女王の思い
「グオォォォォォォォ!!」
謎の液体で巨大化し、魔物になった女王のペットの蜥蜴、ゴルちゃんは俺達を睨みつける。
「ゴルちゃん……」
「衛兵! 女王様を安全な場所へ!」
『はっ!』
サドン大臣の指示で兵士が女王の元へ駆け寄ろうとすると、ゴルちゃんが尻尾でその兵士達を吹き飛ばした。
「女王様、こちらへ!」
傍にいたメイドが女王を連れて逃がそうとすると、ゴルちゃんが前足を叩きつけて進行を妨害すると、咆哮を上げてメイドを吹き飛ばす。
「うらぁ!」
エンが火の玉を投げゴルちゃんの顔に当てると、再び俺達を睨み襲い掛かってきた、
口を大きく開けて噛みつこうとすると、体を鉄化させ立ち塞がったスチアをゴルちゃんが噛みガキンッと鈍い音が鳴り口元を押さえる。
すると口から火を吐き俺達は散開して避ける。
フィーズが手から冷気を放ちゴルちゃんの口元を凍らせるが、冷たさでゴルちゃんは暴れ近づきにくくなった。
「フィーズ、余計暴れたぞ!」
「はい、失敗しました。なのでこちらに」
フィーズは今度は足に向けて冷気を放ち足を凍らせて動きを止めると、ミスクと半猫のビトが足を蹴るとゴルちゃんは倒れる。
ゴルちゃんは起き上がり足の氷が砕けて俺達に向かおうとすると、アルツと大貴が尻尾を掴んで押さえる。
口元の氷も砕け火を吐こうとすると、レインが大海の杖から放った水を顔に当ててよろけさせると、光を纏ったライトカリバーを頭に叩きつけ倒す。
「ふぅー。……それで、どうする?」
「う~む。あの妙な液体を飲み、こうなってしまったんじゃな。時間で元に戻るとは限らんし、あの液体を調べて元に戻る薬を作るしかないかもしれんのう」
「作るって、薬師とかに頼むの?」
「いえ。私が作るわ」
そう言いだしたのはヒレアだ。
「ヒレアって薬作れるの?」
「ええ。クロエ、手伝ってくれる? あなたの解析能力を借りたいの」
「かしこまりました」
ヒレアとクロエが液体を回収しに行こうとすると、さっきの戦闘のせいか、玉座の間の柱の一本が女王に向かって倒れる。
「っ!?」
「女王様!!」
サドン大臣が叫び、俺達は急いで駆けつける。
間に合わない。そう思った時だった。
ゴルちゃんが目を覚まし起き上がって走りだし、女王を柱から守った。
「……え?」
身構えていた女王は恐る恐る顔を上げ、ゴルちゃんと目が合う。
「ゴルちゃん?」
「……オ……レ、ロサ……マモ……ル……」
今のって……ゴルちゃんの声か?
「ロサ、オヤ、ナクナッテ、ヒトリ。ロサ、ナイタ。オレ、ロサ、マモル」
「ゴル……ちゃん……」
女王は涙を流し始め、やがて大泣きした。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「女王様!?」
泣き出した女王にサドン大臣は慌てて駆け寄る。
「どうやら……両親が亡くなってからずっと寂しかったみたいじゃな」
「そうなのですか? 女王様」
「うう……だって、お父様もお母様も亡くなって……ううっ……。王なんて分からないもん! 皆私に頼んできても、どうすれば良いのか分からないんないだもん!」
きっと、心の中にしまっていたことを全部言ってるんだな。
女王が言い終えると、サドン大臣はゴルちゃんを見る。
「ゴルちゃん……ずっと女王様を守ってくれていたんだな。ありがとう」
「恐らく兵士達を攻撃したのも、女王を守ろうとしていたのかもしれんのう」
サドン大臣は女王に目を向け正座する。
「女王様。これからは我々が全力で手助け致します。なので……ご安心下さい」
「うう……サドン……」
女王はその後も泣き続け、しばらく玉座の間に女王の泣く声が響いた。
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あの後、フィク兵士に化けた犯人は投獄され、死刑が決まった。
魔物になった女王のペットのゴルちゃんは城の地下で軟禁。現在女王と一緒にいる。
「皆さん。今回は誠にありがとうございました。やはり依頼を出して正解でした」
「気にするでないサドン。当然の事をしただけじゃ」
「そうですよ。あとはゴルちゃんが元に戻るだけですし」
「はい」
ゴルちゃんは犯人が持っていたあの緑色の液体を飲んで魔物になった。
あの液体は生き物を凶暴化させたり強くしたりする薬で、それを使って王都の周辺の魔物を凶暴化させ、城の警備が薄くなった隙に女王を殺そうとした。と、犯人は自白したらしい。
今、あの液体をクロエが解析して調べて、ヒレアと城の王国調査隊員がゴルちゃんを元に戻す薬を作っている。
「依頼は一応終えたが、サドンよ。この国はこれからどうなると思う?」
「……正直に言うと分かりません。女王様は歴代最年少で王位に就きました。それにより頼りなさを感じてしまう国民も多いので……」
「最年少って、女王様おいくつなんですか?」
「今年で15になります」
随分若いなぁって思ったけど、15!?
15って事は、中学三年ぐらいか。
確か女王のご両親が亡くなったのは10年前だから、その時は五歳って事か。
その年齢で両親が無くなるのは、悲しいのは当然だな。
「しかし、これからは我々も全力で女王様をサポートしていきます。そして必ず、陛下の時と同じような平和だったクラント王国にして見せます!」
「そうか。期待しておるぞ」
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薬が完成するまでの間、俺達はクラント王国に滞在することになった。滞在中は、城の客室で寝ることになった。
ちなみに少なくなった王都の地下水は、レインの力で大分増えた。
その日の夜、ベッドの上に座って俺は窓から夜空を見上げていた。
「勇也ー」
「ん? レイン」
「来ちゃった。どうしたの?」
そう訊ねるレインは俺の隣に座った。
「いや、女王の気持ちが分かるなぁって思って」
「どうして?」
「俺も……いや、俺達も両親に会えないからさ」
異世界へ行く方法はこの世界には無い。
だからもう、両親には会えないし、厚達がこの世界に来た時は本当にびっくりした。
「わっ!?」
突然レインに抱き寄せられ、顔に柔らかい物が当たる。
「な、何!?」
「ううん。なんか寂しそうに見えたから、つい」
俺が考えてる事が分かるみたいだ。
確かに……ちょっと寂しかったかも。
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事件から二日後。薬が完成した。
「それじゃあ打つわね」
「ええ」
女王に見守られながら、ヒレアは魔物化したゴルちゃんに完成した薬が入った注射を打つ。
すると、ゴルちゃんの体が光ってみるみる体が小さくなっていき、元の小さな金色の蜥蜴になった。
「ゴルちゃん!」
女王は両手でゴルちゃんをすくい上げて笑顔でジッと見る。
「戻って良かった。それとありがとう、私の事を守ってくれて」
女王はゴルちゃんに優しく頬ずりをする。
本当に大事にしている事がよくわかる。
城の地下を出て玉座の間に来た俺達は、女王から改めてお礼を言われる。
「皆さん。今回は本当にお世話になりました。私はこれから国の為に頑張ります。父上の様に」
「そうですか」
「頑張るんじゃぞ」
こうして、依頼を何とか終えた俺達は、クラント王国を後にした。




