獣の鉤爪と百獣の王
「着いたぞい。ここが獣のエレメントアーマーがある森じゃ」
次のエレメントアーマーがあるという森に俺達はやってきた。……けど。
「これ、森というよりジャングルじゃない?」
「まぁそうとも言うのう」
こんなにジメジメした所にある森なんて、それはもうジャングルだ。
「ここには沢山の魔物や食人植物が生息しておる。気を付けるんじゃぞ」
「うぇ~、そんな所にあるの? 僕のエレメントアーマー」
「これまでも大変だったじゃろ? 簡単に手に入る場所にはあらんぞ」
ビトが嫌がるのは分かるなぁ。
さっきからジャングルの方から鳥と獣の鳴き声が聞こえてくる。結構な数いるのが分かる。
「じゃあ、男達を先頭に入りましょう」
『はぁ!?』
ミスクが発した言葉に、俺達(男子達)は声を上げる。
「何で俺等が先なんだよ!?」
「こういう危なっかしい所は男が先導して女の子がその後ろを歩くもんでしょう」
「何が女の子だ! 女らしさのねぇ男勝りのくせ――」
ミスクは近くにある自分と背丈が変わらない岩を蹴り崩すと、ウィドは黙った。
「……他に文句ある奴いる?」
『いいえ』
なんか誰もミスクに逆らえねぇな。あとリューラにも。
結局俺達男子が先を歩いて、女子達は後ろを歩いた。
――――――――――――――――――――
「グアオォォォ!」
長くて鋭い二本の牙を生やした虎、ソードタイガーが跳びかかってきて、俺は剣でガードした。
「今だ、フィーズ!」
「はい!」
俺が押さえている間に、フィーズが氷の矢を生み出しフリーズボウで放つと、ソードタイガーの眉間に命中して矢が刺さった辺りが凍りソードタイガーは倒れる。
「ありがとうフィーズ」
「いえ、勇也が止めてくれていたお陰です」
……にしても。この虎、どう見てもサーベルタイガーだよな。でもソードタイガーなんだよな。
「どうした勇也?」
「何でもない。行こう」
再びジャングルを進むと、猿とか蛇の様な動物型の魔物が襲ってきたが、他にも巨大な蟷螂とか百足の様な虫型の魔物も襲ってきた。
「本当に魔物が多いね」
「ああ。流石に疲れてきたな」
「では、もう少し進んだら休憩するかのう」
俺達は魔物に警戒しながら進むと、突然鼻に何か異臭の様な臭いがした。
「うっ。何だこの臭い?」
「ああ。なんか臭ぇ」
皆も臭いに気付いて、鼻を押さえている。
「あっちの方からする」
嫌な顔して鼻を押さえるビトが指を指す。
「こんな臭いを嗅ぎ続けながら進むのはヤダなぁ。ちょっと臭いの元を調べようぜ」
「それには賛成」
さっきビトが指さした方に進むと、五枚の花弁が付いた大きな赤い花が咲いていた。
「あれって……ラフレシア?」
「知ってんのか?」
「俺がいた世界に似た花があるんだよ。異臭を放つ大きな花だよ」
「あれから臭いが出てるよ」
やっぱり異世界のラフレシアも同じなのか。
すると、花が小刻みに揺れ、花の中から太い蔓の様なものが伸びて来て、先端が歯の生えた丸い口みたいに開くと俺達に襲い掛かってきた。
「うわぁぁぁ!?」
「コイツ、食人植物か!?」
蔓の攻撃を避けると、口から黄色いガスを吐いてきた。
「なんだこ……臭っ!!」
さっきよりも強烈な臭いが俺達を襲った。
「臭ぇぇぇ! 鼻が曲がるぅぅぅ」
「ヤバい……目に染み、おえっ!」
あまりの臭さに目も閉じたくなるが、閉じたらよく見えなくなるし、どうしよう。
「こんっのやろう!!」
ウィドが手から風を起こすと、臭いが吹き飛び、さっきよりマシになった。
