鉱山の異変
ガロスとの戦いから数日。
皆の特訓に大分力が入るようになった。
これから戦うかもしれない、残り四体の封印獣に備えてだ。
「勇也。エレメントラインの力を見せてくれないか?」
「えっ?」
特訓中、リューラに突然言われてつい驚いてしまった。
「何で急に?」
「エレメントラインの力をもう一度見てみたいというのもあるが、どれほど強化されるのか再び確認したい」
「ん~。……わ、分かった」
エレメントラインを使うと反動が痛いんだよなぁ。……でも頼まれたし、やるしかないか。
俺は息を吐いて集中すると、右手に光の紋様が浮かび上がった。
右手を前に出して光の玉を的に向かって放つと、的は大きな爆発を起こして粉々になった。
「威力が二倍……それ以上だな」
「ああ、かなり威力が上が、てぇ!」
右手に痛みが走り、エレメントラインを消すと右手を押さえてしゃがみ込む。
「痛ってぇぇ……これだけでも結構反動が来るなぁ」
「勇也、大丈夫?」
「ああ」
レインが駆けつけて来て俺の右手に優しく触れると、俺は大丈夫と言い立ち上がる。
「まだ発現したばかりじゃからな。負担は大きいじゃろう。ものにしておけば、負担は減って来るぞ」
痛みが出るのは単純に俺の力不足だ。
もっと強くならないと。
「ジーリュ、例の男の情報は?」
「未だにこれと言った情報は来ておらん。ワーフの封印の祠を守っていた兵は眠らされておったと言っておったから、腕のある魔法使いの可能性がある。魔法で身を隠しているのならば、見つけるのは困難じゃろう」
「今は情報が入るのを待つしかねぇって訳か」
ウィドはそう言うと「チッ」と舌打ちをする。
「情報が入るまでは特訓に集中しようよ。少しでも強くなるために」
「気合入ってるな、厚」
「ガロスの時は大して役に立ってなかったからね。挽回したいんだ」
「俺もだ! みっともねぇ姿はもう見せねぇぜ!」
ガロスの時は気を失ってしまって何も出来なかった厚と大貴は結構気合が入ってる。
「戦うのは別に良いんだけど、私としては皇蟲っていうのが嫌だなぁ」
「楓華ちゃん、虫苦手やさかいね」
「そう言えばそうだったわね」
皇蟲の時は風間は頼りにならないかもな。
すると、屋敷の門の外に郵便屋が現れ俺達を呼ぶ。
「すみませーん! 手紙でーす!」
郵便屋から手紙を受け取ると、送り主を確認した。
「送り主は……マッズ? 確か、メタルグローブがあった坑道で会った、ドワーフのマッズさんか」
「そうじゃ。一体なんじゃろうな?」
俺達は屋敷の中に戻りマッズさんの手紙を確認した。
「ふむ……。どうやら、坑道に鉱食虫が大量発生したようでな、討伐してほしいそうじゃ」
「こうしょくちゅう?」
「鉱石を食べる虫の魔物じゃ」
「虫!?」
風間が虫って言葉にビクッと反応した。
「確かにあの坑道にはたまに現れるが、大量発生する程まで現れたか」
「魔物退治だし、行こうか」
俺達は屋敷の外に出て召喚獣を呼び、以前訪れたドワムルへ向かった。
――――――――――――――――――――
「久しぶりだな、お前達」
ドワムルにやってきた俺達は、そこでマッズさんと再会した。
「知らない顔が何人かいるな?」
「新しい仲間です。それで、鉱食虫と言う魔物が大量に現れたと手紙に書かれていましたけど」
厚達を始めて見るマッズさんに軽く紹介すると依頼の内容を詳しく聞いた。
「鉱食虫は本来、鉱山の大分奥に住んでいる魔物でな、俺達は生息域に入らない様に作業してたんだ。これまでにも現れた事はあったんだが、一匹や二匹ぐらいで俺達でも十分に対処出来たんだが、ある日数十匹も奥からやってきて俺達の手に負えなくなったんだ」
「それで俺達に討伐してほしいって事だな?」
「そうだ。どうかよろしく頼む」
マッズさんが頭を下げると、俺達は早速鉱山に向かった。
前に訪れた時は、坑道が落石で殆ど埋まっていたけど、今は全部取り除いたらしい。
「ん? 何あれ?」
レインが何か見つけて指差すと、その先には一メートル程ある大きな赤い芋虫がいた。
「あれが鉱食虫じゃ。口から火を吐き鉱石を溶かして食べるんじゃ」
「火を吐くのか」
よく見ると、その鉱食虫は口から火を吐いて鉄鉱石を溶かして食べている。
確かにこんなのがいたら鉱山で働く人には嫌だな。
すると鉱食虫は俺達に気付き、口から火の玉を吐いてきた。
俺達は避けると、俺はライトカリバーを抜いて光の斬撃を飛ばし、鉱食虫の胴体を斬った。
「坑道に入ったばかりなのにもういるなんて」
「奥に進めばもっといるじゃろう」
その後、坑道の中を進んで行くと、奥に進むたびに鉱食虫が増えてきて、開けた場所に来ると、なんとそこには鉱食虫が百匹ぐらいいて鉱石を食べている。
「うっわっ、どんだけいんだよ。数十匹じゃねぇじゃねぇか」
「これだけいると流石に気色悪いな」
「ヒィィィィィィィ! 虫がぁぁぁ!」
「楓華落ち着いて」
流石に風間の気持ちは分かるなこれは。
こんなに虫がいたら嫌だもんな。
「多いけど、全部倒そう」
俺達は散開して鉱食虫を倒しに行った。
鉱食虫は一匹一匹はそんなに強くないため思ったより早く倒すことが出来た。
30分もしない内にようやく全部倒せた。
「これで全部かな?」
「うむ。ご苦労じゃったな。しかし何故こんなに?」
「本来の生息地はもっと奥よ。何かあったのかも知れないわね」
「ちょっと調べて見るか」
「そうだな。また現れるかもしれないし」
俺達は更に鉱山の奥へ進んだ。
するとある光景が目に入った。
「何だこれ!?」
地面、壁、天井から尖った大きな岩が飛び出しており、そこら中に鉱食虫の死骸があった。
「この岩が原因か?」
「恐らくそうじゃろう。しかし、自然の物には見えんな」
アルツがその岩に触れると、不思議そうな顔になった。
「なんかこの岩からエレメントに似たエネルギーを感じるぞ」
「なぬ? 以前にも同じような氷があったが……一体何が起きてるんじゃ?」
新たな謎に頭を悩ませながら、俺達は鉱山を後にした。
――――――――――――――――――――
「鉱山の奥にそんな物が」
「鉱食虫はそれで住処を追われたのかもしれん」
報告を聞いたマッズさんは腕を組んで考え込む。
「……まさか、あの二人組が関係あるのか?」
「あの二人組って何ですか?」
「実は数日前、鉱山に見知らぬ二人組が入っていくのを見たって作業員がいてな。その翌日から、鉱食虫が多く現れるようになったんだ」
「その二人組とやらが関係あるのは間違いないかもしれんな」
「封印獣を解こうとしている奴の仲間かな?」
「分からんが、無関係ではないかもしれん」
現状で何も分からない以上、これ以上考えても仕方がないということで、俺達はマッズさんからお礼を貰いウェアークへ帰還する。
屋敷に戻ってくると、門の前にグレスさんがいた。
「おお、戻ってきたか!」
「どうしたんじゃグレス?」
「例の男の情報を掴んだ!」
「何!?」




