悪霊になった理由
メーシャが召喚したリザードマンとフロックバードが一斉に俺達に襲い掛かってきた。
「おいおい、凄ぇいるぞ」
「召喚魔法は魔力が多いほど沢山呼べる。メーシャは魔力量もかなりのものだったからな」
流石、先代のエレメンターの元仲間だな。
「勇也。お主は戦うな」
「え? 何で?」
ジーリュに言われて、俺は戸惑った。
「あの子が狙っているライトカリバーと予見の盾を持っておるのはお主じゃ。お主が戦えば間違いなく集中的に狙われる。そうなればお主ばかりに負担がかかる。じゃから勇也はその二つを守ることに集中するんじゃ」
「……分かった」
皆が魔物達に向かうと、俺は左腕に予見の盾を付け、ジーリュ、ヒレア、そしてまだ調子が戻ってないレインと一緒に反対側へ走りだす。
林を抜け崖路を気を付けながら進む。空からフロックバードが時々襲ってきて、ライトカリバーで光の斬撃を飛ばして倒していく。
「レイン、大丈夫?」
「う、うん……」
まだ不調で、肩を貸しているレインを心配する。
元気がない……というか、目を合わせようとしない。まるで少し前のように。
「見つけたわ!」
「メーシャ!?」
メーシャが魔法で火の玉を撃つと、近くの岩肌に当たり、俺の足元の崖が崩れた。
「うわぁ!?」
「勇也!」
俺は崖下に向かって落ちると、木と草むらがクッションになった。
「痛てて、危なかった。意外と落ちたな。メーシャに見つかる前に早く――」
「逃がさないわよ」
振り向くとメーシャがすでにいて、雷の魔法が俺の周りに放たれた。
「うっ!」
砂煙が上がって視界が悪くなると、一部吹き飛んで砂煙に穴が開き、そこから大きな火の玉が俺に向かって来た。
マズい! この距離だと障壁を上手く張れない!
直撃を覚悟して身構えると、大量の水が火の玉に向かって飛んできて火の玉が消えた。
「何?」
メーシャが驚いていると、俺の元にレインが来た。
「勇也、こっち!」
「あ、ああ!」
レインと一緒に走りメーシャから距離を取る。
メーシャは砂煙で俺達が見えていないようだ。その隙に小さな穴の中に入った。
「ありがとうレイン。助かったよ」
「……」
「レイン?どうしたの?」
「……んね」
「え?」
「勇也……ごめんね」
「え? ……何で謝ってるの? さっき謝ってたじゃん」
「違うの。私が取り憑かれてた時に……勇也を傷つけたから」
レインは涙をこぼしながら言う。
……あの事をずっと気にしてたのか。
「やったのがメーシャでも、体は私だから……私が傷つけたみたいに思っちゃって……もう、勇也に嫌われたと思ったの……」
レインは更に涙を流す。
……思うわけ、ないじゃないか。
俺はレインを慰めるためにレインに抱き付いた。
「ゆ、勇也!?」
「大丈夫……レインは悪くない。君は何も悪くない。俺は、君に傷つけられたなんて思ってないよ」
俺に抱き付かれたレインはしばらくすると俺の背に手を伸ばした。
(やっぱり……私……)
「おーい、無事かー!?」
ジーリュの声が聞こえて俺達はサッと離れ、レインは涙を拭いた。
「いた! 大丈夫二人とも!?」
「ああ。大丈夫だ」
それを聞いたヒレアはホッと胸を撫で下ろす。
「まだメーシャが近くにいるわ」
「必死に探しておる。何故あの子はあんなにライトカリバーと予見の盾を欲しがっておるんじゃ?」
「……私、分かるかもしれない」
レインの言葉に、俺とジーリュとヒレアは顔を向ける。
「メーシャに取り憑かれてた時にメーシャの気持ちを感じたの。ライトスさんに会いたいって」
メーシャがライトカリバーと予見の盾を狙う理由の心当たりをレインが話した。
「なるほどのう」
「きっとライトスに会えない悲しみが、あの子を悪霊に変えてしまったのかもしれないわね」
「そしてその悲しみを紛らわせるために、ライトスが使っていたライトカリバーと予見の盾を手に入れようとしているのかもしれん」
悲しみを紛らわせるため……か。
愛してる人が亡くなった時の悲しみは、まだ俺には想像つかない。
俺はそう思った後、レインをチラッと見る。
……あれ? 何で俺、レインを見たんだ?
「あの子をこのままにしておくわけにはいかん。早く止めねば」
「え、あ、ああ。でもどうやって?」
「ヒレアは浄化魔法が使える。浄化魔法をメーシャにかけて成仏させる」
成仏か。霊体にはそれしか効かないか。
「でもあの子は間違いなく抵抗するでしょう。だからどうにか隙を作って」
「分かった。行こうレイン」
「うん」
俺は立ち上がってレインに手を伸ばすと、レインは頷いて手を取って立ち上がる。
――――――――――――――――――――
「うおぉぉぉっ!!」
グレスが両手の斧を思いっきり振り下ろして地面に叩きつけると、前方にいたリザードマン達が吹き飛ばされた。
「凄ぇなグレスさん」
「これでも先代のエレメンターと一緒に魔王軍と戦っていたからな」
「おーい! 皆ー!」
魔物達と戦っているエン達の元へ勇也、レイン、ジーリュ、ヒレアが駆け寄る。
「どうした? 勇也は隠れてなきゃいけねぇはずだが?」
「そんな事より聞いてくれ!」
勇也はメーシャを浄化魔法で成仏させることを話した。
「だから皆はメーシャに隙を作るのを手伝ってほしいんだ」
「なるほど。その案、俺は乗ろう。かつての仲間が苦しむのは見たくないからな」
「ありがとうグレスさん」
「んー、仕方ねぇか。それしか方法無さそうだしな」
「そうだな。私達も協力しよう」
皆が頷くと、遠目でメーシャがこっちに向かってくるのが見えた。
「来たぞ。お主等、サポートを頼む」
皆は召喚獣を呼び、勇也もライトドラゴンを召喚し、ジーリュとヒレアも乗る。
「今度こそ……いただくわ!」
メーシャは召喚魔法で翼竜の様な魔物を無数召喚した。
「あれはプテラスという魔物じゃ。フロックバードよりも圧倒的に強い。気を付けるんじゃ!」
「ああ! 何とかして、メーシャに近づかないと」
浄化魔法は対象の近くでないと効かない。
勇也は近づける方法を考えていると、左腕に着けている予見の盾を見る。
「そうだ。予見の盾でプテラスが何処から来るのか分かれば近づけるかな?」
「恐らく可能じゃが、予見の盾を使うのなら注意点を説明しておく」
「注意点?」
「予見の盾で未来を見たら、映った未来の時間まで使えなくなる」
「えっとー、つまり?」
「例えば、一時間後の未来を見たならば、その映しだされた未来が起こる一時間の間は未来を見れないという事じゃ。そして見る未来が遠い程ぼやけて見えてしまう」
「先の未来を見すぎない方が良いのか」
注意点を聞いた勇也は、これからのプテラスの動きを予見の盾で見た。




