叡智図書館
「これが叡智図書館? デカいな」
俺達はウィスダルムと言う町に建っている叡智図書館にやってきた。
ここに来た理由は勿論依頼だ。
この図書館にある古代魔法の本を欲しがっている学者に渡すためだ。
確か『古代魔法辞典 第五典』って言う本だったかな?
「ったくよぉ。何で俺等が本を探さねぇといけねぇんだよ? 欲しいもんぐらい自分で探せっつーの」
「さっきも言ってたな、ウィド」
「我慢せい。学者は忙しくて行く暇がないと依頼書に書いてあったじゃろ。本の題名は分かっておる。ワシ等で探すぞ」
俺達は図書館に入ると、壁一面が本、本、本と、とんでもない量の本に驚く。
「建物がデカいから、本が沢山あるんだろうなとは思ってたけど、多すぎない?」
「ここは世界一大きな図書館じゃ。古今東西、あらゆる本があると言われる場所じゃからな」
「ここから一冊の本を探すなんて大変じゃない?」
「うむ。じゃから時間が掛かるじゃろう」
「三階建てだから、一階から順番に隅々まで探してみるか」
俺達はまず一階の本から探した。
魔法や武器。魔物に動植物に歴史など本当に色んな本がある。
……でも、見て思ったけど、ここの本順番がバラバラなんだよな。
タイトル順でも作者順でもジャンル順でもない。完全に並び方がバラバラだ。
これじゃあ探すのは大変だ。
「どうじゃ? 見つかったか?」
「いや。それらしい本は無かった」
「こっちも」
「そうか……。仕方ない、二階に行くぞ」
俺達は階段を上って二階に上がり探した。
「ここもバラバラだな。誰かきちんと並べてほしいよ」
「どう勇也? 見つかった?」
「レイン。いや、駄目だ。見つからない」
レインと一緒に探してみるが、全く見つからない。
「駄目だ。見当たらない」
「むぅ~。残すは三階だけじゃな。そこにある事を祈ろう」
日が沈み始め、窓から夕焼けが差し込んできた頃、俺達は三階に上がり本を探す。
後はここだけだから、どうしても見つけたい。
「もし見つからなかったら、誰かが持っていった事になるのかな? ……レイン?」
呼びかけても返事が無いから振り向くと、レインが本棚にある一冊の本をジッと見て取り出そうとしていた。
「見つけたの?」
「ひゃあ!?」
声を掛けるとレインは驚いて、取ろうとしていた本が床に落ちた。
「ごめん、驚かせて」
床に落ちた本を拾うと、タイトルが目に入った。
『夜の誘い方』
「……」
「こ、これはね。あ、あの~……念のためって言うか、その~……」
顔を赤くしながらレインが慌てる中、俺は何も言わずその本を本棚に戻した。
「何もなかった……それで良い?」
「……はい」
そう約束して別の本棚に行くと、凄い真剣な表情のライデンが一冊の本を読んでいた。
「何、その本?」
「おわぁぁぁ!?」
さっきのレインよりも驚く反応をしたライデンは、驚いた拍子に読んでいた本を投げ捨て、その本を拾いタイトルを見る。
『魔族をも魅了する美女特集』
「「……」」
俺とレインは目を細めてライデンを見る。
「ち、違うぞ? それは目に入ったから興味本位で読んでみただけで、げぶっ!?」
ライデンの後ろからミスクがかかと落としをしてライデンは倒れる。
「ちゃんと探せ、バカ」
「はい……」
……まぁ、さっきのレインよりはマシか。……マシなのか?
