茶会
「それで?エルフの姫様がこんな辺境の地になんの御用ですか?」
「私の事はアイシャで良いですよ。コーサ様。」
そんな事を言う姫の隣で睨む護衛の姿を横目に見ながらコーサはそんな微風以下の殺気を無視して話を進めた。
「アイシャさん。何の御用ですか?」
「はい、コーサ様。貴方様には私の国に伝わる薬を完全再現して欲しいのです。」
「再現ですか?」
コーサに名前を呼ばれて笑顔になったアイシャはこの地に来た理由を話した。
「はい、再現です。今、私の国ではある伝染病が流行っているのです。それは古代に絶滅した筈の病気である事が学者たちによって判明しました。」
「つまり、その病の特効薬が古代にあった事も分かったが、材料は既に絶滅したものばかりだから。僕に現代の素材で特効薬を作って欲しいと言う事ですね。」
「えぇ、その通りです。理解が早い人は大好きです。」
まるでこちらを試すような物言いに今度はこちらのメイド達が殺気出してきた。
アイシャもそんなメイド達を無視して話を進めた。
「分かりました。報酬次第で受けます。」
「決断も早いですね。貴方は何を求めますか?もしかして私ですか?」
「ひ、姫様!!」
コーサはここからが交渉の本番だと思って本腰を入れ出した。
そんなコーサに何でもあげるという風な言い方に護衛である騎士の方が驚いていた。
「そんなの要らない。」
「き!貴様!」
「動かないでください。」
自分の仕える姫が馬鹿にされたと思った騎士の一人が腰にかけた剣に手を伸ばしたが、メイドの一人がそれを件の騎士の首にナイフを当てて制止させた。
「この程度で騎士なんて笑えますね。」
「殺す!」
嘲笑を浮かべるメイドの煽りに騎士は怒り心頭で今にも殺し合いが始まりそうになっていた。
「カエラ、やめなさい。」
「メルデもね。僕も大丈夫だよ。」
二人の主人によって下僕達は怒りを沈めた。
「命拾いしましたね。」
「お前こそなっ!」
「ハっ!」
鼻で笑うメイドに騎士はまた怒りを見せるが、アイシャからいい加減にしろという空気を感じた為、怒りを無理矢理殺した。
「それでは話を戻しましょう。」
「そうですね。僕が欲しいのは貴方の国ある世界樹の木片と葉が欲しい。」
「ふざけるなよ!!ガキがっ!」
エルフにとって聖域にある世界樹は信仰の対象だけではなく、世界の遺産だった。
それを木片だとしても欲しいというコーサに怒りを一瞬にして限界突破した騎士達全員が掛かってきたが…………
「さぁ、アイシャさん。どうですか?」
「ぐっ!どうなっている!ぐはっ!」
「魔力で強化された刃が通らない!なにっ!」
「凄いですね。コーサ様は本当に人間ですか?」
コーサを殺そうとした騎士だったが、コーサの薄皮も傷つける事もできなかった。
コーサは騎士達の攻撃を何も無いかのように話を進めていた。
やり過ぎてしまいそうな後輩メイドを抑えながらメイド達も一瞬にしてコーサに攻撃を加えた者を一撃で沈めていった。
これにはさっきまでニコニコ笑みを浮かべていたアイシャも冷や汗をかいていた。
「人間ですよ。ただの環境の違いです。」
「環境の違いだけでそうはならないと思いますが?」
「コーサ様、このゴミをどうしますか?」
倒れた騎士達を先輩メイドから解放された後輩メイドは死体蹴りをするかの如く蹴りながら聞いてきた。
「うん?どうでもいいけど………アイシャさんはどうして欲しいですか?」
こんな雑魚い騎士が生きようが死のうが心底どうでも良かったのだが、交渉に利用できるのでアイシャに尋ねた。
「そうですね。まずは私の騎士達が無礼を働いた事を倒れた騎士達の代わりに謝罪します。」
エルフにとって土下座と同等な謝罪方法である相手にエルフの特徴である長耳を見せるお辞儀をしていた。
「はい、受け取ります。」
「あっ、ありが、とう、ご、ござっ、います。」
謝罪を受ける場合は長耳を触る事を知っていたコーサはアイシャの耳を触り許した。
身体の中で最も敏感な部分でもある長耳を触られているアイシャは羞恥と快感に震えながらお礼を言った。
「それで僕の条件は飲めますか?」
「はい、良いですよ。」
「ひ………姫様……いけません……部外者………それも人間に彼の地のものをやるなど………」
姫の決断にいち早く意識を回復させた騎士が意見した。
「黙りなさい!クラウス!貴方達のせいで私は恥辱を受けたのです!これ以上私に恥をかかせるな!」
「ぐっ!も、もう訳ありません。」
アイシャもこれまでの騎士達の言動に思うことがあったのかコーサ達が居る前で激昂していた。
「ふふ、僕は構いませんよ。主人想いのいい騎士ではありませんか。」
「くっ!」
コーサにとってさっきの攻撃は蚊に刺された以下の事。そんな事で交渉が有利に運んだ事を思えば騎士達に嫌悪を向けるどころ感謝すらしていた。
それを感じていた騎士は怒り心頭で顔が真っ赤であったが、これ以上主人に恥をかかせるわけにはいかない為、黙り込んだ。
「それでは今回の茶会はこれまでにして、どうです?この後。食事でも?」
「あら、それは楽しみですね。」
さっきまでの怒りはどこへやらコーサに顔を向ける時には笑顔に変わって返事をしていた。
今回の訪問はアイシャがストロンガー領に旅行に来ているだけであり、今回コーサとここであっているのも茶会で親睦を深める事を理由に屋敷に来た事になっている。
コーサはこれからも茶会を交渉場の隠語にしていこうと密かに思っていた。