雨の日に来た依頼
「ん……」
目を覚ますと、目の前に俺の手を握ったまま寝ているレインがいた。
なんかもう……いつも通りの光景で何も思わなくなった。
「なんか冷えるな今日は」
体を起こすと、今朝はいつもより寒い気がした。
窓を見ると、今日は曇りなのか日差しが出ていない。
しかもザーザーと雨の様な音が聞こえるし水が滴る音も聞こえる。
「今日は雨か」
そう呟くと、レインが目を覚ました。
「おはよう勇也」
「おはよう」
レインは起き上がって欠伸をすると、俺の手を握っている事に気付く。
手は離さず、そのまま自分の胸に当てる。
「なんか手、冷たくない? 少しだけ」
「ああ、今日ちょっと冷えるからね。雨も降ってるみたいだし。もう11月だから、来月には冬に入るし」
「え? 冬は一月からよ?」
「え?」
話が合わず、レインに聞いてみると、俺がいた地球とこの世界は季節の時期が違うらしく、春は四月から六月。夏は七月から九月。秋は10月から12月。冬は一月から三月らしい。
じゃあまだ来月いっぱいまで秋なのか。
「勇也寒いの?」
「寒い……って言える程じゃないけど、ちょっと冷えるかな。俺寒いの苦手だし」
「へぇー。……」
レインは少し考え込んだ後、悪戯に微笑み俺に抱き付いてきた。
「おわっ!? レ、レイン!?」
「どう? 暖かい?」
「えっと……う、うん」
本当大胆だよな、レインは。
……あ。
「せいっ!」
「痛っ!?」
部屋に入ってきた美奈がレインの頭を杖で叩く。
「痛った~……何すんのよ!?」
「あんた達こそ何やってるのよ。こんな朝っぱらから抱き合って」
「待ってくれ美奈。抱き合ってはいない。一方的に抱き付かれていただけだから」
「どっちでもいい」
気のせいか、最近美奈の俺に対する態度が冷たい気がする。
「あんただって朝っぱらから勇也の部屋に入ってるじゃない」
「私はあんたの部屋を見ていないことを確認してから来てるのよ。どうせ勇の部屋だと思ってね」
相変わらず睨み合うなこの二人は。
もう美奈がこの世界に来て一ヶ月過ぎたのに、何で仲良くならないんだ?
――――――――――――――――――――
「…………」
外は雨。そのせいで今日は外で特訓が出来ないため意外と暇だ。
皆も退屈そうに過ごしている。
依頼も毎日来るわけじゃないし。
「今日は暇ね」
「そうだな」
「でもこういうのも悪くないわね」
レインが俺の肩に寄り掛かる。
今美奈は部屋にいるからまた喧嘩にはならなさそう。
すると来客を知らせるベルが鳴り、ヒレアが向かった。
ヒレアが戻ってくると一枚の手紙を持っていた。
「皆。依頼が来たわよ」
ヒレアの言葉に皆が反応した。
「どんな内容じゃ?」
「エルーシンって言う町の名産の温泉が急に出なくなったらしいわ。だから源泉を調査してほしいって」
「はぁ? 源泉の調査ぐらい町の連中でも出来るだろ?」
「源泉は町から結構離れているし魔物も出るのよ。だから町の人では行けないわ」
だから俺達に頼みに来たのか。
やっぱり緊急の内容って俺達に来るのか。
「温泉じゃん! 行こう行こう!」
風間がなんか興奮している。
女の子だからやっぱ温泉は好きなんだな。
「じゃあ、今部屋にいるのに話した後、準備して行こうか」
「エルーシンならば、準備はちょっとかかるかもな」
「何で?」
――――――――――――――――――――
「ねぇ~、ジーリュ~」
「何じゃ楓華よ?」
「温泉が有名な町って聞いたけどさぁ。……寒冷地なんて聞いてない!!」
温泉の源泉の調査に来た俺達はエルーシンという町に来たが、そこはフィーズが住んでいたヒョドの村の様な寒冷地帯にあった。
ジーリュが言っていた準備は防寒の事だったんだな。だから今俺達は全員(クロエ以外)防寒着を着ている。
「勇也、なんか慣れてない? こんなに寒い所」
寒さで震えている厚が俺に訊ねた。
「フィーズが住んでた村やフリーズボウがあった場所が雪原地帯だったからね。こういう場所にも慣れてる」
「では、まずは依頼主である町長の元へ行こうかのう」
「そうだな」
俺達はエルーシンの町長の家へ向かった。
――――――――――――――――――――
「一月程前から温泉の湯があまり出なくなってな、冒険者を護衛につけてもらって源泉を調べに向かったんだが、この辺りでは見たことの無い魔物が源泉の近くに現れて調べられなかったんだ」
「それでワシ等に調べに行ってほしい、という事じゃな?」
「ああ。ではよろしく頼む」
話を聞き終えた俺達は町長の家を後にした。
「見たこと無い魔物が現れたって言ってたけど……」
「この辺りに住む魔物は覚えておる。ワシならすぐに分かる」
「そうか。それで源泉ってどこにあるの?」
「あの山の中腹辺りじゃな」
ジーリュが町から離れた所に一つだけ聳え立っている山を指差す。
「寒いだけで嫌なのに山登りするのぉ? うぇ~ヤダなぁ」
「僕も嫌だよ」
「大丈夫じゃ。召喚獣で空から行けば良いんじゃから」
「「あっ、そっか」」
ホント、召喚獣が呼び出せるようになってこれまでより大分楽だな。
「じゃあ行こうか」
「そうね」
