突入、体内のダンジョン
ドゥーの町の牢屋に投獄された遊大は、天井を見上げてため息を吐く。
「折角地球に帰れると思ったのに……。素直にジョルクスの言う事聞いてれば良かった」
後悔し俯いていると、突然牢屋が揺れ出し、徐々に揺れが大きくなっていった。
「な、何だ!?」
「慌てるな遊大」
牢屋の外から声を掛けられ振り向くと、そこには衛兵に抱えられたジョルクスがいた。
「ジョルクス!? 何で……? その兵士は?」
「こいつはあの時、俺を捕らえた衛兵だ。捕まった時、こいつに催眠魔法を掛けたのさ」
「催眠魔法、そんなのも使えるのか」
「そして一度捕まったフリをして、こいつを操り封印の宝玉をさっき壊した。つまり……この揺れは、ギガンドス復活を表す!」
衛兵が鍵を使って牢屋の扉を開けると、遊大は牢屋から出てジョルクスを手に持つ。
「さぁ、最後の封印獣の魂を手に入れられることを祈ろうぜ」
――――――――――――――――――――
空からギガンドスの様子を見に行ったリューラとウィドが、深刻な顔で戻ってきた。
「間違いねぇ。ギガンドスが起きやがった」
「12時になってないのに目覚めたのは……やはり復活してしまったか」
ジーリュの言葉に俺達は困惑する。
ジョルクスと荒井は投獄されたはず。なのにどうして?
「おーい! エレメンター殿!」
衛兵の兵長が俺達の元に慌てた様子で駆け寄ってきた。
「どうしたんじゃ?」
「先ほど確認したところ、封印の宝玉が破壊されていた」
「やはりか……」
「捕らえた荒井とジョルクスは?」
「それが……」
兵長が言おうとすると、地面から顔を出したギガンドスが上を向くと口を開けて大きな咆哮を上げる。
『ウオォォォォォォォォォォォン!!!』
咆哮で周囲の木々や岩山が吹き飛び、町の窓も次々と割れていく。
「うおぉぉぉうるせぇぇぇぇ!!」
鼓膜が破れそうなとんでもない大声量に俺達は必死で耳を塞ぐ。
「話は後じゃ! 今はギガンドスを何とかせねば!」
「何とかってどうやって!?」
「前にも話した通り、こいつは世界最大のゴーレム。つまり体内の魔石を破壊すれば倒せる」
「だからその魔石をどうやって壊すんだよ?」
「決まっておる。体内に入って壊すんじゃ」
ジーリュはギガンドスの顔を指差して言う。
「つまり、口の中に入って僕達が魔石を壊しに行くって事?」
「嫌ですわ。生き物の体の中に入るだなんて」
「大丈夫よ。前にも言ったでしょ? ギガンドスは巨大なダンジョンが魔石の力で生まれたゴーレム。だから体内はその巨大ダンジョンよ」
「ダンジョンを進み、一番奥にある魔石を破壊すればギガンドスは活動を停止し、体が崩れる。倒す方法はそれしか無い」
「倒す方法は分かったけど……」
俺は慌てふためいている町の人達に目を向ける。
「まず町の人達をどうにかしないと」
「そうよね。もし倒した時に町に人がいたら体の崩壊に巻きこまれちゃうわ」
「うむ。確かに、町から避難させた方が良いが……全員を避難させてからじゃとその間に大きな被害がでるかもしれん」
確かにこんなに大きな町の人達の避難なんて時間がかかる。
避難の間にも大きな被害が出るかも知れない。
「では折衷案はどうでしょう? 避難を行いながらダンジョンをも進む」
フィーズが突然言い放った案に俺達は首を傾げる。
「でもどうやってそんな事を?」
「僕達は体の中に入ってダンジョンを進んでいる間に、召喚獣に避難を任せるんです」
「む~……時間もあまりない。今はその案にかけてみるか」
フィーズの提案に乗り、俺達は行動を開始した。
まず全員の召喚獣を呼び出した後、避難を手伝うためジーリュ、ヒレア、小森先生は残り、俺達はライトドラゴン、青龍、フェニックス、スカイイーグルに乗ってギガンドスの顔に向かった。
「近づくと本当にデカいな」
全く全体が見えない顔に近づくと丁度開いている口に向かい口の中に入る。
口の中は確かに生き物というより洞窟だな。周りが地面だもん。
「ライトドラゴン達は町の住民の避難に行ってくれ」
ライトドラゴン達に指示すると町の方へ飛び、俺達はダンジョンの入り口でもあるギガンドスの口の奥に目を向ける。
「じゃあ行こうか、ダンジョン攻略」
ギガンドスの口の中を進むと、本当に洞窟の様で驚く。
「とても生き物の中とは思えねぇな」
「まぁゴーレムだしね。それより早く進もう」
俺達は奥に続く大きな洞窟、多分首の中だと思う場所を進む。
