龍の鎧と青い龍
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!?」
鉱山の復興を終えて、皆が泊っている宿に響いた突然の悲鳴に、同室で寝ていたジーリュ、エン、フィーズ、アルツはその悲鳴に驚き目を覚ます。
「何だ!?」
エンは部屋を見渡しだすと同時に、部屋のドアがバンッと閉じた。
そして、ベッドの上に片足だけ乗せてベッドから落ちている勇也を見て状況を察した。
「……またかよ」
「そのようじゃな」
エンはベッドから下りて勇也の元へ行く。
「おーい。大丈夫か?」
「……一応」
「ビンタされなかったのか?」
「今回は突き飛ばされた」
勇也は後頭部を摩りながら立ち上がる。
「何とかならないのかな? あれ」
「ガキの頃からだからな。諦めろ」
「え~」
その後、宿の一階に皆が集まった。
ちなみにレインは恥ずかしそうに顔を赤らめて、勇也と顔を合わせない様にしている。
「さて、エレメントアーマーも残るは光と龍の二つだけとなった。次は龍のエレメントアーマーを手に入れるぞ」
ジーリュはリューラに目を向けるとリューラは頷く。
「龍のエレメントアーマーは何処にあるの?」
「……ワシの故郷、ドラング山脈じゃ」
――――――――――――――――――――
馬車に乗ると、ドラング山脈を目指してドワムルを出た。
「ジーリュの故郷って事は、ドラゴンが住んでるの?」
「そうじゃ。世界中の殆どのドラゴンが住んで居ってな。今はワシの息子がそこを治めている」
「ジーリュって息子いるんだ」
「おるぞ」
そう言えば、ジーリュってドラゴン達の長老なんだっけ。意外と偉いんだった。
「……ジーリュってさ、どうしてエレメンターと一緒にいるの?」
「話した事なかったか? あれはそうじゃな……もう数百年も前の話じゃ。当時のエレメンター達がドラング山脈を訪れてな、世界中を回っていると言っておったんじゃ。以前からエレメンターには興味があってな、ワシも同行させてもらったのじゃ。それからずっと共にしておるんじゃ」
「そうなのか」
数百年前って、結構長く一緒にいたんだな。
昔はどんなだったのか分からないけど、今はこんな小さいドラゴンに。
――――――――――――――――――――
ドワムルを出て五日。
馬車を道なりに進んで行くと、道の途中に一つの看板が立っていた。
看板を読んでみると、『この先ドラゴンの地、ドラング山脈。用無き者入るべからず』と書かれていた。
「この先って事は、あの山々がドラング山脈?」
「うむ。山脈を見回りしている者がおる。本来なら山脈に入った者を追い出すが、事情を話せば通してくれるぞ。何よりワシがおるから大丈夫じゃ」
ジーリュがそう言い山脈に入ろうとすると、馬車の上空を大きなものが通り過ぎた。
俺達は窓から顔を出すと、それは緑色のドラゴンだ。
「これより先は我等の領域。人間共よ、何の用だ?」
ドラゴンが問うと、ジーリュが窓から出て屋根の上に下りた。
「見回りご苦労じゃ」
「ん? 貴方は……ジーリュ様!? もしや、この人間達は!?」
「うむ、当代のエレメンターじゃ。今回は龍のエレメントアーマーを手に入れる為に来た。通って良いか?」
「勿論です。私はセイン様にご報告に行ってまいりますので、どうぞお進み下さい」
「任せたぞ」
ドラゴンは飛び去って行った。
「ジーリュ。セインって?」
「ワシの息子じゃ。あやつがエレメントアーマーの管理をしておる。では行こう」
馬車を再び動かして、山脈に入った。
「何かこの辺り、動物や魔物の気配が全くないね」
ドラング山脈を進んでいる途中、屋根の上でビトが周りを見ながら言う。
「ワシ等ドラゴンに警戒して他の生き物はこの山脈に近づかんのじゃ」
それなら安心して進めるな。そう思いしばらく進むと、先程の緑色のドラゴンがやってきた。
「ジーリュ様」
「お主か。どうした?」
