治験
「ふぅー、なんとか完成した。」
僕、コーサ・ストロンガー。6歳。
時が経つのは早いと言うけど、もう6歳である。
今、僕は自室を改造するのがようやく終わったところである。
「コーサ!入るわよ!!」
ノックをせずに豪快に開けたのは僕の姉、ベロニカである。
「もう少し加減して、ノックしてから入ってください。ベロニカ姉さん。」
「いいじゃない。別に壊したわけじゃないんだし。」
壊していなかったら、セーフだと思うあたり、ベロニカは完全にこの家に毒されているのだが、そんな事はどうでもいいコーサはそんな姉を見てため息を吐いた。
「まぁ、いいです。それで何ですか?こんな夜遅くに……」
今から寝ようと思っていたコーサはそれを邪魔しているベロニカに悪態をついた。
「コーサ、また、徹夜したわね。もう朝よ。」
ベロニカはそう言うと、部屋の扉の外を指差して言った。
そこには、人工的じゃない光が見えた。
「あっ、本当だ。」
一応、側に置いていた時計を見ると朝の9時を指していた。
「もう、カーテンくらい開けないよね。……窓はどこ?」
少しの照明だけの暗い部屋を見て日光を入れようと思ったベロニカはカーテンを開けようと部屋に入り見渡したが、そもそも窓が見当たらなかった。
「無くした。換気なら換気扇で十分だから。」
「はぁ……」
今度はベロニカが呆れる番だった。
「コーサ、貴方ねぇ……もうちょっと身体に気をつけた方が良いんじゃない?メイド達も心配していたわよ。」
突然ベロニカがコーサの部屋に来たのも、大きな荷物が届いてから3日の間、一度も部屋から出て来ず、入ることも禁止していた為、誰も確認することができなかった。
それを心配したレス含むメイド達がベロニカにコーサの様子を見る様に頼んだのである。
「あぁ、そうだった。誰も入れるなって言ってたんだ。」
「やっぱり忘れてたのね。」
レスが呼びに来たら一旦切り上げようと途中から考えていたコーサだったが、自分で入室禁止にしていた為、呼びに来る筈もなく、三徹してしまったのである。
「ほら、出るわよ。そんな事していたら、身体が鈍っちゃうわよ。」
「大丈夫だよ。薬飲んでるから。」
コーサはそう言うと、ベロニカに見えるように錠剤を手に取ってみせた。
「それ、コーサが作ったていう例の薬?試験薬って聞いていたけど?」
「うん、だから、自分の身体で治験している。」
6歳の子供が自室をこんなラボに改造出来たのも、コーサが前に子供の実験感覚で市販のポーションより味も効果も上回る代物を作ってしまった。
それから、自他共にコーサの才能に気づいて、研究出来る場所を作る事の許可をもらったのである。
そんなコーサが次に開発しているのが今持っている薬であった。
「たしか、筋肉が衰えない様にする薬だったかしら。」
「そうだよ。これさえあれば、筋肉が低下する老人もリハビリが必要だった重症な病人も直ぐに戦線復帰出来る様になる。」
危険な土地に囲まれたこの土地は文字通り常在戦場状態である。その為、怪我人も多く、場合によっては街や村を守る為に老人も駆り出される事も良くある。
そんな人達のために筋肉を増強ではなく、状態維持する薬をコーサは開発している。
「………筋肉増強薬は作らないの?」
話を聞いた感じだと筋肉維持薬は既に治験段階に進んでいて、後は予想通りの効果があれば完成である。
なので、ベロニカはコーサなら筋肉増強薬も作れるのではないかと考えた。
「作れるけど、オススメにしない。」
「何故?」
筋肉が力の全てではないが、筋肉のあるなしでも勝敗や取れる戦術にも効いてくる為、あった方がいいと言う考えである。
「筋肉はあればいいってわけじゃないって言うのは知ってる?」
「そんなの分かっているわ。オークとか正にそれの典型例じゃない。」
オークは人型の脂肪と筋肉で出来ていると言ってもいい姿をしている。
パワーはあるが、動きが鈍く遅い為、危険度は魔物の中では低い部類に入っている。
「そうそれ。適当に筋肉を増強しても消費エネルギーが増えて身体が鈍くなるだけだから。動ける人は適切な運動で筋肉をつけた方が効率も勝率も良いんだよ。」
「ふーん、そう言うものなのね。」
ベロニカは納得いく様な、いかないような感覚でいた。
別にコーサの説明に疑問に思っている訳ではない。ただ、何か隠しているようなそんな感覚にあっていた。
「そうじゃあ行くわよ。」
ベロニカはそんな疑問を奥にやってコーサを引き摺るの再開した。
「あれ?だから、今の僕には外に出る必要がないんだけど?」
さっきの説明で、ようやく寝れると思ったのに結局外に連れ出そうとしているベロニカに抗議した。
「コーサの薬が効いているか、試すのよ。それを試す為に運動を最低限以下しかしていないんでしょう?私が直々にその薬の効果を試してあげるわ。」
ベロニカはそう言ってコーサを引き摺りながら目的の訓練所に向かって行こうとした。
「いや、僕………三徹。」
「私達の身体はそんな柔じゃないでしょう。行くわよ。」
これ以上の説得は無理だと判断したコーサは少しでも楽に行こうとベロニカに引き摺られながら行くのであった。