表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンターズ  作者: 至田真一
予期せぬ再会
46/202

街中での再会

「はい勇也、あーん」

「う……う、うん」


 レインがウインナーを刺したフォークを突き出すと、俺は照れながら口に入れた。

 レインと付き合うことになって一週間。ずっとこの調子だ。

 最初はエンから「恥ずかしくないのか?」って言われたし、皆から居心地が悪そうな顔で見られていた。

 ……けど、今は皆もう日常の風景の様に気にしなくなっている。たまにライデンから嫉妬の目で見られるぐらいだ。

 まさか、恋に憧れていたってだけでここまで積極的とは思わなかった。……まぁ、あんまり悪い気はしないけど。


「ねぇ、誰か今日食料の買い出しに行ってくれない?」

「食料が少ないのか?」

「アルツとミスクが凄ぇ食うからだろ?」

「私達が悪いの?」

「皆と同じ量じゃ足りねぇんだよ」


 大食い二人によって食料の減りが凄まじいみたいだ。


――――――――――――――――――――


「んんっ……ん?」

「あ、美奈起きた?」


 美奈が目を覚ますと、楓華が声を掛けた。


「美奈ちゃん起きたん?」

「玲。此処……何処? 私達バスに乗ってたはずじゃあ?」

「分からへん。気付いたら此処におったんや」


 美奈は辺りを見渡すと、そこは大きな木が一本生えただけの丘の上の広場だった。

 まだ全員起きていないが、クラスメイトの皆もいて、小森先生が起こしている。


「厚。大貴も起きてたの?」

「俺は今起きた。一体何処なんだ此処は? まさか天国じゃねぇだろうな?」

「それは無いよ。ほら」


 厚が振り返って丘の下を指差すと、その先には町があった。


「日本……じゃないよね。でも海外にも見えない」

「そうなんだよ。まず……此処は地球なのかどうかも怪しいんだ」

「え、何? 此処は俗に言う異世界ってやつ?」

「かもしれないんだ。スマホも圏外だし」


 美奈はスカートのポケットからスマホを取り出して電源をつけると、『圏外』と表示されている。


「皆さーん、集まって下さい!」


 小森先生が皆を呼んで集めた。


「皆さん、よく聞いて下さい。今私達は何処にいるのか分かりませんし状況も分かりません。ですが、ずっとここにいても何も起きません。なので、町の方へ下りて情報を集めようと思いますが、良いですか?」


 生徒達は不安そうな顔をしてしばらく沈黙する。


「だ、大丈夫ですよ! きっと、いや絶対何とかなりますから! さぁ、行きますよ!」


 一番不安そうな林子を見て生徒達は更に不安になる。そんな林子を先頭に、生徒達は階段で丘の上から下りていく。

 町の方へ下りてきた林子と二年三組の生徒達は、見たことの無い町の雰囲気や人が日本……いや、地球と違う事に驚きを隠せずにいた。


「やっぱり此処……地球じゃ無いね」

「こんな風景を見ても『ここは地球です』なんて言える程現実逃避出来ないわよ」

「と、とにかく、まずは此処が何処なのかを知りましょう。代表として、私が話を聞いてきます」

「……先生。足が震えてますよ」

「だ、大丈夫です! 任せて下さい! あ、あのお爺さんに聞いてきます」


 足を小刻みに震わせながら、林子はベンチに座っている老人の元へ歩く。


「大丈夫かな? 林先生」

「林先生、何気に人見知りやさかいね」

「……心配だから、僕行ってくるよ」

「お、頑張れ~クラス委員長」


 厚は老人に話しかけている林子の元へ向かう。


「あのぉすみません」

「はい? 何でしょうか?」

「あのぉ、そのぉ……」

「僕達、初めてこの町に来たんですけど、何て言う町ですか?」

「火之浦君!?」


 横から入ってきた厚に林子は驚く。


「ここはウェアークという町ですよ」

「ウェアーク……?」


 当然、全く聞き覚えが無いため、厚と林子は困惑する。


「何かお困りでしたら、冒険者ギルドに行ってみてはどうでしょう? あそこのギルドマスターは誰にでも優しい方ですから、頼りになりますよ」

「そうなんですか? ……どうしますか、火之浦君?」

「今は当てがないですし、そうしましょう。ありがとうございます」


 皆の所へ戻ろうとすると、老人が思い出した様に声を掛ける。


「あっ、この町でしたら、エレメンターの方々に頼るのが良いかもしれません」

「エレメンター? 誰ですか?」

「おや、知りませんか? エレメントと呼ばれる特別な力を持つ人達の事です。その力で代々活躍していた方々で、先代に至っては人々を苦しめた魔王を倒した程です」

「そうなんですか」

(魔王っているんだ)

