木の杖と緑の鹿
ビーストクローを手に入れた俺達はジャングルの外に出た。
「あーっ、ようやく出られた」
「ああ。それでジーリュ。次のエレメントアーマーはすぐに手に入るってどういうこと?」
「うむ。次のエレメントアーマーは草のエレメントアーマーなんじゃが」
「あら、そうですの?」
草のエレメンターのレイフが反応した。
「あるのがエルフの里なんじゃよ」
「エルフの里?」
「そうじゃ。しかもそこはヒレアの故郷じゃ」
「ヒレアの?」
それを聞いた俺はヒレアに目を向ける。
「私のお母様が里長なの。里の地下に草のエレメントアーマーの封印場所があって、代々そこを守っているのよ」
「そうなんだ」
成程。確かにそれならすぐに手に入れられそう。
「……なんか苦労して手に入れた俺達のは一体何だったんだって思っちまうんだが」
「まぁ……そういうこともあるわい」
「そうね。今更文句言ってもねぇ」
「お前はいいよな、レイン。ただ海底神殿行ったら手に入れたんだからよぉ」
「文句言ってないで……早く行こう」
俺達は馬車に乗って、エルフの里に向かった。
――――――――――――――――――――
数日後、馬車でエルフの里に向かっていると、屋根の上に乗っているビトが何かを見つけた。
「おーい! 前方に村っぽいのが見えたぞー!」
俺達は馬車の窓から顔を出して前を見た。
遥か先に、高い木の壁に囲まれた一つの村があった。
「あそこがエルフの里じゃ」
「懐かしいわね」
久しぶりの故郷だからか、ヒレアは懐かしんでいる。
入り口まで来ると、見張りをしているエルフの男が近づいてきた。
「旅の者か? 何の用だ……」
見張りのエルフがヒレアを見て顔を驚かす。
「ヒレア様!? お戻りになられたのですか!?」
「ええ、お母様に用があってね。いいかし――」
「ヒレア様! 急いで里長の元へお向かい下さい!」
「え、どうしたの?」
「実は、里長が病で倒れてしまい……」
「何ですって!?」
ヒレアは焦り、急いで里長の元に向かった。
里長の家に着くと、ヒレアの後について行き、里長の寝室に走った。
「お母様!」
ヒレアが扉を勢いよく開けると、ベッドの周りにいるエルフ達がこちらを見た。
ベッドには顔色が悪い長い金髪のエルフの女性が寝ている。
「ヒレア様。戻られていましたか」
「ええ。お母様が倒れたと聞いたのだけれど、容体は?」
「今はまだ大丈夫です。魔法で治すのが不可能な病気で、薬を作らなければ完治は出来ないのですが、材料が……」
「材料? 何が足りないの?」
「ネツレイ草です」
「ネツレイ草? 確か森のある場所にだけ生える草よね? でもそんなに採るのは難しくないはず」
「実は、ネツレイ草が生えてる場所に人喰い薔薇という魔物が住み着いてしまい採れなくなっているのです」
魔物が住み着いているか。しかも人喰い薔薇って事は、また食人植物の様な奴か。
「うぅ……」
ベッドで寝ていたヒレアの母親がゆっくり起き出した。
流石長寿のエルフ。母親というより姉に見える。
「ヒレア……来ていたのですね、ゴホッゴホッ!」
「お母様、寝ていて下さい」
「いえ、大丈夫です。それより、来たのはエレメントアーマーですよね」
里長はベッドから立ち上がろうとすると、ヒレアが止めた。
「お母様は寝ていて下さい。私達が採りに行ってきますから」
ヒレアは俺達の方を見た。
俺達は顔を合わせて頷いて行くと、最後にヒレアに向かって頷いた。
「すぐに採って戻ってきますので、安静にしていて下さい」
「ええ……ごめんなさ、ゴホッゴホッ!」
俺達は里長の家を後にして、早速ネツレイ草を採りに森へ向かった。
「ネツレイ草は水辺に生えるの。この森に一つだけ湖があって、そこに生えてるはず」
