母
此処は屋敷の騎士達が日々訓練している訓練場。
そこに二人の女性が今のしている試合を見て話していた。
「ふむ、ワシの子供達をどうだ?ラバイ。」
自分の子供達の成長を執事の格好をした女性に聞いた。
「はい、お二人とも年齢からしたら凄まじい力を持っていてます。それを使いこなしてもいる。はっきり言いましてアマネム様に似て化け物に育つと確信します。」
「ワハハ!!そうだろうな!何せ種も苗床も優秀だからな!」
アマネムと呼ばれた豪快そうな女性は自分の子供達が褒められて上機嫌だった。
「その中でもコーサ様は凄いですね。2歳差のあるベロニカ様を攻撃を完全に見切っていらっしゃる。」
ラバイは二人とも凄いがそれでもコーサの方が凄いと言う評価をしていた。
ストロンガー家において成長期の2歳という差は力においてかなりの差があると言うのに格上であるベロニカの攻撃をコーサは今だに凌いでいた。
「それは違うぞ。ラバイ。」
だが、そんな評価をアマネムは否定した。
「どう言う事ですか?」
ラバイには自分がした評価が間違っているようには見えなかった。
「あれは見切っているわけじゃない。覚えているんだ。」
「覚えている?」
それを聞いてラバイはますます分からなくなった。
「そんなは筈はありません。私が知る限りコーサ様とベロニカ様が戦うのは今日が初めてです。それに戦闘訓練をしている時間帯も講師をしている騎士も違います。コーサ様がベロニカ様の動きを学習する時間はなかった筈です。」
屋敷にあまりいない自分の主人とは違い、執事であり執事長もしているラバイはアマネムへの子供の成長報告のため、ずっと見てきた。
だからこそ、コーサがベロニカの訓練を見学に来ていないことは知っていた。
「あれを見ろ。」
「窓?」
「あそこの窓はコーサが部屋に帰る時に通る廊下だ。」
納得していないラバイにアマネムは何故、コーサが知っているのかの根拠を話した。
「あそこから見たと言うのですか?そんなことはありません。コーサ様の身長では自然と覗くことは出来ません。誰か手を借りたりしない限り無理です。」
コーサがそんなにベロニカの訓練や騎士の訓練を見ていたら、戦闘に興味を持ち出したと報告が来るはずだが、そんな報告を受けたことはラバイにはなかった。
「ワシもそんな報告は受けておらん。」
ラバイはアマネムに直接、そのような報告が来たのではないかと考えたが、そんなことはなかった。
「だが、こう言う報告は受けた。コーサの覚えがあまりにも良い。とな。」
その報告はラバイがしたものである為、すぐにその報告書の内容を思い出した。
「確かに報告しましたが、それがどうしたのですか?」
コーサの講師担当騎士から報告を受けたラバイはコーサの訓練の様子を見たが、報告通りの覚えの良さと才覚を見れた。
「ワシが見るにコーサには戦闘の才は特出していない。」
「?」
それはストロンガー家にしてないと言うだけで他者からしたらコーサには十分な才が感じられた。
「あの子は頭が良い。脳筋ばかりと言われているストロンガー家からしたら異質なほどにな。あの覚えの良さは圧倒的な記憶力からくるものだ。そして、器用でもある。自分の才を足らない才を補うことが出来る。それぐらいあの子は賢い。」
ラバイはアマネムのコーサに対する評価に驚いていた。これでも人を見る目は屋敷一の自信があったが、そんな自分が勘違いするくらいに完璧に補っているなんて信じられなかった。
「それにベロニカの動きを見切っているにしてはコーサの動きは不自然だ。」
アマネムはコーサの戦い方に違和感を感じていた。
「…………ベロニカ様の攻撃がコーサ様に通用していないようにしか見えませんが?」
「分からぬか?あの子は避けてばかりだろう。」
「………」
ラバイは改めて試合を見てみると確かにコーサはベロニカの拳を避けるばかりで攻撃をしていなかった。
「気づいたか。相手の動きを見切っているのならカウンターを狙って攻撃をするはずだが、コーサは一切そのような動きどころか意思も見えない。」
コーサはベロニカに知らない動きをされたら負ける可能性が高くなる為、出来る限り記憶通りの動きになるように戦っているのである。
「まぁ、それでは訓練にならないことは分かっているから。もう少ししたらあの子も動くと思うが。」
ラバイは改めて自分の主人の凄さを知った。
少し見ただけで相手のことをよく理解したのだから。
これが、女ながらストロンガー家史上最強と言われる当主なのだと思った。