美しい花には棘がある
「てい!」
軽い掛け声とは違ってその場は凄惨な現場のように血みどろになっていた。
「凄まじいな。ストロンガー家の騎士は。」
「まぁ、カラはその中でも強い方ではあるわね。私の専属騎士でもあるからね。」
ジェシカは幻を消すように一瞬でダンジョンの魔物を倒すカラの姿はその実年齢より小さい身体からは想像できないチカラを示していた。
「どうしてこんな事に………」
ラナはいつもより騒がしいダンジョン探索にここまで来る事になった経緯を思い馳せていた。
「そんなの貴方達の他の仲間が退院出来ないのが悪いんでしょう。」
「諸悪の根源がない言ってんだ!」
ベロニカとカラがジェシカ達パーティと一緒に探索しているのはベロニカのバースデープレゼントになった訳ではない。
ただ、ベロニカに負わされた傷が癒えずに入院しているメンバーの代わりに来ているのである。
それなのに悪びれもせずそんな事を言うベロニカにラナは怒りを露わにしていた。
「それより、カラ!あまり単独行動するな!また、アルベルトに叱られたいの!」
「なっ!それだけは勘弁してください!」
さっきまで最前線で大暴れしていたカラは今ではベロニカの専属騎士だが、数年前まではアンベルトの隊に配属されていた為、今でも彼に叱られる事を恐怖していた。
「それに私は手加減したのにこの日になっても回復しない貴方達の仲間が軟弱なだけでしょう?」
「何ですって!!」
マリカが仲間を侮辱された事に怒ってベロニカにかの胸ぐらを掴んで怒りを表していた。
それはジェシカ達も同じだった。
「はぁ……離しなさい。さもないと、死ぬわよ。」
「マリカ。ベロニカを離せ。」
「なんでよ!ジェシカ!こいつは……」
ジェシカがベロニカを擁護するような言動をした為、マリカはベロニカを掴んだまま抗議しようと振り向こうとして気がついた。
自分の首にナイフが突き立てられている事を。
「ベロニカ様を離すのです。」
マリカにナイフを突き立てていたのはさっきまで魔物と戦って歩いて戻って来ていたカラだった。
いつの間にか自分達の前を歩いていたカラが自分の背後でナイフを突き立てている状況にベロニカ以外が驚いていた。
何故なら、マリカにナイフを突き立てるまで誰もがカラがいる事に気がついていなかった、
「いつの間に………」
「私に気がつかない程度の実力でベロニカ様に逆らうんじゃないです。」
「カラ、退きなさい。マリカ、次はないわよ。」
「マリカ、ベロニカに従って。」
ベロニカの命令に従ってマリカからナイフを下げた。
マリカもジェシカが怒りを抑えてと言う想いを汲んでベロニカを離した。
「全くこの程度で怒るとか短期なのね。」
「仲間を侮辱されて怒らない仲間はいないんだよ。ベロニカ。」
ジェシカもベロニカの発言を許した訳ではなかった。
決して、苦楽を共にした自分の仲間達は軟弱者ではない。
その事をベロニカに認めさせたかった。
「侮辱?私は事実を言っただけよ。貴方達は実力の割に身体が柔なのよ。だから、死ぬのよ。」
ベロニカはジェシカ達の仲間を侮辱したつもりは欠片もなかった。
ただ、自分が戦って感じた事実を述べただけだった。
その事は短い付き合いのジェシカにも分かっていたが、そうだからこそ、より侮辱に感じたのだ。
「あれぐらいならコーサのポーションで一発なのに。貴方達の身体には悪いみたいだしね。」
因みに、ベロニカの意見は一部あっているが大部分は外れていた。
確かにコーサ特製ポーションなら治るが、それは使った瞬間にポーション中毒を起こしてコーサ特製ポーションなしでは生きていけないほどの中毒症を起こすのである。
それにコーサ特製ポーションじゃないとすぐ治せない程深部まで深刻なダメージを一発で与えたベロニカにコーサは呆れていた。
「コーサさんはあんなにいい人なのになんで姉である貴方は邪悪なのですか。」
「お前は!お前でなんでコーサ君に絆されているだよ!」
マドリーがいつの間にかキラキラした目でコーサとの思い出に想いを馳せているのをジェシカはツッコんでいた。
ジェシカの仲間達はパーティ内で治療担当マドリーが看病をしていたのだが、病院で医師から薬師までしているコーサと関わる内に自分より年下なのにその圧倒的な治療技術と知識に尊敬の念を持つようになっていた。
「いや、ジェシカもいつの間にベロニカの弟の事を名前で呼ぶようになったんだよ。」
「そうーいえば〜」
前まで弟君呼びだったジェシカがしれっとコーサ君呼びに変わっている事をマリカがいち早く気がついた。
「そ、それは、ベロニカが仲間に怪我を負わしてしまったお詫びにって、お酒を届けてくれた上に色々と話も聞いてくれて………」
行ったことはないが、ホストクラブという場所では酒を飲みながら色々出来る場所が王都などの都市にあると言う話を聞いた事があったジェシカは密かに行ってみたいと思っていた。
でも、Aランク冒険者という肩書きやAランク冒険者パーティリーダーとして立場などがあって行くことが出来ていなかった。
だから、コーサを横に座らせて酒を注がせてたりと話に聞いていた事をされて舞い上がっていたのである。
しかも、コーサは美少女に間違えられるくらいの美形である。気分はNo. 1ホストを独り占めにしている気分だった。
そんな事が数回あってコーサに心を開き出していた。
「い、言えない!」
「ここまで言っておいて!」
流石にこれ以上は仲間にも言えない事だった為、黙秘権を行使していた。
「ベロニカ様。アイツら、見事にコーサ様に騙されていませんか?」
「そうね。堕ちるまで時間の問題ね。」
ベロニカのバースデーはもうすぐだった。