B1成功
「ついに、ついに!コーサ様が!研究を成功させたぞ!!」
そう叫ぶのはバラカイナ草の研究用農地を担当している農家の男だった。
「どうしたんだ?サム、そんなに慌てて?」
「だから、ついにやったんだよ!」
「何が?」
興奮しまくりの男を宥めながら一緒に働く男が尋ねた。
「だから、成長していたんだよ!バラカイナ草が!!」
「嘘だろう!マジか!!」
それを聞いた男も騒ぎ出した。
そんな男達の声を聞いて仕事仲間達が集まってきた。
「どうしたんだよ?こんな朝っぱらから?」
「コーサ様の研究が実ったんだよ!バラカイナ草が新芽から成長したんだよ!」
「なっ!なんだてー!!!」
それから農地は大騒ぎだった。
そして、落ち着いた人達は屋敷にコーサを呼びに走った。
「へぇ、本当に成長している。」
「コーサ様、これで………」
「あぁ、僕の考察は正しかった事になった。これで後は量産体制を進めたら一気にこの領地は活性化する。」
農民に言われてきたコーサが見たのは成長したバラカイナ草の姿だった。
「そうなんです。コーサ様から新しく頂いた種と肥料にしたら育ったんです。」
農民は前まで育てていたバラカイナ草の種ではなく、コーサから新しく頂いた種が特殊なんだと確信している。
でも、それは品種改良したものではなく何か細工したものだと思っている。
「それではこれを発表するのですね。」
「そうだな。育った事は発表するよ。」
「それはどうして?」
コーサは全てを発表する気は最初から無かった。
その事をレスは不思議に思った。全てを発表した方が立証されたことを早く認めてくれる。
「このまま発表して誰でも作れるようにするより種や肥料を売った方が儲かるからね。」
コーサが種に仕込んだ細工もその方が上手く機能するのだ。
「ですが、それでは………」
「他家からの印象は悪くなるだろうが、そこはどうでも良い。」
「それはどうして?」
レスは今のストロンガー家にとって他家と抗争するのは得策には思えなかった。
ストロンガー家はどの貴族より強いが、自領を護るのに精一杯である。
「言っただろう。バラカイナ草は僕にとって通過点。この草一つに争うより良い関係を築く方が良いと思わせれば良い。」
それは圧倒的な強者の考えだった。
まだ、9歳の子供がする考えでは無かった。
「それよりこれによる魔物による被害は?」
「はっ!既に1週間で10頭の魔物が現れ、内6頭はこちらに攻撃、バラカイナ草を奪おうという動きがありました。」
魔物の嗅覚は人より圧倒的に高い。平均で五倍はある。
その為、この地にバラカイナ草がある事を察知した魔物が視察に来たのである。
襲ってきた魔物は怪我を負って、すぐにでも回復をしたかったのだろう。自然界では少しの怪我でも命取りである。それにこの地は弱った弱者を安全に回復するのを待ってくれるほど優しくない事を魔物達が一番理解している。
だから、危険であってもバラカイナ草を求めて襲ってくるのである。
「やっぱり、バラカイナ草の栽培には難しさ以上の危険があるな。」
「そうですね。ここは騎士を常駐させた方がいいんじゃないですか?」
人里付近に建てた研究用農地である為、まだそこまで強くない魔物しか来ていないがこのまま領内で生産するには効率的にダンジョン街付近に建てるとしたら危険度は怪我で弱った魔物だからこそ跳ね上がるのである。
「そうだね。この地はともかく他でとなると騎士クラス複数人がいないと厳しいな。」
だが、一つ、二つならともかくより多くの回復薬を作るとなると流石に騎士の手が足りなくなる。
それに1週間で10頭が多いのか少ないのかのデータがないから分からない。
これが多い場合は問題ないが少ないとなるとより人手がいる事になる。
「さてどうするか?流石に草とは違って実力者はポッと産まれる訳がないしな。」
コーサは困っていた。
どうやっても徐々に増やしていっても最終的な限界生産量が変わらない。
「それならマリア様の成長に賭けてみるのはどうでしょう?」
「………マリアか。」
マリアとは三年前に産まれたコーサの妹である。
「マリア様の統率と支配で騎士の人手の足りなさを補うのはどうでしょう?」
「うーん。確かにそれなら人手が足りるけどね………」
「何か問題でも?」
この領地では飼っている動物達も強い。
牛や鶏に関してもこの地では大昔から常に魔物のストレスに怯えさせられる状態だった。
その為、牛や鶏はどんな事があってもミルクや卵の生産量は落ちない不動の心を産まれつき持っているのである。
因みにこの地に養豚はいない。食肉がメインな豚を毎日戦う魔物で肉を確保できる地に養豚は流行らなかった。
代わりに羊や兎は家畜化されている。
「マリア………苦手なんだよな…」
借りを作ったら面倒そうだと言うコーサにメイド達は不思議がっていた。
メイド達からしたらコーサ含めた他の兄妹達より赤ん坊の頃から大人しく穏やかな子というイメージだからだ。
「けど、そんな事も言ってられないし、他に手がなかったらそれにするよ。それより早速商人と交渉してくるよ。」
「良いんですか?もう少し研究してからでも良いんじゃないですか?」
今回はまだ1回目の成功である。
まだ、偶々成功した可能性がある為、もう少し待ってからでも良いのではないかとレスは思った。
「良いんだよ。どうせ、卸すのはもっと後だ。今のうちに贔屓にしている商人に話を持ちかけた方が今後のことを考えたらこっちの方がいい。」
そうして、コーサは農地を後にした。