「って事は、人喰い薔薇もそこにいるのか」
人喰い薔薇がいると、里の人達も困るだろうし。
「そういえば、ヒレアは里長の娘なのに、どうしてエレメンターと一緒にいるの?」
「世界を見て見聞を広めるためよ。まぁ回復魔法の腕を見込まれて、当時のエレメンターにスカウトされたっていうのもあるけど」
腕の良いヒーラーがいたら、確かに仲間にしたいかも。
その後森の中を進むと、目指していた湖に辿り着いた。
「ここか。ねぇ、ネツレイ草ってどんな草なの?」
「水色の草よ。分かり易いからすぐに見つかるはず……あ、あれよ」
ヒレアが指さした先には、水色の草がいくつか生えていた。
採りに行こうと足を踏み出すと、アルツが急に叫んだ。
「おい待て! 地面から何か来る!」
その場に止まると、地面が揺れて茨の様な棘が生えた植物が地面から幾つか伸びて来て、俺達に襲い掛かってきた。
避けると、今度は薔薇の蕾の様な物が出てくると、蕾が開いて真ん中に丸い口がある薔薇が咲いた。
「もしかして、あれが人喰い薔薇?」
「そうね。きっと水があるからここを縄張りにしたのね」
「植物に水は必要だもんね」
人喰い薔薇の茨が邪魔でネツレイ草が採れないし、やっぱり倒すしかないか。
「キィィィィィィィ!」
人喰い薔薇が口から液体を吐くと、俺達は避けた。
すると、液体が掛かった岩が溶けた。
「溶解液じゃ。皆、気を付けるんじゃ」
人喰い薔薇がまた溶解液を吐くと、俺は光の壁で防いだ。
「燃えろー!」
エンがフレイムソードで火を放つと、人喰い薔薇は茨で壁を作ってガードした。
「くそっ! あの茨邪魔だな」
「なら、俺が切り落としてやる」
ウィドがハリケーンブーメランを投げると、風の刃を纏ったハリケーンブーメランが茨を切り落としていく。
「はぁぁぁ!!」
リューラは人喰い薔薇の花の部分を斬り落とそうと刀を振り下ろすが、思ったより硬く斬れなかった。
そんなリューラに、人喰い薔薇は溶解液を吐くと、リューラは龍の力を纏い、炎を吐いて防いだ。
その間に俺は、光を纏った剣人喰い薔薇の花びらを斬った。
「皆、花びらが柔らかいからそこを攻撃だ!」
花びらを攻撃されて人喰い薔薇はどんどん弱っていき、口の部分だけになると、止めにアルツがアースハンマーで潰して倒した。
――――――――――――――――――――
ネツレイ草を手に入れた俺達は、里に持ち帰り無事に薬が完成した。
里長に薬を飲ませると、顔色が良くなった。
翌日。里長が元気になったと聞き、早速会いに行った。
「皆さん。この度はありがとうございます」
すっかり体調が良くなった里長と何人かのエルフが頭を下げた。
「それでは、エレメントアーマーの部屋まで案内します」
俺達は里長について行き、家の地下に案内された。
長い通路を進むと奥の部屋に辿り着いた。
部屋の中には、台座に刺さった一本の石の杖があった。
「あれが木のエレメントアーマー、神木の杖です」
「うむ。ではレイフよ。行ってきなさい」
「分かりましたわ」
レイフは台座まで行き石の杖に触れると、封印が溶けて、先端に緑色の水晶が付いた木の杖になった。
「次は召喚獣でしたわね」
レイフは神木の杖を持って祈ると、現れた光の中から額に緑の結晶が付いた、木の様な角が生えた緑色の鹿が現れた。
木の召喚獣、ウッドディールだ。
「よ、よろしくお願いします」
レイフは少し緊張しながら近づくと、ウッドディールは頭を下げた。
安心したのかレイフは頭を撫でた。
「今回も無事に手に入れられたわい」
「良かったですね。皆さんのこれからのご活躍、応援します」
俺達は里のエルフ達に見送られながら次のエレメントアーマーの場所へ向かった。




