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女エルフ騎士の独白

 私は由緒正しい騎士の家系に長女として誕生した。

 自分で言うのもなんだが、優秀だった。他の兄弟達より先に騎士の称号を頂いたり、凶悪な魔物にも打ち勝ってきた。

 その甲斐もあって第一王女の専属騎士に就くことができた。

 そこからも努力を重ねて先輩騎士が寿退社したことをきっかけに第一王女筆頭騎士になった。

 そんな私でも病に勝つ事はできなかった。

 理由は分からないが、太古に流行った病がまた流行したそうだ。これによって死者も多数出ている様だ。私の兄弟の中にも死者はいた。私が生き延びているのも騎士としての強靭な肉体と心があったからだ。

 それもただ悪戯に死期を伸ばしているにすぎなかった。

 もう、痛みでもがく事も苦痛を声に出す事も出来ずに病院のベットで死を待つだけだった私に仕える姫がやって来た。


「元気……なんて聞くだけ馬鹿らしくなる有様ね。」


 今の私の姿は白い炭がエルフの形をしている様な身体だ。これで元気なわけはなかった。

 皆、火葬をするを前から火葬後の灰になって死んでいく。わたしも明日生きているか分からない状態である。


「今、私の協力者がエレスの特効薬の実験をしているの。それで、貴方達、エレス患者に治験をお願いしているところなの。」


 要するにモルモットである。

 それでも座して死を待つより未来あるエルフのため、何よりに鎖国状態の我が国を開国しようとする我が姫は敵が多い。エレス治療を成功させれば次期国王になるのも夢ではなくなる。自分の主人の夢の礎になると言うなら喜んでこの身体差し出す覚悟はあった。


「でもね、私の協力者はヒューマンなの。」


 しかし、これを聞いた私は躊躇してしまった。

 エルフは他の人間種を特に嫌う種族である。平気で外交が出来る姫様が特殊なのであり、一般的なエルフは顔を見るだけでも嫌がる。

 そんなエルフが治療のためとは言え触診やヒューマンの作った薬品を体内に入れる事は死より嫌な事だった。


「貴方もわかっていると思うけどこのままじゃエルフは滅んでしまう。潔癖によって絶滅なんて未来の人々に笑われてしまうわ。そんなの私は嫌なの。」


 姫には姫の考えがあった。

 種の存続のため、今の自分達は我慢しないといけない。

 それが姫の答えだった。


「でも、誰からも同意は得られなかった。エルフの問題はエルフが解決するの一点張り。愚かとしか言えない愚策。」


 エルフもただ死の順番が回ってくるのを待っていたわけでは無い。全てのエルフの科学者がエレス解決に向けて研究していた。

 だが、一向に成果は上がっていなかった。


「今回のエレスは古代とは違うと思うの。唯の勘だけどね。」


 姫は笑みを浮かべながらこっちを見ていた。


「私は密かに隣国の公爵令嬢と外交しているの。そこからの情報でヒューマンに非凡の才を持った少年が産まれたらしいの。私は彼に賭けるかとした。実際に見て確信したの彼は他の凡人とは違う。必ず成功させる。それだけの才を感じた。」


 姫の表情は今まで見たことがない陶酔した様な顔を見せていた。


「この繋がりは必ず私の将来を明るく照らす。他の全てを犠牲にしても必ず彼を手に入れる。彼の価値は青天井よ。」


 姫の中ではもうエレスは解決したと考えているのだろう。

 騎士は気になった。姫をそこまで夢中にするヒューマンとはどんな姿をしているのか。それだけの価値がヒューマンにあるのか。


「ラッナも興味を出してくれた?そこでもう一回聞きます。我が騎士ラッナ、私の、エルフの未来の為の実験に参加してくれますか?」


 もう表情も分からなくなっている筈の私の感情が手に取るように分かっている姫は私がその者に興味が生まれた瞬間に聞いて来た。

 多分、元から私以外からの元に届けるつもりがなかったのだろう。

 私はまだ、そのヒューマンに期待も信頼もしていないが、姫の勘は当たる。

 それに信頼と期待を乗せる事は簡単だった。


「ありがとう。協力感謝するわ。」


 姫は私に感謝を述べるとすぐに病室から出て行った。


 その後は一瞬だった。

 棺桶の様な箱に詰められて運ばれた。

 何回も馬車を変えてながら運ばれた私の入った箱は数日して目的の場所に届いた。

 その間の食事などは必要なかった。元々、食事はもちろん、栄養をとる事も既にできない状態になっていた。

 明らかに獣ような凄まじい気配が箱の外から伝わって来ていた。それも複数、何十では効かないほど数多の強者の気配が箱を包んでいた。

 そして、箱が開かれて久しぶりに光を浴びて眩しく感じたが、眩しがる事は出来なかった。

 メイド服着ているからメイドではあるだろうが、防護服を着ないでエレスは移らないのかと心配してしまう。


「レス、治験者が届いたって聞いたけど、それ?一人だけ?」


「はい、コーサ様。アイシャ様から届いたのはこの方だけであります。」


「そっか………まぁ、いいや。どうにかなるでしょう。」


「それにしても良かったのですか?私達は防護服を着なくて?」


 レスと呼ばれるメイドが姫が言っていたヒューマンであろう人物に質問していた。

 私も気になっていた。何故、防護服を着ないのだ。


「要らないよ。エレスはエルフだけの感染症だ。ヒューマンが罹ることはないよ。まぁ、用心して消毒とかはしたほうがいいだろうけど防護服とかは実験の邪魔になるからね。」


 知らなかった。エレスとはエルフだけの感染症だったのか。


「それにしても、見事に炭になっているね。生きているのが不思議に思える。」


 こちらを覗くように私を見る少年を視界に入れた瞬間、分かった。これには逆らったらいけない。あれは生物を超越する存在だと、媚び諂ってでも気に入ってもらわないと死より恐ろしいことになると長年の経験も鍛えられた本能も警告を大声で必死に言っていた。


「あれ?いま、震えた。痛いのかな?」


 痛みで震えたわけじゃない。そんな事で身体が動く事はもうない。これは本能が無理矢理反射させて身体を震わせている。


「まぁ、いいや。実験を始めよう。」


 私は助かるだろう。姫の言う通りエルフはエレスの恐怖から解放される。

 それを圧倒的に超える恐怖によってエルフは救われるのだ。

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