「くらえ!」
エンがフレイムソードから火の斬撃を飛ばすと、蔓が切れて火が花に燃え移り焼けていった。
「ぷはぁ! 苦しかった!」
「こんなのもあるのか」
「私、花は好きですが、この花は嫌いです」
「誰も好きになれないだろ」
厄介な人喰いラフレシアを倒して、俺達はジャングルを進む。
ジャングルを進んでいる途中、ヒレアの張った結界で休憩を取っていた俺達は、再びジャングルを進んだ。
時々ウィドとミスク、ビトが空からエレメントアーマーがある小さな神殿を探して、進む方向を決めている。
襲ってくる魔物や食人植物を倒しながら進むが、どんなに進んでもそれらしい建物が見えない。
「なぁ。本当にこっちで合ってるのか?」
「ああ、合ってる……はずだ」
「はずって……」
「しょうがないでしょ。こんなに色々生えてるんだもん。真っすぐ進んでるのか分からないわよ」
確かに、ここ色んな植物が生えてるし、魔物が襲ってきたりでたまに方向感覚が分からなくなる。
「……多分だけど、こっちだと思う」
ビトが進行方向より少し右を指差した。
「分かるの?」
「なんとなくだけど、こっちだと思うんだ」
「皆よ。ここはビトを信じて進んでみようぞ」
獣のエレメンターだからわかるのかな?
俺達はビトが指差した方へ進んだ。
ビトの案内でジャングルの中を進んでいると、遠目に石で出来た建造物が見えた。
「お! あれっぽいぞ」
「もう少しだ」
神殿に向かおうとすると、前方に犀の魔物が出て来て、地面を蹴って俺達に向かって突進してきた。
「来た!」
犀の魔物が迫ってきて、俺達は戦闘態勢を取ったその時、犀の足元から巨大な花が咲き、犀の魔物をバクッと包むと、もごもごと動き地面に潜った。
「……あ、危なかった~」
「このまま進んでたら俺等も食われてたな」
「あの魔物に感謝だね」
花に気を付けながら進み、どうにか神殿の前まで来て入ろうとすると、木の上から一本の蔓が伸びて来て、レインの足に巻き付いた。
「え? うわぁぁぁ!?」
「レイン!?」
振り向くと、足に巻き付かれた蔓に、レインは逆さ吊り状態になっていた。
するとレインは手で自分のスカートをバッと押さえた。
「ちょっと見ないで!!」
「コラ、男共! 後ろを向け!」
『はい!』
俺達はサッと後ろを向いた。
……一瞬、白いのが見えたけど絶対言わない。言ったら殺される。
しばらく後ろで女子達が戦っていると、最後に大きな物が地面に落ちる音がした。
「もうよろしいですわ」
後ろを向くと、レインは無事に助かっていて、近くに大きな口がある花が転がっていた。
気を取り直して、神殿の中に入ると、奥にある台座の上に、二つの石の鉤爪が置いてあった。
「あれが獣のエレメントアーマー、ビーストクローじゃ。ビトよ、行ってこい」
「オッケー」
ビトは台座の前まで進み鉤爪に触れると、封印が解けて、動物の毛の様な物が付いた橙色の鉤爪が露わになった。
続いてビトは祈り召喚獣を呼ぶと、出てきた光の中から、額に橙色の結晶が付いたライオンが姿を現した。
獣の召喚獣、キングレオだ。
キングレオはビトの前に行き、頭を下げた。
「よろしく!」
ビトはキングレオの頭を撫でると、キングレオは光って消えた。
「んじゃ、手に入れたことだし。さっさとこのジャングルを出ようぜ」
「はぁ~。次は一体どんな大変な所なんだろうな」
「多分じゃが、次はすぐに手に入ると思うぞ」
「え?」