長い洞窟(首)をしばらく進んでいると、奥に石で出来た大きな門があった。
「なんだこりゃ?」
「恐らく、この門はダンジョンの入り口だと思われます。ギガンドスの大きさとここまでの距離から推測いたしますと、ここは首の付け根辺りと思われます。顔、首、脚、尻尾は周囲の地面から形成された物と思われ、胴体がダンジョンになっていると思われます」
「胴体だけでも十分バカデカかったぞ」
「とにかく入ろう」
俺達は門を通り進むと、五つの通路に通じる部屋に出た。
「これは……分かれて進むしかないようだな」
「そうね」
「じゃあ行こう」
先に進もうとするビトの襟首をリューラはガシッと掴み、ビトは「ぐえっ!」とえづいた。
「進む前に、ジーリュから聞いたこのダンジョンの事をおさらいするぞ」
口の中に突入する前に、ジーリュから聞いたダンジョンの情報を俺達は振り返った。
このダンジョンの一番の特徴。それは意思がある事。
構造がどんどん変わっていき、入ってきた者を迷わせ魔石に近づけないようにする。
更にここには魔物が出てくる。魔物と言っても出てくるのはゴーレムだけらしいけど。
そのゴーレム達は、ギガンドスの魔石から溢れた魔力で生まれるため、中に魔石が無いらしい。だから倒すにはある程度破壊しないと倒せないとの事。
当時のエレメンターは構造が変わるダンジョンと無限に生まれるゴーレムに苦戦し魔石まで辿り着けなかったらしい。
次々と色んな町や村が破壊されていく為、これ以上の被害を出さないため結局封印する事にしたそうだ。
「無限に生まれるゴーレムか。メンドくせぇな」
「構造が変わり、方向感覚が分からなくなりここに何度も戻されたと言っていたが、それでも進むしかないだろう」
「そうだな。それで、どうやって分かれるか?」
俺達は全員で18人に対して通路は五つ。
三、四人ぐらいで分かれた方が良いかな?
そう考えていた次の瞬間、部屋の中央付近の床がせり上がり天井にくっ付くと、せり上がった地面が広がり俺達はそれぞれ通路の方に押し出されてしまった。
『うああああああああっ!?』
――――――――――――――――――――
「うぅっ……」
起き上がった俺は辺りを見渡すと、さっきの五つの通路の内の一つにいた。
一緒に押し出され、倒れているレインとレイフを起こした。
「痛たた……ここは?」
「通路の一つだ。多分、動いたダンジョンに押し出されたんだ」
「戻れないんですか?」
「無理だと思う」
入り口はせり上がった地面に塞がれ、ライトカリバーで斬ろうとすると予想以上に硬くて弾かれてしまった。
「やっぱり駄目だ」
通話機で連絡を入れてみようとスイッチを押すが反応が無い。
確かこれ魔力を使って通話出来るから、魔石のせいかな?
「通話機も駄目だ。進むしかないね」
「そうね。きっと皆も魔石へ向かってるはずよ」
「そうですわね」
光の玉を出して暗い通路を照らし俺、レイン、レイフは先を進む。
「…………ねぇ。歩きにくいんだけど」
「ほら。勇也歩きにくいって言ってるじゃない。離れなさい」
「私暗いの苦手なんです」
レインとレイフが俺の腕にしがみ付きちょっと歩きにくい。そしてちょっと恥ずかしい。
しかも二人の胸が思いっきり腕に当たってるから更に恥ずかしい。
「ん?」
「どうしたの?」
「あれって」
前方に何かを見つけた俺に続いてレインとレイフが目を向けると、前方から体が石で出来た蜥蜴の魔物がやって来た。
「もしかして、あれってゴーレムか?」
「そうじゃないの? ここにはゴーレムしか出ないって言ってたし」
蜥蜴の魔物は一瞬止まると走りだして飛びかかり、二人が腕から離れると俺はライトカリバーを抜いて弾き飛ばした。
「硬い。普通の攻撃じゃあんまり効果無さそうだ」
再び蜥蜴の魔物が飛びかかると、今度は刀身に光のエレメントを乗せて斬ると首を斬り落とした。
「良し……って、え!?」
首を斬られたにも関わらず蜥蜴の魔物は動き出し再び襲い掛かる。
俺は盾で弾き返すと、ライトカリバーを振り下ろして真っ二つに斬った。
しかし蜥蜴の魔物はまだ動く……が、真っ二つに斬られたからか立ち上がる事が出来ず、光の玉を当てて粉々にした。
「魔石が無いとこんなに倒れないもんなのか」
「勇也さん、あれ……」
レイフが通路の奥を指さし振り向くと、さっきと同じ石の蜥蜴の魔物の群れに加えて、石で出来たゴーレムが三体いた。
「まだ進み始めたばかりなのにこんなに……」
「これは……魔石に辿り着くまで持つかな?」




