 今もコーサはドス黒くオーラを纏っている。触れたもの全てを飲み込むような黒い、黒い底なし沼のようなものがそこにはあった。


「このレシピを見る限り、そこまで難しくない工程だし、一度作ってみるのもいいかもしれないね。」


 コーサは自分が持っている貴重な世界樹の木片(サンプル)を使って完全な性転換薬を精製しようとしていた。


「足りないものはベロニカ姉さんに頼んでジェシカ達と一緒に取りに行かせるか。」


「ベロニカ様はともかくあの冒険者達には荷が重いのでは?」


 レシピに書いてある世界樹以外の材料は全てストロンガー家のダンジョン内で発見されているものだった。

 しかし、ベロニカはともかくジェシカ達の実力では難しいのではないかとレスは考えた。


「実力的に丁度いいと僕は思うけど?」


「いえ、コーサ様。確かにあの冒険者達の戦闘能力なら大半の材料はベロニカ様がいなくても調達してこれる代物です。しかし、問題なのはこの実です。」


 それはコーサにとっては大したことのない木の実だった。


「コーサ様はお忘れかもしれませんが、あの者らは外様です。この木の実がある階層は毒の霧が充満しているエリアです。私達なら難なく進める道でもあの者らでは命取りになる道すらあります。取ってくるのは死力を費やす必要があるでしょう。」


「あぁ、そう言えばそうだったね。」


 コーサ以外のストロンガー家の者達も忘れ気味になる。外様と自分たちとの耐性の違い。

 それはひと月やそこらでは埋まらない絶対的なものがそこにはあるのだ。


「ここはベロニカ様だけに頼んでそれ以外をあの者らに頼むのが良いでしょう。」


 レスはコーサにそう提案した。


「それもそうだけど、それだと後々面倒なことになるな。」


 コーサはベロニカがジェシカ達を気に入っていることは知っていた。

 この問題はこのまま一緒に探索すれば出てくる問題である。

 何か解決策がないと結局ベロニカがコーサに頼んでくる未来がコーサには見えていた。


「ガスマスクでも作るか?」


 でも、ストロンガー領にガスマスクを作る設備がなかった。

 ストロンガー領には誰もガスマスクなんて着ける場所ないのだから設備がなくて当然だった。

 今ある機材で作れないことはないが、作るのなら最高のものを作りたいというコーサの職人魂が言っていた。


「…………それならアルカディアに行ってみてはどうでしょう?」


 悩んでいるコーサにレスは意見を出した。


「アルカディア?」


「はい、あそこはコーサ様がエレスを解決するまでずっとガスマスクとかの防護服の製作にも力を入れていました。そこでならコーサ様が最高のガスマスクを作ることも可能でしょう。」


 入国許可もアイシャがしてくれる上に目的を聞いたら喜んで設備を整えてくれるだろう事もレスには分かっている上での提案だった。


「そうだな。報酬の世界樹もまだ貰っていない事だし、行くか、アルカディア。」


 こうして、コーサはレスと数名のメイドを連れてアルカディアに旅立った。

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