鉄の町の雷少年
クタガラの町へ向かう道中、俺はこの世界の文字の勉強をしていた。
紙に書かれているこの世界の文字の横に、元の世界の文字を書いて勉強中だ。
「これって勇也の世界の文字?」
レインが寄り添って俺が書いた『あ』の文字を指差す。
寄り添った際に、レインの胸が俺の腕に当たった。
「あ、ああ」
腕が当たって思わずドキッとしたけど、今は文字を覚えるのに集中しないと。
「他のエレメンターを探すのも大事じゃが、この世界の常識を覚えるのも大事じゃな」
ジーリュがそう言った後、俺はある事を聞き出した。
「そう言えばさ、エレメントって他にはどんなのがあるの?」
12個存在するエレメントの中で俺が知っているのは俺の光、レインの水、エンの火、そしてこれから会う雷の四つだ。
「エレメントの力はお主等の光、火、水、これから会う雷の他にあるのは土、風、氷、草、獣、鉄、煙、そして龍じゃな」
他にはそんなエレメントがあるんだ。
すると馬車がピタッと止まった。
「皆。もう日が暮れ始めてきたから、今日はここで野宿にしましょう」
ヒレアの結界魔法で安全を確保した後、エンの火のエレメントで焚火をつけてあっという間に野宿の準備が進んだ。
「ところで食料はあるけど、料理はどうするの?」
肉もあるし、流石に生じゃないよな?
「それじゃあ私が――」
「待つんじゃヒレア!」
ヒレアが鍋を手に取ろうとすると、ジーリュが制止した。
「お主。これまで作ったものが全て黒い物質と化したのを忘れたか?」
「うっ……!」
黒い物質って……そんなベタな事があるの、本当に?
「えっとー、二人は?」
エンとレインの方に視線を向けると、二人は首を横に振った。
「じゃあ、俺が作る」
「出来るのか?」
「普通程度なら」
その日の夕飯は、簡単な串焼きだ。
もちろん焦げてはいない。
「結構手際が良かったのう」
「両親が帰ってくるのが遅い日がよくあったからそれでかな」
今思うと、少し寂しかったかな。
「帰りが遅くてもちゃんと親がいるのはいいじゃねぇか」
突然そんなことを言うエンに俺は首を傾げると、ジーリュが口を開いた。
「実はのう、二人の両親は五年前から行方不明になっとるんじゃ」
「え?」
「俺達の家は鍛冶屋でな。ある日、俺とレインが買い出しから帰ったら親父とお袋がいなくて、代わりに置手紙があったんだ。『大きな仕事が出来たからしばらく家を空ける。その間はここで世話になってもらえ』って」
「それで私達、ジーリュ達の所に来たの」
急に親が行方不明か。不安だな。
「あれ? 二人の両親って事は先代の……」
「うむ。二人の両親は先代の火と水のエレメンターじゃ。力も無くなってしまったから、何かに巻き込まれたのではないかと思っておる」
「エレメントの力って無くなるの?」
「次の代が生まれれば、力はどんどん次の代へ渡っていき、完全に受け継がれれば、エレメントの力は使えなくなるんじゃ」
じゃあ先代のエレメンターは皆もう使えないのか。
エレメントの大切さがよく分かってきた。
「……って事は、俺も次の代に受け継がせないといけないって事だから、必ず結婚しないといけないってこと?」
「当然じゃ。ちなみに恋愛経験は?」
「無い。初恋もまだ」
「まぁまだ若いんじゃ。焦らなくてもよいわい」
なんか余計大変になった気がする。
エレメンターって思ったより激務だな。
――――――――――――――――――――
野宿を終えて、俺達は再びクタガラの町へ向かった。
道中も昨日同様、この世界の文字を勉強していた。
馬車に揺られて数時間。遠くに町が見えた。
「見えたぞぉ。クタガラの町じゃ」
ウェアークで作った身分証で検問を終えて町の中に入った。
町を囲う石の壁を更に鉄で補強されており、町の至る所から鉄を打つ音が響き渡る。
「この町の近くに鉄が豊富に取れる鉱山があってのう。そのお陰でこの町は鉄工業が盛んなんじゃ」
「へぇー。鉄製品をよく見るのはそういうことか」
「まずは宿へ向かい、そこで馬車を預け雷のエレメンターの情報を聞くぞ」
町を進んで宿に着くと、馬車から降りて宿に入って男部屋と女部屋の二部屋を取った。
「御一人様銅貨三枚ですので、銅貨12枚になります」
ヒレアは財布から銀貨一枚と銅貨二枚を取り出して受付の女性に渡す
この世界の金は硬貨のみらしい。
……やっぱりジーリュはノーカウントなんだ。
「一つ聞きたいんですけど、この町に雷のエレメンターがいると思うんですけど」
宿泊料を渡すと、雷のエレメンターの事を聞いた。
「雷のエレメンターですか。それでしたら……」
女性はカウンターを出ると、宿の外に出てまっすぐ町の壁を指差した。
「真っ直ぐこの先の町の壁際にある青い屋根の一軒家が雷のエレメンターのお宅です」
「分かりました。ありがとうございます」
お礼を言うと、女性は宿の中に戻っていった。
「案外早く見つかったな」
「そうね」
「町中隈なく探すよりは良いじゃん」
とにかく俺達は真っ直ぐ町の壁に向かって進んだ。
町の壁際を進んで探していると、倉庫の様な建物と隣接している青い屋根の一階建ての一軒家が見えた。
「あの家かな?」
「かもしれんのう」
家の前に立つと、ドアをノックした。すると中から女性の声が聞こえてドアが開くと、茶髪の女性が出てきた。
「どちら様でしょうか?」
「あの、ここって雷のエレメンターの家ですか?」
俺がそう訊ねると、女性は目と口を丸くした。
「そうですけど……もしかして、エレメンターの方々ですか!?」
「あ、はい」
この反応からして当たってるっぽいな。
「初めまして。私キィリといいます」
自己紹介をすると、俺の頭の上に乗っているジーリュが身を乗り出した。
「キィリよ。一つ聞きたいんじゃが、ここにサダと言う男はおらぬか?」
ジーリュがそう訊ねると、キィリさんは少し暗い表情で答えた。
「サダは私の旦那です。ですが、旦那は二年前に病気で亡くなってしまいました……」
「む……そうか。久しぶりに話でもしたかったんじゃがのう」
「ええ、残念ね」
ジーリュとヒレアはガッカリと肩を落とした。
「あ、でも旦那のエレメントの力は、ちゃんと息子のライデンに受け継がれているので安心してください」
「おお、そうか! で、息子さんは今何処にいるんじゃ?」
「ライデンでしたら――」
キィリさんが教えようとすると、隣接している建物から何かが崩れる音と、「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」と男の悲鳴が聞こえて建物の中から砂煙と埃が噴き出た。
「何だ!?」
「あー多分……」
キィリさんが建物へ向かうと俺達はついて行った。
建物の中に入ると、中に大量のガラクタの山があった。
「何だこりゃ?」
すると、ガラクタの山の中から手が出てきて、作業服を着た俺と同い年ぐらいの金髪の少年の顔が出てきた。
「ゲホッ! ゲホッ! オエッ!」
「大丈夫ライデン?」
キィリさんは咳込んでいる少年に手を引っ張ってガラクタの山から引きずり出した。
「皆さん。この子が、息子のライデンです」
「ん? 誰だアンタ等?」
ライデンは俺達を見て首を傾げる。