襲われた村の土少年
クタガラを出て二日。
道中、俺はこの世界の文字や常識を少しづつ身に付け、時折襲ってきた魔物と戦ったりして次の目的地のオーコの村へ向かっていた。
この二日間。野宿の時にレインが馬車の外で寝なかったのが良かった。またあんな目に遭うのはこりごりだからな。
「皆よ、村が見えたぞ」
ジーリュの呼びかけに馬車から顔を出して前方を見ると、一つの村が見えた。
土のエレメンターが住むオーコの村だ。町の次は村だからか少し小さく感じる。
村の宿に行き馬車を預け部屋を取ると、宿の人から土のエレメンターの情報を得た。どうやら小高い丘の上の一軒家に住んでいるらしい。
俺達は宿を出て教えてもらった方角へ進むと、小さな丘の上に建っているそれらしい家を見つけた。
「あれかな?」
「恐らくそうじゃろう。行ってみるぞ」
ジーリュが頭の上に乗り俺達はあの家に向かった。
向かっている途中、俺は村を見渡していると遠目に荒らされた畑や何件か倒壊した家が見えた。
「何かあったのか?」
不思議に思いながらあの家に向かった。
小高い丘を登って家に着くとドアをノックした。
「はーい」
女性の声が聞こえてドアが開くと、四十代くらいの黒のショートヘアーの女性が出てきた。
「おぉディア。久しいのう」
「久しぶりね、ディア」
「ジーリュ、ヒレア!? 久しぶりね!」
二人のこの反応。もしかしてこの人。
「二人がここに来たって事は、あの予言の子が?」
「うむ。この勇也が、あの予言の少年じゃ」
頭の上に乗っているジーリュが俺を指差した。
「あ、どうも」
するとディアさんは目を大きく開くと、ふらついて壁に寄り掛かった。
「大丈夫かディア?」
「ええ。良かった……20年、待った甲斐があったわ」
それで肩の力が抜けたのかな。
俺達は家の中に案内されて椅子に座った。
「紹介するぞ。こやつが先代の土のエレメンターのディアじゃ」
やっぱりこの人が先代の土のエレメンターなんだ。
「ところでディアよ。土のエレメントはきちんと受け継がれておるのか?」
「ええ。私の土のエレメントは息子のアルツに受け継がれてるわ」
「おぉそれは良かった。で、息子のアルツは何処にいるんじゃ?」
「今は夫と一緒に作業場にいるはずよ。これから行こうと思っていたから一緒に行く?」
「ではそうさせてもらおうかのう」
「そうだね」
ディアさんは立ち上がると、台所にある沢山のおにぎりを袋に詰め、共に家を出てディアさんの後をついて行った。
「ところで、今エレメンターはどのくらい集まっているの?」
ディアさんの自宅を出て後をついて行きしばらく進んで行くとディアさんが訊ねた。
「今集まっておるのは光の他に火、水、雷だけじゃ」
「まだ四人なのね」
「旅立ったばかりでのう」
「でもその四つって事はグレン、ウィア、サダよね。元気だった?」
グレンとウィア? もしかしてエンとレインの両親かな?
訊ねるディアさんに、ジーリュが少し言いづらそうに答えた。
「グレンとウィアは行方不明。サダは病気で亡くなっておった」
「っ……そう……」
ジーリュの言葉に、ディアさんは落ち込んでしまった。
「三人も不幸な事が起きている。本当に私達の代は呪われているのかしら」
ディアさんが呟く様に行った言葉に、俺は首を傾げる。
あの落ち込みよう、闇のエレメンターが裏切ったとかだけじゃない気がする。先代の時代に何があったんだ?
不安に思っていると、前方に家を組み立てている人達が見えディアさんに気付くと、ディアさんは手を振る。
「あ、ディアさん。グドさん達に昼食ですか?」
「ええ。今どこにいるかしら?」
「奥の方で一緒に作業してますよ」
「ありがとう」
作業場の人に教えられ奥の方へ進むと、男の人と俺と同じ年ぐらいの茶色いズボンに黒のタンクトップを着た茶髪の少年が組み立て作業をしていた。
「おーいアルツ。あそこにある木材の山持ってきてくれ」
「おう!」
アルツって事はあの少年が。
その少年は六つ程ある大きな木材の山の前に立ち地面に触れると、地面から土の蛇の様なものが三つ伸びて来て木材の山を巻き付けると、今度は腕が黄土色に光り、木材の山を軽々と持ち上げて男の人がいる場所まで運んだ。
「父ちゃーん、持って来たぞ」
「おう。そこに置いてくれ」
少年は木材の山を置くと、巻き付けていた土が消えた。
「二人ともー、昼食持って来たわよ!」
「お、母ちゃん」
「ディアか。すまんな!」
「あとアルツ。貴方にお客さんよ」
「ん? オイラに?」
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「ふーん。アンタ等もエレメンターなんだ」
アルツは大きめのおにぎりを頬張りながら俺達の方を見る。
「それで、お主もワシ等と一緒に来てもらいたいんじゃが」
「ん~昔っから母ちゃんも言ってたし、一緒に行っても良いんだけど……またアイツが来るかもしれねぇしなぁ」
「アイツ?」
俺が首を傾げると、ディオさんが説明した。
「実は昨日、バファロと言う大きな角を持つ牛の魔物が村を襲ってきたのよ。丁度アルツが村の外に出ていた時だからまともに戦える人がいなくて」
じゃあ、あの荒らされた畑と倒壊した建物はバファロが襲った跡か。
「バファロは草食の魔物です。恐らく村の農作物を狙ってやって来たのでは?」
「ええ。畑の野菜をほとんど食べたら村を出たわ。家畜も何頭か怪我をしてしまったし」
クロエの説明にディオさんは答えた。
「詳しいねクロエ」
「皆さんのサポートが出来ますように色々な魔物の情報をインプット致しました」
本当に万能だなこの子。
「そのバファロってまた来ると思いますか?」
「まだ荒らされていない畑もあるから多分……」
「これ以上荒らされたらたまらないな」
「ああ。また来たらオイラが一発ぶん殴ってやる」
アルツはバシッと自分の拳を掴んだ。
「俺も手伝うよ。襲われるって分かってるのに放っておけない」
「いいのかお前?」
「ああ」
俺がそう言うと、エンが小さく息を吐く。
「俺、短い間だがアイツの事なんとなく分かってきた。アイツ結構放っておけない奴なんだな」
「良いじゃない。それが多分勇也の良いところよ」
「だな!」
エン達が何か言っていたがあまり聞いてなかった。
すると、何処からか鐘の音が鳴り響いた。
「何だ?」
「おーい!!」
さっきの作業場にいた人が俺達の元に走ってきた。
「大変だ! バファロがまたやって来た!!」
「あんにゃろぉ! もう来たのか!」
アルツが走りだすと、俺達も一緒に向かった。




