脅迫状の犯人
犯人捜しを担当している俺達は、まず城の中から捜すことになった。
「城で働いている人から捜すにしても結構いるよな」
「そうね。せめて絞り込めれば良いんだけど……」
「そうじゃなー……」
城で働く人が犯人と決まった訳じゃないけど、兵士や騎士、メイドとかから絞り込むのは難しいぞ。
「脅迫状を送った奴を国中から捜さないといけないんだよなぁ。相手が一人とは限らないし」
「脅迫状……。サドンよ、例の脅迫状は女王の元に届いたのか?」
「いえ。実は詳しくは知らないのです。兵士の一人が城に送られてきたと私に渡してきたので」
「その兵士に合わせてくれんか? もしかしたら脅迫状を送った奴を見たかもしれん」
「分かりました。今は何処にいるのか分からないので、詰め所に行ってみましょう」
サドン大臣の案内で兵士の詰め所に来ると、そこで兵士長から話を聞く。
「フィク兵士ですね。実はここ三日、体調不良で休んでいるんですよ」
「何?」
「今朝、フィク兵士の同僚が兵士宿舎の奴の部屋へ行って様子を見ようとしたところ、部屋に鍵をかけていたそうです」
「……これは、怪しいのう」
「と言うと?」
「そのフィクと言う兵士が、脅迫状を書いた犯人かもしれないという事じゃ」
それならあり得るな。
本当に犯人で三日も部屋から出てこないなら、女王の暗殺でも進めてるのかもしれないし。
「兵士長! フィク兵士の部屋へ案内してください!」
「は、はい!」
兵士長の案内でフィク兵士の部屋の前まで来て、部屋のドアを開けようとするが鍵がかかっていて開かない。
兵士長は鍵を使って部屋の鍵を開けドアを開けると、何かが突っかかり少ししか開かなかった。
「何だこれ?」
「どうしました?」
「サドン大臣。ドアの前に何かが突っかかりこれ以上開けられません」
「鍵を開けられた時の対策はしておるようじゃな。ミスクよ、お主の力で中に入ってくれんか?」
「分かったわ」
ミスクは煙になってドアの隙間から部屋の中に入る。
ミスクが犯人捜しの方に来て良かったよ。いきなり出番だし。
「ドアの前にテーブルが置かれてるわ」
部屋の中からミスクの声が聞こえる。
「部屋には誰か居らんか?」
「えっと……えっ!?」
ミスクが驚くような声が聞こえた。
「どうしたんだ?」
「部屋で誰か亡くなってるわ!」
「何!?」
死んでるってどういうことだ?
「とにかくミスク。俺達も入りたいからテーブルをどかして」
「ええ。ちょっと待って」
ドアの前のテーブルをミスクが動かすとドアが開く様になり中に入ると、ミスクの言う通り、部屋のベッドに一人の男が亡くなっていた。
腹には、何かに貫かれたような跡がある。
「間違いない。こいつはフィク兵士です、サドン大臣」
「一体なぜ?」
「むぅ~……。死因はこの腹の傷じゃな。少し焦げておるから、これは魔法で受けた傷じゃな」
「自殺……じゃあないよな」
「兵士の殆どは魔法が使えない。勿論コイツも」
密室殺人か?
そう思っていると、部屋を一人の兵士が覗き込んできた。
「兵士長、どうかしたんですか?」
「ああ。実はフィク兵士がなぜか亡くなっていたんだ」
「え!? フィクが!? でもおかしいですね……?」
「何がだ?」
「実はさっきフィクに会い、女王の護衛に行ってくると言っていたんですが……」
「何を言っている? フィクはここで亡くなっているぞ」
どういうことだ? この人に会ったって? じゃあここで亡くなってるのは別人か?
