鉄の手袋と鎧のゴリラ
濃霧渓谷を出た俺達は、馬車に乗って次のエレメントアーマーがある場所に向かった。
「ジーリュ。次のエレメントアーマーは何?」
「次は鉄のエレメントアーマーじゃ」
「おっ。次はオラのが?」
「そうじゃな。そして封印場所は町の鉱山の奥にあるんじゃ」
「鉱山? 随分守りが薄い様な」
鉱山の奥なんて誰でも行きやすいような場所にあるのか?
「大丈夫じゃ。簡単に盗られはせんぞ」
「そうなの?」
「行ってみれば分かるわい」
――――――――――――――――――――
数日後、目的地である鉱山の町、ドワムルに着いた。
町中を進んでいると、よく背の低い人を見かける。
「ねぇジーリュ。あの人達って」
「ん? ああ、ドワーフじゃな」
やっぱりドワーフか。
「ここの様に鉱山がある町や職人が多く住む町には、よくドワーフが移り住んでおる。クタガラにもいたはずじゃが、あの時はゆっくり町を見れなかったから分からぬか?」
うーん……思い出してみると、確かに背の低い人をよく見かけた様な……。
「まずは鉱山へ向かうぞ。そこで鉱山を管理している親方に会いに行く」
俺達は町の奥にある鉱山の入り口に着くと、何故か入り口の前にはバリケードの様な物が置かれて入れない様になっていた。
「なんか入れないっぽいけど?」
「どういうことじゃ?」
何で入れないのか、近くの人に聞いた。
「すいません。どうして鉱山に入れないんですか?」
「あー。数日前に起きた地震で、坑道が埋もれたんだよ。それで今は、復興作業に追われてるんだ」
「なんと……」
「お陰で、鉱石が採れなくて町の活気が無くなってきてるんだ」
よく見ると、町の人達にあんまり元気がないように見える。
「で、どうすんだ? 鉱山に入れねぇぞ」
「ん~……。復興作業中かもしれんが、親方の家に行ってみよう」
ジーリュの案内で、俺達は親方さんの家を訪ねた。
「はい。あら、どちら様?」
ノックすると、中からドワーフの女性が出てきた。
女性は俺の頭の上に乗っているジーリュに気付いた。
「あら、ジーリュさん。じゃあ、この人達はエレメンターですか?」
「あ、はい。そうです」
「すみません。主人は今鉱山に……」
「うむ。坑道が埋もれたと聞いたぞ」
「はい。主人もショックを受けていました。しばらくは帰って来ないので、暗くなったらまた来てください」
「分かりました。では、また後で伺います」
親方の家を後にした俺達は、町の宿で部屋を取った後、暗くなるまで適当に時間を潰した。
そして暗くなり、再び親方の家を訪ねると、今度は男性のドワーフがいた。
「おお。久しぶりだな、ジーリュ」
「久しぶりじゃな、マッズ」
「鉄のエレメントアーマーだろ? 知ってると思うが、今坑道が埋もれてるせいでエレメントアーマーを手に入れられない。復興に数日かかるからな」
それを聞くと、俺達は頷いて昼間話し合って決めたことを話した。
「俺達も復興作業を手伝います」
「良いのか?」
「ワシ等としても、坑道が早く元に戻ってほしいからのう」
「……かたじけない。ぜひ、よろしく頼む」
マッズさんが頭を下げる。
町の為に、エレメントアーマーを手に入れる為に、復興を頑張って手伝おう。
――――――――――――――――――――
次の日。俺達は鉱山へ行くと、入り口の所でマッズさんが立っていた。
「おう、来たか。じゃあ早速手伝ってもらうぞ」
マッズさんの後をついて行き、鉱山の中に入った。
「マッズよ。坑道は現在どのぐらいまで復興が進んでおるのじゃ?」
「半分と言ったところだろう。だが、そこからが厄介でな」
しばらく坑道を進むと、いくつかの道に分かれた広い場所に出た。
「あの道の先にエレメントアーマーがあるんだ」
マッズさんは一番端っこにある道を指差した。