――――――――――――――――――――
エルーシンの外で召喚獣を呼んで背に乗り、源泉のある山を目指した。
「山の中腹って言ってたけど、何処にあるんだ? 結構大きい山だし」
「以前にも空から源泉を見たことがある。湯気が上っていたからすぐに分かるはずなんじゃが……見えんのう」
辺りを見渡しても雪で真っ白で源泉どころか湯気も見当たらない。
……まぁ湯気も白いから分かんないけど。
「確かこの辺りに源泉があったはずよね?」
「そのはずなんじゃが……ん? あれは!?」
「どうしたの?」
「すまんが、あそこに下りてくれ!」
ジーリュが山の中腹にある広場を指差し、召喚獣をそこに下ろして俺達は背中から下りて召喚獣を戻す。
「ここに源泉があるの?」
「以前来た時と源泉があった場所と景色が同じなんじゃ。もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「源泉は、この雪の下に埋もれてしまったのかもしれん」
「はぁ!?」
雪の下に埋もれたって、確かにそれなら町に温泉が出なくなった理由になるけど。
「おいおい。埋もれちまったんならどうすんだよ?」
「雪をどかすしかないだろ」
「こんな量をかよ」
「大丈夫だろ。俺の火で雪を解かしちまえばあっという間だ」
「ん~。その方が早いかもしれんな。では頼むぞエン」
「おう!」
エンが雪を解かす準備を始めると、エンの後ろの雪が突然大きく盛り上がった。
「エン、後ろ!」
「ん? って、うおっ!?」
盛り上がった雪が手の形になると、エンに向かって叩きつけてきて、エンはギリギリ躱した。
「あっぶねぇー! 何だこの手!?」
「あれは!?」
ジーリュが驚くと、今度は白い目がある顔と反対の手が出て来て人の形になって二本足で立ち上がった。
「何だアレ!?」
「あれはスノーゴーレムじゃ。この辺りにはいないはずなんじゃが」
「そうなの? いそうに見えるけど? 寒冷地帯だし」
「いると言えばいるんじゃが、正確にはエルーシンから見てこの山とは反対の地域におるんじゃ。エルーシンにも近づかんからこの山におるのは変なんじゃ」
この間のベノムスネークの様に、また生息地が違う魔物か。
「ここを住処にするために、源泉を雪で埋めてしまったのかもしれん」
「面倒な事するなぁ。前に戦ったアイスゴーレムの様に体の中にある魔石を壊せばいいのか?」
「ゴーレムじゃからな。じゃがこやつは大量の雪を吸収して通常よりもかなり大きくなっておる。魔石を破壊するのは大変じゃろう」
「まずは魔石を見つけないと」
「私が魔石の場所を検索してみます」
「頼んだよクロエ」
クロエが魔石の場所を検索すると、スノーゴーレムが巨大な拳を振り下ろし、俺達は散開して避ける。
「さっきは不意を突かれたからな。今度はこっちからだ!」
エンがフレイムソードに火を纏わせると、スノーゴーレムの右腕を斬り落とし、地面に落ちた右腕が砕けた。
「へっ、どうだ」
右腕を斬り落とされたスノーゴーレムは左腕を雪の中に突っ込むと、雪が左腕に吸収され、右腕の断面から新しい右腕が生えた。
「はぁ!? マジかよ!?」
「ゴーレムって再生出来るの?」
「体を構成している物質があればな。一面、雪だらけのここでは厄介じゃな」
前に戦ったアイスゴーレムは周りに氷が無かったから再生しなかったのか。
ゴーレムってこんなに厄介だったんだな。
「皆さん。魔石を発見致しました。ゴーレムの頭部です」
魔石を見つけたクロエが魔石の場所を言った。
頭部かぁ。コイツデカいからそこまで光のエレメントで強化したジャンプでも届かないかも。
「あんな高ぇ所にあんなら、俺がぶっ壊してやる」
ウィドが風のエレメントで浮くとスノーゴーレムの顔に向かって飛ぶ。
近付いてくるウィドに、スノーゴーレムが腕を振り回すと、ウィドは躱してハリケーンブーメランに風を纏わせてスノーゴーレムの顔に向かって投げると、スノーゴーレムは避けようとするが、少し当たり顔が半分崩れ、魔石が見えた。
「チッ。壊せなかったが、見えりゃあこっちのもんだ!」
ハリケーンブーメランを手に取ったウィドが魔石に向かってもう一度投げようとすると、スノーゴーレムが拳を突き出してくる。
すると、龍のエレメントで翼を生やし飛んだリューラが口から吐いた火を浴びせてスノーゴーレムの動きを止めた。
「今だ!」
「うりゃぁぁぁ!」「んだぁぁぁ!」
アルツのアースハンマーとスチアの鉄の拳がスノーゴーレムの両足を破壊し、スノーゴーレムは転倒した。
止めにエンがフレイムソードを露出した魔石に突き刺すと、スノーゴーレムの目の光が消えて体が崩れた。
「よし、倒せた」
「腕斬り落としたのに再生されて兄さん良い所無かったからね。止めさせて良かったわね」
「お前、俺への棘が強くなってないか?」
「気のせいじゃない?」
「お前と付き合ってからだよ」
「ん~……ん?」
突然地面が揺れて地震かなと思っていると、山の上から大量の雪が流れてきた。
「雪崩だ!!」
『うあああああああっ!!』
迫りくる雪崩に、俺達は巻き込まれてしまった。