「……まさか!? 勇也、通話機でリューラに連絡するんじゃ!」
「え? あ、ああ」
俺は耳に着けた通話機をリューラに繋いだ。
――――――――――――――――――――
「あなた達がエレメンター?」
大浴場から出た褐色の肌に金色の蜥蜴を肩に乗せているクラント王国の女王、ロサ女王は、廊下で待っていたリューラ達を興味無さそうに見る。
「サドン大臣に頼まれてあなたの護衛に来たのだが……」
「あっそ。ま、精々頑張りなさい」
ロサ女王は数名のメイドと共に歩き出し、リューラ達もその後ろを歩くが、ロサ女王の態度にウィドはイラついていた。
「チッ。こっちは守ってやるって言ってんのに、何だよあの態度」
「落ち着けウィド」
「そうだな。俺も気持ちは同じだが、今は護衛だしな」
「う~っ……」
ウィドは歯を食いしばると、メイドの一人が近付いてくる。
「申し訳ございません。女王様はいつもあの様子で」
「苦労してそうだな。ところで、城の中を歩いて気になっていたんだが、女王が狙われているというのに兵士が少なくないか?」
「はい。最近、王都の周りに凶暴化したり、強い魔物が増えていて兵士や騎士が出払っておりまして、現在城の警備が手薄なんです」
「私達が呼ばれた理由はそれもあるのか」
ロサ女王は玉座の間に来ると玉座に座る。
リューラ達はその横に立ち、警護に就いている。
そんなリューラ達の元に、一人の兵士が近付く。
「エレメンターの皆さん。本日は女王様の警護をしていただきありがとうございます」
「別にいいぞ~」
「申し遅れました。私は兵士のフィクと言います。私も女王様の警護を致しますので、共に頑張りましょう」
「ああ」
フィクと言う兵士は玉座の近くに立つ。
ビトはフィクをジッと見る。
「どうしたビト?」
「いや、なんかあの男から変な臭いがするんだよ。毒の様な、薬品の様な」
ビトがそう言うと、リューラの耳に付いている通話機に通話が入った。
『リューラ、聞こえるか!?』
「勇也か。どうした慌てて?」
『時間が無いから手短に話すけど、フィクって言う兵士に気を付けろ! 犯人かもしれない!』
「何!?」
勇也からの通話が切れ、エンが通話の内容を聞く。
「どうした? 勇也は何つってた?」
「……フィクという兵士が犯人かもしれない、と」
「はぁ!?」
「ちょっと、急に大きな声出さないでくれる?」
「ん? ああ、すんませんね~」
ロサ女王に怒られ、エンは小さい声で話す。
「どういうことだよリューラ」
「分からない。時間が無いと言っていたから詳しい事は聞いてない」
「なんにせよ。奴をしっかり見ておきゃあ……」
ウィド達がフィクに目を向けると、フィクが突然槍を左手に持ち替えると、右手で腰の辺りから何かを取り出すと、それはナイフだった。
『っ!?』
リューラ達は気付くと、ビトが猫の耳と尻尾を生やし、フィクの元へ駆け寄る。
「うりゃあ!」
「なっ!?」
フィクの右手のナイフを蹴り飛ばし、続けてフィクを蹴り飛ばすと、緑の液体が入った瓶が落ちて割れた。
「な、何!?」
蹴り飛ばされたフィクはアルツに抑えられると、玉座の間のドアが勢いよく開き勇也達が入ってきた。
「女王様! ご無事ですか!?」
「サドン、どういう事!?」
勇也達が押さえられたフィクに目を向けると、フィクの体が光り別人に変わった。
「これは変身魔法じゃな。随分高難易度の魔法を使えるんじゃな」
「衛兵、この者を押さえよ!」
サドン大臣の指示で兵士達はアルツが押さえている男に槍を向ける。
「終わったの? サドン」
「はい。ご安心下さい」
「ふぅ……」
ロサ女王が息を吐くと、突然首を横に振って辺りを見渡す。
「ゴルちゃん? ゴルちゃんはどこ!?」
「ゴルちゃん?」
「女王様が飼われていらっしゃる蜥蜴の名前です。いつも一緒にいるんですが……」
勇也達も捜していると、林子がゴルちゃんを見つけた。
「あ! もしかしてあれですか?」
林子が指差した先には、先ほど男が落とした緑の液体に一匹の金色の蜥蜴がいた。蜥蜴は緑の液体に近づくと液体を口に入れた。
すると、ゴルちゃんの体が光り出し大きくなっていき姿が変わっていった。
「グオォォォォォォォ!!」
ゴルちゃんは金色の肉食恐竜の様な姿になってしまった。
「なっ、どういうことだ!?」
「ゴルちゃん……!?」