とりあえずこれは置いといて、今は目当ての本を探さないと。
奥の方へ行き、目当ての本を探す。すると。
『…………ちへ……い』
「ん?」
何か声が聞こえた気がして周りを見渡す。
「レイン。何か言った?」
「え? 何も言ってないわよ」
「そっか。……じゃあ気のせいか」
気にせず本探しを再開すると。
「おーい! 見つけたぞ!」
大貴の声が聞こえ向かうと、大貴の手には一冊の本があった。
『古代魔法辞典 第五典』と書かれた本が。
「よくやったぞ大貴。よく見つけた」
「へへっ!」
「では、依頼主に届けるとするか」
依頼の本を無事手に入れた俺達は叡智図書館を後にした。
――――――――――――――――――――
勇也達が依頼の本を手に入れた頃、ウィスダルムの町に一人の少年がやってきた。
少年の名前は荒井遊大。
厚達と同じ様にこの世界に来た、勇也のクラスメイトだ。
この世界に来て、彼は他のクラスメイトと一緒に冒険者になった。だが、この町に来たのは依頼などではない。
彼が冒険者になった理由はただ一つ。元の世界に帰るために力を付けるためだ。ある程度力を付けた彼は、町を転々としながら地球に帰る方法を探していた。
「ん? あれは……光野達か」
遊大の視界にある一団が見えた。
勇也達、エレメンター達だ。
三階建ての大きな建物から出てきた勇也達は町の外へ向かうと、遊大はその建物の前に立つ。
「何だこの建物? ……叡智図書館?」
建物の名前が書いてある看板を読んだ遊大は叡智図書館を眺める。
(図書館……って事は本があるよな。しかもこんなに大きいんなら、地球に帰られる方法が分かるかもしれねぇ)
遊大は期待に胸を膨らませ、叡智図書館に入る。
「凄ぇ数の本だ。これなら一冊ぐらいあるな」
増々期待し、遊大は図書館中を探し回った。
……だが、探し始めて三時間が過ぎ外が真っ暗になっても、それらしい本が見つからなかった。
「クソッ! 全然それらしい本がねぇ! つーか多すぎだろ!」
見つからない事と本の多さに遊大はイラつく。
残る三階に上がり、遊大は本を探し始める。
「どんなのでもいい。せめて違う世界に行ける方法が書いてあれば」
焦りの表情が交じりながら本を探していると。
『こっ……へ来……』
「ん?」
『こっ…………来い』
「な、何だ!?」
頭の中に誰かの声が聞こえ、辺りを見渡す。
「だ、誰だよ!?」
『壁……絵を……ろ』
「壁? 絵?」
部屋を見渡すと、壁に図書館の絵が飾られているのが見えて近づくと、さっきの声が少し鮮明に聞こえた。
『壁の絵……取れ』
「取れって……」
遊大は絵を両手で持ち上に少しずらすと、絵が取れて、小部屋の入り口が現れた。
「何だ? この部屋?」
遊大は恐る恐る部屋に足を踏み入れると、部屋には小さな机だけがあり、その上には一冊の本があった。
「何だこの本は?」
机の上の本に触れようとしたその時、本の表紙に二つの目がバッと開いた。
「うあああああああっ!!?」
遊大は驚き尻餅をついた。
「フハハハハハッ!」
「な、何だよお前!?」
「驚かせて悪かったな。俺の名前はジョルクス」
表紙から目だけでなく、口も現れジョルクスは自分の名を明かした。
「……で、何なんだよ、お前は?」
「ああ。俺は大昔、この本に封印されちまったんだ」
「本に?」
「そうだ。悪い魔法使いにやられて、俺は本の中に封印され、こんな姿になっちまった。これまで何度も色んな奴の頭に呼び掛けてみたんだが、誰も相手にしてくれなくてな。だからお前には感謝している、ありがとな」
「……」
ジョルクスに礼を言われた遊大は喜んでいいのかわからず戸惑う。
「ここで会ったのも何かの縁だ。俺の封印を解くのに協力してくれねぇか」
「はぁ!? 悪いが、俺は急いでるんだ。気の毒だが、他の奴に頼んで――」
「違う世界に行く方法……知りたくないか?」
「っ!?」
その言葉に反応し、遊大はジョルクスを手に持つ。
「し、知ってるのか!?」
「ああ。自分で言うのもなんだが、こう見えて元々俺は大魔法使いだったのさ。しかも習得するのがとても困難な違う世界に行ける魔法が使えたんだ。まっ、この姿じゃ使えねぇけどな」
「解く! 封印解いてやる! 元の世界に帰れるんならなんだってやってやる!」
遊大の言葉に、ジョルクスはニヤッと笑う。
「……言ったな? お前、名前は?」
「遊大だ! 荒井遊大!」
「そうか。よろしくな、遊大」




