奪われた仲間
ベヒーモスが右前足で薙ぎ払うと、俺達は飛び退いて躱す。
「レイフ。僕達でベヒーモスの足を止めましょう」
「はい」
フィーズは冷気を、レイフは蔦をベヒーモスの足に向かって放つと、二人の攻撃が何故かベヒーモスをすり抜けた。
「え?」
「すり抜けた?」
驚く二人に続いて、エンとウィドが火の玉と風の刃を放つが、これらもすり抜けた。
「どうなってんだ?」
首を傾げるライデンの横で、クロエがベヒーモスを解析した。
「皆さん。あのベヒーモスから体温や質量が検知されませんでした」
「それってどういうこと?」
「あのベヒーモスは、幻影である可能性があります」
「幻影!?」
皆も聞こえて、戦闘態勢を解いた。
「思ったより早くバレたわね」
「誰だ!?」
リューラが声を上げると、ベヒーモスが歪んで消え、片手に杖を持ち、白いローブを着た黄緑色の長い髪の20歳ぐらいの女性が空中に浮いて現れた。
「お前か。あの依頼書の差出人は」
「ええ、そうよ。私の名はメーシャ」
「どうして俺達をここに?」
ベヒーモスの幻影まで使って、何で俺達を?
それより、あのメーシャって奴、体が少し透けてるんだけど。
「皆さん。あの人を解析した結果、実体に近い状態の霊体だと推測されます」
「つまり……アイツは幽霊って事か?」
「はい」
「貴女、機械なのね。どうりですぐに分かった訳だわ」
やっぱり幽霊かよ。
「んで、幽霊が俺等に何の用だ?」
「それは……すぐに分かるわ!」
メーシャは杖から魔法の火の玉を数発撃ってきて、俺達は散開して躱した。
「この野郎!!」
ウィドはハリケーンブーメランを投げるが、相手は幽霊だから当然効くわけがなくすり抜けた。
「貴方達の攻撃なんか今の私には当たらないわ」
今度は杖から電撃を放つと、ライデンがサンダーランスを上に向けて避雷針代わりにして防いだ。
また杖から火の玉を撃つと、エンも火の玉を投げ、両者の攻撃がぶつかり爆煙が起きた。
煙が晴れると、メーシャの姿が消えた。
「何処行きやがった!?」
「いなくなったべ」
辺りを見渡して探していると、レインのすぐ後ろに現れて、背後から腕を回してレインの首を絞めるように抑え込んだ。
「うあっ!?」
「レイン!!」
こっちは触れられないのに、むこうは触れられるのか。
レインはメーシャの腕を掴もうとするが、すり抜けて触る事すら出来ない。
「テメェ!!」
俺達が駆け出すと、メーシャは杖を掲げた。
「【フラッシュ】」
杖から眩い閃光が広がり、俺達は目を覆い隠した。
しばらく閃光が続き、俺達は身動きが取れなかった。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「レイン!?」
突然レインの悲鳴が聞こえると、閃光が弱くなっていった。
目を開けると、メーシャはいなくなってる変わりにレインが倒れていて、俺達は急いで駆けつけた。
「レイン、大丈夫か!?」
「目立った傷などは無いようだな」
気を失っているだけみたいだから良いけど……。
「あの女、何処に行きやがった?」
「見当たらねぇぞ」
「いなくなったのは気になるけど、今はレインを運ぼう」
レインを抱き上げようとすると、クロエが声を上げた。
「皆さん! レインさんから離れて下さい!」
「え?」
すると、レインは大海の杖から大量の水を出し、俺達は流された。
「ぐあっ!」
「何すんだよ、レイン!?」
エンが声を上げると、レインは笑い出し、髪の色が黄緑色に変わり、瞳も青から緑に変わっていく。
「ふふ。ふふふふっ。あーはっはははは!! 手に入れたわ! 20年ぶりの肉体を!」
「レイン?」
……じゃない。もしかして!