「セイン様の元へお運びするために参りました。しっかりお掴まり下さい」
屋根の上にいたビトが馬車の中に戻ると、ドラゴンは馬車と馬を前足で掴んで空を飛んだ。
「おぉー」
「やっぱり空を飛んでの移動は速いわね」
ドラゴンに運ばれて上空を移動していると、前方に沢山のドラゴンが見えた。
「あそこがワシ等、ドラゴンが住んでいる所じゃ」
「でも家みたいなのが見当たらないけど?」
「ドラゴンの姿で暮らしておるからのう。洞穴などに住んでおるんじゃ」
洞穴って。まぁ……ちょっとドラゴンっぽいかも。
ドラゴン達の近くに下りると、ドラゴンは馬車と馬を地面に下ろした。
馬車から降りると、二頭のドラゴンがやってきて頭を下げた。
「「ジーリュ様。よくぞお戻りになられました」」
「うむ。お主達よ、この馬車と馬を頼んだぞ」
「「はっ」」
二頭のドラゴンが光ると、どんどん小さくなって人間の姿になり、馬車と馬を移動させた。
「それでは、私がセイン様の元へご案内致します」
運んでくれたドラゴンも人間の姿になって歩き出し、後をついて行った。
途中、ジーリュを見たドラゴン達は次々と頭を下げていく。
「ホントにジーリュって偉いんだね」
「そうじゃぞ」
進んで行くと、奥にジーリュに少し似た白銀のドラゴンがいた。
「セイン様。ジーリュ様とエレメンターをお連れしました」
「ご苦労だ。下がって良い」
案内したドラゴンはこの場を後にした。
「父上、お久しぶりです」
「久しいのう、セイン」
「……まだ、そのお姿なのですか」
「力の殆どを使い切ったからのう。恐らくこのままじゃろう」
そう言えば、ジーリュは20年前の戦いで、力を使いすぎて小さくなったんだけ。
「ところで父上。新たな光のエレメンターが現れたと噂を耳にしたのですが……」
「うむ。この勇也が、新たな光のエレメンターじゃ」
「ど、どうも」
「おお、君が。ライトス殿が亡くなったと聞いた時は驚きましたが……」
「セイン。嬉しいのは分かるが、ワシ等が来たのは……」
「そうでした。エレメントアーマーでしたね。ご案内します」
セインさんは光ると、30代ぐらいの銀髪の人間の姿になり、エレメントアーマーの所へ案内した。
やって来たのは洞窟で、奥には魔方陣が描かれている大きな扉があった。
セインさんが扉に手をかざすと、魔方陣が一瞬光って消えた。
扉を開けると、広い部屋の奥に石の胸当てが台座に置かれていた。
「あれが龍のエレメントアーマー、ドラゴンプレートです」
「ではリューラよ、行ってくるんじゃ」
「ああ」
リューラが触れると封印が解けて、龍の顔の様な紋様が刻まれた鉄の胸当てになった。
リューラは早速、ドラゴンプレートを身に着けた。
「あまり重くはないな。動きにくいわけでもない。……では」
リューラは祈ると、ドラゴンプレートから出た光から、額に紫の結晶が付いた、青い鱗の東洋の様な長い胴体の龍が現れた。
龍のエレメントの召喚獣、青龍だ。
青龍はリューラの前に下りると、頭を下げて、光って消えた。
「これで龍のエレメントアーマーを手に入れられたわい」
「良かったですね。ところで父上。エレメントアーマーはこれで最後ですか?」
「いや、後は光のエレメントアーマーだけじゃ」
「光のエレメントアーマー……。つまり、ライトカリバーだけですか」
ライトカリバーって言うんだ。光のエレメントアーマーは。
「……」
「どうした?」
「実は、先日大勢の魔族と魔物を見たと報告を受けたのですが……どうやら光のエレメントアーマーが封印されている神殿の方角へ向かっているようなんです」
「魔族と魔物が? 妙じゃのう。……魔族ということは、魔王軍の生き残りか?」
ジーリュはしばらく考え込んだ。
「嫌な予感がする。馬車はここに置いて、空を飛ぶ召喚獣で向かおう。魔族達より先に着くはずじゃ」
「ああ」
俺達は急いで洞窟を出た。