「当代のエレメンターの方々も、最近活動を始めたのですが、数ヶ月前にこの町をワイバーンの群れから守ってくれたんですよ」

「そ、そうですか。それで、そのエレメンターは何処に居るんですか?」

「町の北東にある三階建ての屋敷に住んでいますよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」


 二人は老人にお礼を言い、皆の所へ戻ると、先程よりも重い空気が漂っていた。


「み、皆さん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫な訳ないじゃん、林先生。急に知らない所にいて皆不安なんだから」

「そう……ですよね……」


 林子は浮かない顔になって視線が下がる。


「それで厚。あのお爺さんから何か聞けたの?」

「ああ。何でもこの町に特別な力を持ったエレメンターって言う人達がいるらしいから、その人達を頼ろうかなと思ったんだ」

「せやけど火之浦君。私達の事をどう説明するん? 違う世界から来たなんて言うても信じてくれへんで」

「……」


 玲の言葉に厚は黙り込んでしまう。

 確かに信じてくれるとは思えない。どうすれば良いのか。

 厚は頭を悩ませていると、街路樹を挿んだ反対側の道から話声が耳に入る。


「随分沢山買ったな」

「しょうがねぇだろ。お前とミスクが凄ぇ食うんだからよぉ」

「これまで皆さんの食事量を見て計算した結果、お二人は他の皆さんに比べて三倍近くの量を摂取しています」

「お金も無限ではないんですから、少し量を押さえた方が良いと思いますよ」

「オイラの心は今すごい滅多打ちを受けたぞ」


 そんな話声が聞こえてきたが、今はそれどころではなかった。

 これから先、そうすればよいのか厚は悩んでいる。


「もう買うのはこれだけ? “勇也”」

((((……ん?))))

「そうだね、十分買ったから大丈夫だよ。アルツが食う量を減らしてくれれば更に良い」

「酷ぇよぉ! “勇也”まで言うのかよ!」


 聞き覚えのある名前を聞いて、厚、美奈、大貴、林子の四人は反応した。


「今、聞き覚えのある名前が聞こえたんですが……」

「きっと、同じ名前ですよ。はは……」

「そ、そうよね」

「だよな」


 四人の会話がよく聞こえなかった楓華と玲は首を傾げる。


「どうしたんだろうあの四人?」

「さぁ、分かれへ……ん」


 玲は視界に入ったのを見て目を大きく開く。


「どうしたの玲?」

「なぁ楓華ちゃん。うちの見間違いじゃなかったらなんやけど」

「ん?」


 玲が街路樹の向こうを指差して楓華は振り返る。


「……ねぇ火之浦君、林先生」

「ん?」

「どうかしましたか? 風間さん」

「私の見間違えじゃなければ、あれって……」


 楓華が近くにいる厚と林子を呼んで街路樹の向こうを指差す。

 厚と林子は顔を向けるが、街路樹が邪魔でよく見えないので楓華の元へ行って見た。

 指差した先には六人の少年少女がいるが、厚はその中で白いコートを着た少年を注目する。何故なら、顔は見えないが後ろ姿に見覚えがあったからだ。

 しばらくすると、その少年の横顔が見え、それを見た厚と林子は思わず声を上げた。


「勇也!?」「光野君!?」


 突然の大声に六人が驚き厚達の方を見た。

 そして白いコートを着た少年、勇也は「え?」と声を漏らす。


「厚? 小森先生?」


 勇也の声が聞こえた美奈と大貴は厚の元へ急ぎ、勇也の方を見る。


「勇!?」

「え、美奈も? 大貴まで。それにクラスの皆もいるし、どういう――」

「会いたかったぞぉ!! きょうだーい!!」

「うおっ!?」


 跳びかかってきた大貴の顔に、勇也は左腕の予見の盾をぶつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