「解析したところ、レインさんからメーシャと同じエネルギーが検知されました。恐らく、レインさんに憑依していると思われます」
「何だと!?」
「マジかよ……」
俺達は驚きを隠せずにいた。
「結構良い体ね」
メーシャは何度も手を握り、胸を持ち上げた。
「テメェ!」
「あら? 攻撃出来るの?」
「うっ……」
エンは火の玉を投げようとするが、投げる事が出来ず火の玉を消した。
するとメーシャは俺に顔を向けた。
「貴方が光のエレメンターなのね」
「ん?」
「お主等ー!!」
遠くから、ジーリュ、ヒレア、更にグレスさんが駆けつけて来るのが見えた。
「懐かしいわね」
メーシャはそう呟くと、リヴァイアサンを召喚して背に乗った。
緑色のオーラに包まれたリヴァイアサンに乗って、メーシャは何処かへ飛び去った。
「レイン……」
――――――――――――――――――――
その後、ジーリュ達に助けられた俺達は、屋敷に戻ってあの場で起きた出来事を話した。
「なんと……そんなことが」
「つまり、レインはその幽霊に憑かれて何処かに行ってしまったのね」
「……うん」
相手は霊体だったから何も出来なかった。そのせいでレインが……。
「僕等に襲ってきた様子から、エレメンターに恨みでもあるんでしょうか?」
「確か、20年ぶりの肉体って言ってたから、先代の頃とかじゃないかしら?」
「ん~。確かにあの頃は沢山犯罪者を捕まえてたもんな」
「そうね。どんな人だった?」
「かなりの魔法の使い手でした。確か、メーシャと名乗っていま――」
「メーシャじゃと!?」
クロエが喋っている途中で、ジーリュが驚き大声を上げ、俺達はビクッと肩を震わせた。
ヒレアとグレスさんもジーリュと同じように驚いている。
「その驚き様、知ってんだな」
「……うむ」
三人が浮かない顔をすると、ジーリュが口を開いた。
「メーシャは……先代エレメンターと共に行動した仲間の一人じゃ」
「えっ?」
「って事は、あの女は親父達の仲間だったって事か?」
「そうじゃ。あの子は魔法使いとして共に行動していたんじゃ」
「かなり腕があってな。助かった事が何度もあったな」
グレスさんは懐かしむように話す。
……頼りにされてたのか。
「それと……あの子は先代光のエレメンター、ライトスの恋人でもあった」
「え? ライトスさんの?」
流石に驚きを隠せないよ、そんな情報。
……そう言えば、幽霊になってるって事は死んでるって事だよな。
「なぁジーリュ。どうしてメーシャは死んだんだ?」
「うむ。話しておくか」
ジーリュは悲しげそうに話した。
先代のエレメンター達が魔王と戦うために魔王の城を進んでいた時に、四天王という特に強い四人の魔王の幹部と戦った。魔王の部屋の扉を守っていた最後の一人と戦い、そいつが力尽きる直前にライトスさんに向けて魔力弾を撃つと、メーシャが庇って魔力弾に体を貫かれて亡くなった。
「そうだったんだ……」
「うむ……。じゃから何故、あの子はこんな事をしたのか分からんのじゃ」
「そうだよな。アイツはとても優しい奴だったからな」
ジーリュ達も今回の事は全く思いつかないみたいだな。
すると顎に手を当てて考えているヒレアが口を開いた。
「もしかしたらあの子、悪霊になってしまったのかもしれないわ」
「悪霊?」
「人は亡くなって幽霊になる時、怒りや悲しみと言った負の感情を強く持つと悪霊になってしまう事があるの」
「恐らくそうじゃろう」
悪霊になった理由は分かったけど、俺達を襲う理由が未だに分からない。
「悪霊だろうが何だろうが、やられたままでいられるか! 今ならアイツをぶっ飛ばせるだろ!」
「ちょっと待ってよウィド! 今はレインに憑いてるんだぞ!」
「んな事言ってる場合じゃねぇだろ!」
「でも俺は、仲間を傷つけることはしたくない!」
ウィドが胸倉を掴み俺と言い争っていると、ミスクのかかと落としがウィドの頭に、リューラの鞘に入れたままの刀が俺の頭に命中し、頭を押さえてしゃがんでしまう。
「ったく。仲間同士で争ってどうするの?」
「こういう時だからこそ、冷静になれ」
二人に言われ、俺とウィドは気まずい顔でお互いを見る。
「そうじゃ。今は落ち着き、これからの事を考えるんじゃ」
「そうですね。メーシャの目的が分からない以上、僕等はどうするべきか考えましょう」
確かに、メーシャの目的が一切分からないんだよな。何処に行ったのかも。
「せめて、これからの動きが分かれば良いんですが……」
「これからの動き……それじゃ!!」
ジーリュがフィーズを指差して、再び大声を上げる。
「どういうことだ?」
「実は、ある孤島に予見の盾という未来を映す盾があるんじゃ。それを使えば、メーシャの居場所や目的が分かるかもしれん」
「なるほど。確かにあの盾を使えば分かるかもしれねぇな」
「ええ」
「そんな凄いのが。よし、なら早速取りに行こう!」
皆は頷き、俺達は屋敷の外に出た。




