魔物退治、そして旅立ち
洞窟を進むと、奥から三体のゴブリンが向かって来た。
先頭のゴブリンが手に持っている棍棒を俺に向かって振り下ろすと、俺は飛び退いて避け、剣でゴブリンを斬りつけてゴブリンを倒した。
残りの二体を、エンが火の玉、レインが水の玉で撃退した。
次々と襲ってくるゴブリンを倒しながら洞窟の奥へ進んで行くと、洞窟の一番奥の広場に来た。
「ここで終わりかな?」
ここまでで10匹以上のゴブリンを倒してきた。
「小規模って聞いたけど結構いたような」
「そうじゃな。思ったより数が多かったのぅ。じゃが勇也に良い経験になったじゃろう」
「まぁ、そうかも」
「……もういないかしらね。さっきので全部かもしれないわ、戻りましょ」
ヒレアの言葉に俺達は振り返って洞窟を出ようとすると、奥からズシン、ズシンと大きな足音が近付いてくる。
振り向くと、奥から手に石で出来た斧を持った三メートル程ある大きなゴブリンが出てきた。
「何と! あれはゴブリンキングじゃ!」
「道理でゴブリンの数が多いわけね」
これまでのゴブリンよりも圧倒的に強そうな見た目に、俺は息が詰まりそうになった。
「グルアァァァァァァァァ!!」
ゴブリンキングは咆哮を上げ石の斧を振り下ろすと、俺達は散開して避けた。パワーも桁違いだ。
「今の皆ではとてもキツい相手じゃ。一旦引くぞ」
「そうは言っても、コイツ逃がしてくれ無さそうよ!」
ゴブリンキングは広場の入り口近くまで移動して、俺達を逃がさない様にしている。
「ああ。だから……倒すしかねぇだろ!」
エンは火の玉をゴブリンキングに向かって撃つと、ゴブリンキングは石の斧で火の玉を弾いた。
「ちっ!」
俺は光の玉を撃つとゴブリンキングの頭に命中して、命中した場所を押さえると俺の方を睨む。
続けて背後からレインが手から放った水をゴブリンキングの背中に当てると、今度はレインを睨んだ。
レインは距離を取ろうとすると、石につまづいてその場に転んでしまった。
「きゃっ!」
ゴブリンキングはレインに近づいて石の斧を振りかざした。
「レイン!!」
俺は足に光のエレメントを足に集中させると、足が光って凄い速さで走りだした。
振り下ろすと同時にレインの元に着いた俺は、左手を前に出して咄嗟に光の壁を作り出して石の斧の一撃を防いだ。
「おぉー」
咄嗟に光の壁を作ったからか、ジーリュが歓心していた。
石の斧を防げたが、少しづつ俺は押されて行くと、エンが火を纏わせた剣でゴブリンキングの石の斧を持った右手を斬り落とした。
「グルアァァァァァァァァ!!」
ゴブリンキングは石の斧を左手に持ち直して突っ込んできた。
倒すんなら一撃じゃないと。
俺は一か八かに出た。剣に光のエレメントを集中させると、剣先をゴブリンキングに向けてそのまま引いた。
ゴブリンキングが近付いて行き、十分な距離になったところで。
「今だ!」
俺は剣を前に突き出すと、剣先から光の光線が撃ちだされて、ゴブリンキングを貫通した。
腹に穴が開いたゴブリンキングは後ろにゆっくり倒れた。
「や、やった~……」
俺はその場で尻餅をついた。
一か八か、ゲームで見た剣からの光線を見よう見まねでやってみたけど、上手くいって良かった。
「凄ぇな勇也」
エンは俺に近づいて俺の背中を叩いた。
「本当に凄かったわ。あと、ありがとう」
レインは笑って俺に礼を言った。
「咄嗟の行動でも光のエレメントを上手く使いこなしておる。これならば、明日には旅立っても問題無さそうじゃ」
「そうね」
無事に討伐を終えた俺達は洞窟を出た。
今回の件で、俺は少し自信が付いた気がする。
――――――――――――――――――――
依頼を終えたその日の夜、俺は屋敷の庭の芝生に座って夜空を眺めていた。
(星とかあんまり詳しくないけど、やっぱり元の世界と違う気がするな)
明日から残りのエレメンターを探す旅に出ると、夕飯の時にジーリュに言われ、俺は少し緊張していた。
光のエレメンターはエレメンターのリーダーをすることが決まっているらしい。最強のエレメントだから当然かも知れないけど……。
エレメンター達のリーダーという責務に、俺は正直やっていけるのか不安だった。
「どうしたの、こんな時間に?」
声を掛けられて振り向くとレインが歩み寄って来て隣に座った。
「眠れないの?」
「ああ。皆のリーダーをしないといけないのかって考えると、何か緊張して……」
そんな俺の手を、レインが優しく握ってきた。
「大丈夫だよ。今日の特訓を見て分かった、勇也はとても頑張り屋だって。だから大丈夫だよ」
「あ、ありがとう……」
笑顔でそう俺に言うレインに、俺はドキッとしてしまう。
「もう寝よ。明日出発するんだから」
「ああ。そうだね」
俺達は明日に備えて自室に戻って眠りについた。
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次の日。俺達は屋敷の門の前にある10人以上乗れる屋根付きの大きな馬車に集まっていた。
「皆よ、忘れ物は無いか?」
「うん。大丈夫」
「ああ」
「ええ」
この世界には魔法袋という物があって、その中にはいくらでも物を入れられるからとても楽だ。
「うむ。ではヒレアよ、頼んだぞ」
「ええ、任せて」
ヒレアは門の前に立つと手をかざした。
すると、屋敷を囲うように光の壁が現れると、光の壁が見えなくなった。
「今のは?」
「結界魔法じゃ。ヒレアは回復魔法だけでなく結界魔法も得意なんじゃ。これでワシ等が留守の間は誰も屋敷の敷地にすら入ることが出来ぬ。野宿をするときも結界で守ってもらうから魔物に襲われる心配もないぞ」
なんか魔法って改めて凄いなぁって思う。まぁ俺から見たらエレメントの力も魔法みたいなもんなんだけどね。
準備を終えた俺達は町の門へ向かった。
門に着くと、そこではグレスさんが待っていた。
「とうとう出発か。またエレメンターが揃うのを楽しみにしているぞ」
「うむ。任せよ」
ジーリュが頷いて答えると、グレスさんは二ッと笑った。
「まずは何処に行くの?」
「最初は一番近いクタガラという町へ向かう。情報通りなら、そこには雷のエレメンターがいるはずじゃ」
雷ってことは電気の力か。
「クタガラなら馬車で明日には着くじゃろう」
「そうなんだ」
門を通って町の外に出ると、俺達は馬車に乗った。
馬を扱うのはヒレアだ。
「それじゃあ行ってきますね」
「ああ。頑張れよ!」
馬車が走り出すと、グレスさんは手を振って俺達を見送り、俺達も手を振った。
こうして、初めての異世界の旅が始まった。