雷の槍と雷馬
「……ねぇジーリュ。ホントにこれ登るの?」
俺は雷雲が留まっている山を見上げて訊ねる。
「うむ。あの山に雷のエレメントアーマーがあるんじゃ。登るに決まっておる」
「ねぇー。せめてあの雲がどっか行ってからにしない?」
「あの雲はずっとあの山の上に留まっておるから何処にも行かないぞ」
え。あの雷雲はずっとあの山の上にあるの?
成程。あの山の名前、雷鳴山って言ってたな。ホントにその通りだな。
「もうこうなったら、ライデン一人に行かせましょ」
「え!? 俺だけ!?」
「確かに。ライデンの専用装備なんだし、ライデンだけ行けば良くない?」
「何か二人共俺に厳しくない!?」
「当たり前でしょ。素行が悪いんだから」
まぁ、ミスクとビトの言う通りだな。
女子の風呂や水浴びを覗こうとしたり、下着まで見ようとしてたりしてたし。
「それもそうだな。ライデン一人で行けば良いな」
「そうですわね。こんな下心満載な人は痛い目に遭うべきです」
「じゃ、私達はここで待ってるから」
「何か女の子達の俺への扱いが凄ぇ酷いんだけど!?」
「いや、自業自得だと思う」
だってやってる事普通に最低だし。
元の世界でも、流石にここまでやる奴はいなかったし。
「まぁまぁ落ち着くんじゃお主等。一人じゃあ道中何かあったら危険じゃろう。皆で行った方が安全じゃ」
「ほ、ほら! ジーリュもこう言ってるんだし!」
女子達は少し納得いってない様な顔をするが、「分かった」と言い皆で登山することになった。
「ジーリュさんのお陰で助かりましたね、マスター」
「うん。本当に」
―――――――――――――――――――――
俺達は雷鳴山を登り出した。
上空の雷雲が鳴っていて、いつ落雷が降ってもおかしくなさそう。
少し緊張しながら進むと、大きな音と共にどこかに雷が落ちた。
「きゃっ!」
「っ!?」
レインが驚いて俺の腕に抱き付いた。
「れ、レイン……もう大丈夫だよ」
「ん? あ! ご、ごめん」
レインは顔を赤くして俺の腕から離れた。
やっぱり恥ずかしかったんだな。
「雷、俺達の方に落ちてこねぇよなぁ?」
「それは分からん。じゃが途中に洞窟がある。そこに入って登っている間は安全じゃが」
「なら、まずはその洞窟を目指そう」
俺達は足を進めた。
途中、何度も雷が落ちてきたが、ライデンが何処に落ちてくるのか分かるお陰で無事に進むことが出来て、目指していた洞窟に辿り着いた。
「この洞窟で上に登れるの?」
「うむ。ここなら雷も落ちてこんから安全じゃ」
「まぁ洞窟を出たらまた雷が落ちてくる危険性があるけどね」
「それは仕方がない」
ともかく俺達は洞窟を進んだ。
雷鳴山の洞窟を進み、出口が見えると、出る前に一旦休憩を取ることにした。
「すぐそこが出口だから雷の音がよく聞こえるなぁ」
ビトの言う通り、出口が目の前にあるから、雷鳴が洞窟を進んでいた時よりもはっきりと聞こえる。
すると外のすぐ近くに落雷が落ちた。
「きゃっ!」
驚いたレインがまた俺の腕に抱き付いた。
「あのー、レイン」
「あっ! ご、ごめん、また!」
「いや、大丈夫だけど……。レインって雷苦手?」
「……うん」
レインは不安気な顔で頷いた。
「そういやぁお前、ガキの頃雷が鳴るとよくお袋と一緒に寝てたな」
「しょうがないでしょ、怖いんだから」
「まぁ、雷が怖い事は悪い事じゃ無いし」
「でしょ」
レインがバッと俺の方に振り向いて言う。
なんか嬉しそうだし。
「なんか雷のエレメンターの俺としては複雑なんだけど」
「別にそういう人はいるって」
「そうだけどさー」
不満そうなライデンが嫌な顔をした後、休憩を終えて俺達は洞窟を出た。相変わらず雷雲から雷鳴が鳴り響いている。
ジーリュによると洞窟を抜けた今の時点で目的地まで三分の二を超えているらしい。
そんな時間は掛からないと思うけど、それでもいつ雷が落ちてくるのか分からない山道をまた進むのは骨が折れそうだけど、とにかく前に進んだ。
途中、雷で崖が崩れて上から落ちてきたり道が崩れたりしたがどうにか進むことが出来た。
息を切らして進むと、前方に祠の様な建造物が建っていた。
「あれじゃ。あそこに雷のエレメントアーマーがあるぞ」
「ようやくか。なんか長く感じた」
俺達は祠に向かって足を伸ばしたその時、ライデンが空を見上げた。
「皆! 俺達の所に雷が落ちてくるぞ!」
「え?」
その直後、一筋の雷が俺達のほぼ真横に落ちて来て道が崩れた。
「きゃあ!?」
「レイン!」
落ちそうになるレインの手を俺は掴み、その後ろで落ちそうになったエンとライデンをアルツが掴んだ。
俺はレインを引っ張り上げようと手を引くと、足元の地面にヒビが入って崩れそうになる。
まずい。引っ張り上げてもこのままじゃ二人落ちるかも知れない。
……そうだ。
「アルツ! 土のエレメントで地面を!」
「お、そっか! 分かった!」
アルツは片手で地面に触れると、崩れた地面を修復した。
「危なかった」
「うん。ありがとう勇也」
「当然の事だから、気にしないで」
俺がそう言うとレインは微笑み、俺達は祠の中に入った。
祠の奥には石の槍が置かれていた。
「雷のエレメントアーマー、サンダーランスじゃ。ライデン」
「ああ」
ライデンは歩き出し、石の槍に触れると光り、封印が解けて先端が黄色い槍が露わになった。
続いてライデンはサンダーランスを握り祈ると、槍から光が出て召喚獣が現れた。
額に黄色の結晶と角が生えた金色の馬の様な生物。
雷の召喚獣、麒麟だ。
麒麟はライデンの前に立ち頭を下げた。
「おお! かっこいいなぁ!」
「ホントね。ライデンに似合わない」
「失礼だな!」
俺達は祠を出て雷鳴山を下山した。
サンダーランスのお陰か、帰りは雷が俺達の所に落ちてこなかったので順調に下りられた。