「お前達には、あの道の瓦礫を撤去してほしい」
「エレメントアーマーがあるのなら当然じゃな」
「一番奥まで通じたら俺に報告してくれ。俺は別の道の瓦礫の撤去をしねぇといけねぇからな」
「分かりました」
「じゃあ頼んだぞ」
マッズさんは別の道に入ると、俺達は指定された道に入る。
入ってすぐに、道を瓦礫が塞いでいた。
「結構埋もれてんなぁ」
「何処まで崩れてるか分からないけど、今日中に終わるのは難しいかもね」
「うむ。これは、土のエレメンターであるアルツを中心に瓦礫を撤去するぞい」
「任せろ!」
アルツを中心に瓦礫を砕き、破片を運ぶ。それを何度も繰り返し奥へと進んで行くが、瓦礫が思ったより多く、今日中に終わることが出来なかった。
次の日も、昨日と同じように進めた。
一度、ミスクが煙になって瓦礫の隙間を通って奥の方を見に行ってみた。
「小さな建物を見つけたわ。そんなに遠くない。それより先に道は無かったわ」
「じゃあ、そこが一番奥?」
瓦礫を撤去しながらどんどん奥へ進んだ。
すると突然瓦礫が無くなり、一軒の建物が目に入った。
「あれが、ミスクが見つけたって言ってた建物?」
「ええ、そうよ」
確かにここから先には道が無いし、ここが一番奥で間違いないと思うけど……。
小屋の中を見てみるが、テーブルやらベッドやらがあるだけで、ここにもエレメントアーマーらしい物が無い。
「ねぇジーリュ。エレメントアーマーは何処にあるの?」
「教える前に、マッズに報告しに行ったらどうじゃ?」
「あー、うん」
何か引っかかるが、とりあえず戻ってマッズさんの元へ向かった。
マッズさんを見つけると、瓦礫を撤去したことを伝えた。
「おお、そうか。なら、エレメントアーマーの所へ案内しよう」
マッズさんについて行くと、さっきの小屋にマッズさんが入っていく。
「スマンが、テーブルとイスとベッドをカーペットの上からどかしてくれ」
マッズさんに言われ、俺達……というか男子で言われたとおりにカーペットの上から物をどかして、マッズさんはカーペットを捲ると地下への扉が出てきた。マッズさんが懐から鍵の束を取り出し、その中から一つの鍵で扉を開けた。
「エレメントアーマーはこの先だ」
階段を下りて、長い通路を進むと、奥に大きな扉があり、マッズさんがさっきとは別の鍵で扉を開けた。
入ると、部屋には台座があり、その上に一対の石の手袋が置かれていた。
「あれが鉄のエレメントアーマー、メタルグローブだ。俺の家は、代々あれを守っていた。扉を隠したり、偽の鍵など用意したりしてな」
「うむ、助かってるぞ。ではスチアよ。行ってくるのじゃ」
「分がった」
スチアは台座へ進み石の手袋に触れると、封印が解けて鉛色の鉄の手袋になった。
スチアはメタルグローブを嵌めて何度も手を握る。
「おお。鉄で出来てるのに動がしやすい。おっと。召喚獣を呼ぶんだった」
スチアはグッと拳を握って祈ると、メタルグローブから出た光から、鎧の様な甲殻を身に纏い、額に灰色の結晶が付いた灰色のゴリラが現れた。
鉄のエレメントの召喚獣、アーマーコングだ。
アーマーコングはスチアを向いて頭を下げると光って消えた。
「契約は無事に済ませたようだな。残りのエレメントアーマー集め、頑張れよ」
「ありがとのう、マッズ」
「気にするな。さて、俺は復興に戻るとするか」
そう言って振り返るマッズさんの顔は、憂鬱に見えた。
「マッズさん。折角ですから、復興最後まで手伝いますよ」
「え? 良いのか? 急いでるんじゃ?」
「困ってるのを見過ごせないですし」
「何かモヤモヤしちゃうわよね」
「ちゃちゃっと終わらせようぜ」
マッズは勇也をジッと見て微笑む。
「ジーリュ。あの少年、ライトスに似てるな」
「ああ。そうじゃろ」




