捜索依頼
「おはよう、勇也」
「……おはよう」
朝起きると、レインが目の前にいた。
もうこの光景も当たり前の様に今は感じている。
するとレインは目を閉じて俺に顔を近づけ――。
「せいっ!!」
「痛っ!?」
――ると、静かに部屋に入ってきた美奈がブーツでレインの頭を引っぱたく。
「ちょっと、何するのよ!?」
「それはこっちの台詞よ。また勇のベッドに潜り込むなんて」
「別に良いじゃない。恋人同士なんだから」
「良くないわよ! この夜這い女!」
「誰が夜這いよ!」
この二人の喧嘩も、もう見慣れてしまった。
……にしても、何で美奈はこんなにレインと喧嘩するんだ?
地球にいた時は他の子とここまで喧嘩したこと無いのに。
――――――――――――――――――――
「職員の捜索ですか?」
朝食を終えて一時間経った頃、グレスさんが訊ねて来て一つの依頼を持ち込んできた。
「ウォルー山地という場所でギルド職員が魔物の生態調査に向かったんだが、半月経っても音信不通でな。依頼を出してもすぐに冒険者が受けるとは限らない。そこでお前達に頼みに来たんだ」
何か遭ってから依頼を受けていたら、確かに遅いもんな。
「魔物がいる場所にギルド職員だけが行ったのか?」
「いや、確か護衛として冒険者が三名程いたはずだ」
「では、魔物にやられた可能性は低いでしょうか?」
「あの辺りは強い魔物は滅多にいないが、護衛の冒険者はランクが高いわけでもない。何か不測の事態が起きた可能性もある」
グレスさんの話だと、ウォルー山地はとても広いらしい。
人数も多くて、空からも探せる俺等なら、すぐに見つけられるかもしれない。
「引き受けてくれるか?」
「はい。勿論です」
「すまない」
グレスさんは頭を下げると屋敷を後にした。
「では向かうとするかのう」
「ああ」
俺達は準備を終えると、庭にライトドラゴン、青龍、フェニックス、スカイイーグルを召喚して背に乗った。
「じゃあ行こう」
「ちょっと待って」
青龍の背に乗った美奈が突然言い出した。
「何であんた勇の後ろに乗ってるの? あんたの召喚獣も飛べなかったっけ?」
美奈は俺の後ろにいるレインを指差す。
「リヴァイアサンは速く飛べないのよ。だから良いじゃない」
レインは俺に抱き付くと背中に柔らかい物が当たり、美奈が険しい顔で睨む。
「なぁ、さっさと行こうぜ」
「そうじゃな。早く行こうぞ」
「あ、ああ」
ライトドラゴン達が空に飛び上がると、ウォルー山地へ飛んで行った。
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「わぁぁぁ、風気持ち良い!」
青龍の背に乗っている風間は手を伸ばして風を浴びていた。
「まさか龍の背中に乗って空を飛べるなんて思えへんかったわ」
「だねぇー」
青龍の背にはリューラと地球組が乗っている。
龍の背中に乗って空を飛んでいる、という状況に少し興奮しているように見える……が。
「ひぃぃぃ!」
小森先生だけはプルプルと震えながらリューラにしがみついている。
「なぁ。あんたは一応教師なんだろ? そんなに怖がってて良いのか?」
「そ、それはそうなんですけど……私……高い所苦手なんです」
怯えながら言う先生に、リューラは呆れ顔になる。
先生の方が年上のはずなのに、背が高いせいかリューラの方が年上に見える。
「林先生結構怖がりだもんね。去年の文化祭でお化け屋敷って決まった時、顔ひきつってたし」
「そう言えばそうだったわね」
「あんまり恥ずかしい話をしないで下さい~」
先生が恥ずかしがってからしばらく飛び、目的地のウォルー山地が見えた。
「見えたぞ。ウォルー山地じゃ」
「広いな」
「本当ね」
「うむ。じゃが、この人数なら普通より早く見つけられるかもしれん」
「とりあえず、まずは地上に下りよう」
地上に下りると、召喚獣の背から下りて召喚獣を戻し、捜索前に話し合いを始めた。
「ウォルー山地は広い。じゃから分かれて探そうと思うが……ライデン、通話機はどのくらいあるんじゃ?」
「新しく二つ出来たから四つだな」
「そうか。クロエに通話機の機能がある事を考えると、五組に分かれて捜索するとしよう。メンバーは、そうじゃなぁ……」
能力や個人の相性などを考えた結果、メンバーは……。
一、俺、レイン、ジーリュ、厚、大貴、美奈
二、リューラ、ヒレア、小森先生、風間、氷室
三、エン、ライデン、クロエ
四、ミスク、レイフ、フィーズ
五、ビト、ウィド、スチア、アルツ
このように決め、ライデンから通話機を受け取り、俺達はウォルー山地に入る。
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「ねぇ~、歩いて探すの? 龍に乗って空から探した方が良くない?」
歩いて捜索してしばらくすると楓華が訊ねた。
「この山脈には森があった。森の中にいたら空からでは見つけにくいだろ」
「それもそうやな」
「文句を言わずに探せ。自分の意思で私達の仲間になったのなら責任を持て」
少し厳しめのリューラの言葉に、楓華は気圧される。
「あんまりリューラを怒らせない方がいいわよ。ああいう子だから」
「せやな。この一週間で分かったけど、リューラさん厳しい人や」
「うーん。確かに、よく特訓で光野君と火之浦君がリューラさんに痛い目に遭わされてるし」
「……なぁ。なぜ他の皆は呼び捨てで、私だけさん付けなんだ?」
リューラに聞かれて、楓華と玲は少し考え込む。
「何て言うか……リューラさん頼りになると言うか、圧がすごいと言うか……」
「なんか姉御って感じがするんだよねぇ」
「なんだそれは……?」
「ぶっちゃけ、林先生より大人っぽい」
「先生としては複雑なんですけど!?」
そんなやり取りを後ろから見ていたヒレアは「ははっ」と微笑していた。




