捕縛、連行
衛兵に見つからないように、遊大は隠れながら封印の宝玉へと進んでいた。
「この先に宝玉があるんだよな?」
「ああ。慎重に行けよ? 今の俺では魔法に制限があるんだからな」
「分かってる」
衛兵が通り過ぎると、遊大は隠れていた植木の裏から出て少し進むとすぐに近くの木箱の裏に隠れる。
「意外と警備が薄いな。これなら楽勝だ」
「……」
遊大の言葉通り、警備の衛兵がレリードの町よりも少なく、ジョルクスは不思議に思った。
(何故だ? 最後の封印獣だから警備はこれまでより厳重のはずだ。手薄すぎる……何処かに隠れてるのか? クソッ、今の状態では探知魔法が使えんから分からんな)
「おっ、こっから先いねぇじゃん。一気に行こうぜ!」
「お、おい待て――」
ジョルクスの言葉を聞かずに遊大は走りだした。
ジョルクスは止まるように何度も言おうとするが、走ってる時の揺れで上手く言葉を発せられずにいると、遊大は前方に幾つもの鍵が付いた鉄の扉の小さな建物を見つけた。
「あれだな!」
「だから待――!」
故郷に帰れるという思いが強まったからか、遊大は聞く耳を持たずその建物へ向かって走り、目の前まで来た時だった。
「おらぁぁぁ!!」
すぐ横の建物の屋根から飛び降りてきたウィドに、遊大は押さえつけられた。
「のあっ!?」
「うおおっ!?」
押さえつけられた拍子にジョルクスは手放され地面に落ちると、周囲の建物の中や陰から大勢の衛兵が出てくると遊大に向けて槍を向け、衛兵の一人が落ちたジョルクスを拾う。
衛兵達に続いて、勇也達エレメンターもやってきた。
「よぉお前等、捕まえたぜ」
「うむ。よくやったウィド」
押さえつけられた遊大は衛兵に捕まられると手錠を掛けられ、ジョルクスは縄で縛りつけられた。
「荒井君、どうしてこんな事を?」
「先生……」
心配そうな顔で話しかける林子に、遊大は視線を逸らして黙り込む。
「久しいのうジョルクス」
「ジジイ……やはりあの警備の薄さは罠か」
「その通りじゃ。これまでから、恐らくビトを警戒していると思ってな、ビトを一度宿に戻したんじゃ。そしたら、ズーム機能でお主等を見張っていたクロエから案の定お主等が動き出したと聞いてな」
「そして、あえて警備を手薄にして油断したところを捕まえる……か。チッ、だから待てと言ったんだ。使えねぇガキだ」
ジーリュと話した後、ジョルクスと遊大は衛兵に連行されて行った。
連行される遊大を見て、林子は衛兵の兵長に話しかける。
「あの……荒井君と話は出来ないんですか?」
「すまないがすぐには無理だ。彼は重罪人に認定されたからな。後日、王都に連行されることも決まっている」
それを聞いた林子は、俯いて落ち込む。
連行用の馬車に遊大とジョルクスは入れられ馬車は町の牢屋のへと走っていった。
連行中、ジョルクスは口元をニヤリと歪ませる。
――――――――――――――――――――
荒井とジョルクスを捕らえた翌日、俺達は宿の一階に集まった。
「今回は復活を阻止できたし、人面本も捕まえたし、一件落着だな」
機嫌良さそうなエンに対して、小森先生は未だに元気が無い。
自分の生徒である荒井が大罪をしたことをまだ引きずってるみたいだ。
「林先生、まだ荒井君の事引きずってるの?」
「……はい。理由は分かりませんが、どうして犯罪者と一緒に行動していたんでしょう……?」
「すぐに面会は出来ないって兵長が言ってたよな?」
「うむ。後日王都に連行されるらしいからのう。話をしたいんじゃったら、王都に連行されてからじゃな」
そう言った後、ジーリュは顎に前足を当てて何か考え込んでいる。
「どうしたの?」
「ジョルクスが封印獣を解いていった理由を考えておった」
「は? そんなの封印された恨みとかじゃねぇのか?」
「そうだと思うんじゃが……ちょっと不明な点があってな」
不明な点? 一体何だろう?
「もし世への復讐などならば、封印獣を復活させたらすぐに次の封印獣の元へ行くはずじゃ。じゃが、マグマオロチを倒した後に城下町でジョルクスと荒井が目撃されたという話を耳にした時何故かと思ってなぁ」
「そう言えばそんな事聞いたな。あ~、確かに何であの時いたんだろう? 俺達が戦ってる間に次の町へ向かえば良いはずなのに」
「これまで目撃された場所と時間を考えると、これまでの封印獣の時も戦っていた間その町にいたのではないかと思う」
戦っていた間まだその町にいたんなら、どうして次の封印獣の元に行かなかったんだ?
封印獣が倒されるかどうか見ていたのか?
「……これはワシの予想じゃが。奴の目的は封印獣の解放ではなく、封印獣が倒される事ではないのか?」
「何でだ?」
「封印獣を解放し、世への復讐が目的ならワシ等は邪魔のはずじゃ。封印獣と戦い終わった後、疲労したお主等をその隙に倒すはずじゃ」
「確かにそうだな。疲労した私達を襲わないのは変だ」
そう聞くと目的が分からなくなってきたな。
捕まえたから目的は阻止出来たけど、一体何を企んでたんだろう?
俺はテーブルの上にある茶の入ったコップを取ろうとすると、コップがカタカタと揺れ、テーブルと椅子、更に宿が揺れ出した。
「おい、揺れてるぞ」
「でもまだ10時だぞ? 時間じゃ無いだろ」
宿の時計を見ると、まだ10時を過ぎたばかり。
ギガンドスが起きるには二時間早い。
しかし揺れはどんどん大きくなっていき、初めてギガンドスが起きた時と同じぐらいの揺れの大きさだ。
窓の外から、町の人達が戸惑っているのが見える。
揺れは大きくなり、俺達は椅子から降りて地面に座ると、町がせり上がっていく。
「ねぇ! もしかして、ギガンドスが起きたんじゃない!?」
「じゃが起きるには早すぎ……まさか!?」
ジーリュが今思っている最悪の事を、俺も今頭の中に過った。




