ある日の屋敷と一枚の依頼
朝、目を覚ますと、目の前に寝息を立てているレインがいた。
……またか。もう何度目か分からない。
あと、これに慣れてしまった自分が嫌だ。
「んん……」
レインがゆっくり目を開け、俺と目が合い、顔を赤くしていく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レインは悲鳴を上げて起き上がり、俺も体を起こす。
またビンタかな。俺は受ける覚悟を決めて目を閉じる。
(…………あれ?)
一向にビンタが来ないので目を開けると、レインは顔を赤くしたまま腕で胸元を隠していた。
「えっとー……レイン。怒ってる……よね?」
「……ううん。私が、悪いから……別に」
「え?」
予想外の答えに、俺は戸惑った。
これまでは水の玉をぶつけたり、引っ張たいたり突き飛ばしたりしたのに。
「ご、ごめんね」
レインは謝って駆け足で俺の部屋から出た。
まだ戸惑いを隠せないが、俺は着替えて部屋を出ると、廊下でエンと会った。
「あ、おはようエン」
「ああ。ところで、さっきレインがお前の部屋から出ていくのが見えたが……またか?」
「お察しの通りで」
エンも昔、同じ被害にあったらしいから同情してくれる。
するとエンは、腕を組んで何か考え事をしている。
「どうしたの?」
「いや……なんか、レインの癖が多い気がすんだ。昔は月に二、三回ぐらいだったからな」
「俺、週に二、三回遭ってるんだけど」
「思ったより多いな」
――――――――――――――――――――
「はぁ~。疲れた……」
朝食後、屋敷の庭でリューラから特訓を受け、ベンチで少し休憩を取った。
今リューラはエンと特訓をしており、その近くでウィドとミスクが特訓をしていた。
本格的にエレメンターとして活動を始めてから半月の間に、盗賊や魔物退治のお願いが来てちょっと大変だったからなぁ。皆、少し気合が入ってる。
「お疲れ様勇也。はい、水」
「ああ。ありがとうレイン」
隣に座ったレインから水の入ったコップを受け取って水を飲んだ。
「やっぱおいしいね、この水」
「そ、そう? へへっ……」
「レイン、顔赤いけど大丈夫?」
「え!? い、いや、大丈夫……だけど」
「そうか?」
熱があるのか、俺はレインの額に手を当てた。
するとレインは体をビクッと震わせ、俺から距離を取った。
「ホ、ホントに大丈夫だから!」
レインは走りだして屋敷の中に入った。
――――――――――――――――――――
「ん~……」
あれからレインの様子がおかしい。
屋敷に戻ってレインと会ったら、顔を背けて俺から避けるように何処かに行く。
俺、何か嫌な事でもしたか?
今朝の事は今更な感じがするし……。
「どうしたの? 難しい顔して」
声を掛けられ振り向くと、ヒレアとミスクがいた。
一人で悩んでもしょうがないと思い、俺は二人に話した。
「気になるんなら本人に聞けばいいじゃない」
「いや。もし嫌な事をして、それを俺が聞くのは駄目だと思うし……」
「はぁ~。しょうがない、私達が聞いてあげるわよ」
「いいの?」
「そうね。仲間同士で関係が悪くなるのは良くないからね」
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「はぁ~……」
庭のベンチに座っているレインは、頬杖を突いてため息を吐く。
「私……何で……」
「レイン」
「ん? ヒレア、ミスク」
「単刀直入に聞くわね。勇也と何かあった?」
「え?」
突然そう訊ねられたレインは驚く。
「えっと、どうして?」
「勇也がどうして自分を避けるのか気にしててね。もしかしたら自分が嫌な事をしたんじゃないかって言ってたのよ」
「ううん。別に嫌な事はされてないの。ただ……」
「ただ?」
「勇也を見ると、顔が熱くなって、胸もドキドキしちゃってまともに顔を見れなくて……え? どうしたの?」
ヒレアとミスクが呆気に取られたような顔をすると、二人は小声で話した。
「ねぇ、これって……」
「ええ。間違いないわね」
レインが首を傾げると、ヒレアが咳込んで口を開いた。
「レイン。多分だけど……」
――――――――――――――――――――
「……」
昨日、ヒレアとミスクから、レインは俺の事を嫌ってないと聞いてそれは安心したけど、レインはまだ距離を取ってる。
それに、話を聞いた後、何故かヒレアは暖かい目で見るし、ミスクなんか俺を見てニヤけてたし、何なんだ一体?
「どうした勇也? 特訓中だぞ」
「あ、ごめん」
俺は気を取り直してリューラに目を向ける。
今庭では俺とリューラ、エンとスチア、ウィドとミスクで特訓している。
エンと特訓してるスチアは、メタルグローブを剣に変形させてエンのフレイムソードとぶつけ合い、ウィドはまだミスクに一度も勝ったことがないからよく挑んでる。
「皆さーん」
庭の花の世話をしていたレイフが、手に一通の手紙を持ってやってきた。
「どうしたのレイフ?」
「先ほどポストの中を見ましたら、私達宛の依頼書が入っていましたわ」
屋敷の中に戻って手紙を開けると、皆で内容を確認した。
『エレメンターの皆さんへ。皆さんにお願いがあって手紙を出させていただきました。実はウェアークの町から西にある荒野にベヒーモスが現れて困っています。どうか倒していただけませんか?』
ベヒーモスって、凄い強いイメージがあるけど。
「私のデータによりますと、ベヒーモスは高ランクの冒険者でも苦戦するとあります」
クロエから説明を聞く。
俺達は冒険者だとどれぐらいなのか分からないけど、やっぱり強いのか。
「頼まれたし、行くしかないか」
「そうだな。……そういやぁジーリュがいねぇな。ヒレアも」
「二人は冒険者ギルドに用があるって出かけたわよ」
「書置きでも残して行こう」
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準備を終えてジーリュとヒレア宛に書置きを残した後、庭にライトドラゴン、青龍、フェニックス、スカイイーグルを召喚して背に乗った。
「……ねぇレイン。ホントにどうして距離を取るんだ?」
「え、いや……なんでもないから」
「お前、昨日から様子変だぞ?」
「兄さんには関係ない」
なんか顔もよく赤くなるし、熱は無いって言ってたけど心配だ。
「行くぞ」
「あ、ああ」
ライトドラゴン達は飛び、俺達は荒野に向かった。
ウェアークから飛び去ってしばらくして、目的地の荒野に着いた。
召喚獣から降りて辺りを見渡すが、ベヒーモスらしき魔物がいない。
「何もいないね。ここで合ってる?」
「ウェアークの西にある荒野はここしかありません。場所は間違いありません」
「もう少し辺りを探して見ま――」
フィーズがしゃべっていると、突然周囲の景色が歪み、巨大な牛に似た魔物が現れた。
「皆さん、ベヒーモスです」
「はぁ!? 何でいきなり!?」
「分かんないけど、とにかく戦おう!」




