なんか転生した。
私は考察を見るのが好きだった。
誰もがその人や話について熱狂し意見を出して話し合う姿が好きだった。面白かった。
いつしか自分自身が考察の対象になりたいと思うようになった。その為には有名にならなくてはいけなかった。
でも、自分は凡人だった。どんなことも凡庸であった。天才にも努力の天才にも生涯なる事はなかった。
そんな自分を考察する者はいるはずが無かった。日々は努力したおかげで幸福であり、人より裕福にもなった。それでも終始夢が叶う事なかった。
「コーサ様!何処ですか?!!」
そんな自分も並々ならぬ努力が認められたのか、死後転生する事が出来た。
別に神に会った記憶はないが、多分、神はいたと思っている。
「コーサ様、また此処ですか?」
前世とは違い、貴族の家庭に生まれた。
それも辺境伯という比較的上の地位の貴族だった。
前世では神なんて信じてなかったが、これほど自分の願いが叶えるための土壌を得られる。そんなの小説なんかの異世界転生しかないだろう。
地位は掴める。この身体は才もある。
後は、考察される為の努力のみである。
「コーサ様はまだ赤ん坊なんですから。書庫で勉強するにはまだ早いです。」
本が倒れてきたら危ないです。と言って私を持ち上げるのは、私の専属メイドであるレスだ。
さっきから私を探してあっちこっち行ってたようで明らかに疲れている。
「コーサ様は元気ですね。コーサ様の姉君であるハーラン様は赤ん坊の頃は大人しかったと聞いてましたのに……」
ほぼ愚痴を私が理解していないと思い話すレスであったが、私は既にこの国の言語を習得済みである。
産まれて三ヶ月で言語習得出来た。
露骨に話しかけるのに反応したり、笑顔になったりして相手が自主的に自分に話しかけるように餌をばら撒いていた成果である。
「本なら自室で私が読み聞かせますから。戻りますよ。」
レスは赤ん坊が本を読む真似事をしていると思っているだろうが、幼児向けに出てくる単語は習得済みである。
なので、さっきの本は………
「しかも、これは辞書ですよ。私ですらあまり触った事がない本なのに赤ん坊にはまだ早すぎます。」
辞書、単語の勉強に最適な本と言っていい物である。
それにしても、レスはあまり頭は良くなさそうである。
なんでもこの辺境伯領は東西南北をダンジョンという魔物と宝物自動発生機があり、南西が魔族領と北東が未開の地に囲まれている土地であり、自国よりその二つの方が接地面積は大きいという立地な為、開拓時からずっと顔採用ならぬ実力採用でやってきた。
その為、レスにしても確かまだ10歳という若さなのに当主の息子の世話を任されるという事は実力は計り知れないものを持っているのだろう。
「あっ、蚊。」
レスはそういうと手刀というか指で小さい蚊を真っ二つにした。
「いや、ですね。最近は暑くもなってきました。」
このように、生前だと見る事が出来なかったおかしな芸当も此処では普通のようだ。
そして、小さい蚊が真っ二つになっているのを綺麗分かった自分の目も生前では考えられない精度である。
「さぁ、コーサ様。もう脱走してはいけませんよ。」
レスは私をベッドに寝かせると部屋から出て行った。
レスが私の専属メイドだとしてもまだ私は赤ん坊である。レスの仕事は私以外の仕事も少しは割り振られている。
生前では考えられないが、このベッドには落下防止用の柵はない。理由はさっきも言った通り、遺伝子レベルでこの土地の者の身体が強い上に元々この土地のトップは実力者ナンバーワンがなる決まりだった為、辺境伯の一族はこの土地の中でも最も強い肉体を生まれながら持っている為、ベッドから落ちたくらいでは死なないどころか怪我もしないのである。
……………やはり、まだ赤ん坊である。少し頭を使っただけで眠くなる。
どうせ、レスが来たら起きるだろうし少し寝るとしよう。
「コーサ様。居ますよね。あら?」
レスは赤ん坊ながらノックをした返事をするコーサから返事が返ってこない事を不思議に思い静かに扉を開けた。
「ふふ、ホント、寝顔は可愛いんですよね。」
いつもあっちこっちに行ってしまうコーサに疲れているレスであったが、いつもコーサの寝顔を見たらその疲れも吹っ飛んでいった。
「おやすみなさい。コーサ様。」
レスはコーサに布団を掛け直すと静かに部屋から出て行った。