ワイバーンの群れ、来襲
「さて……どうするかのう」
テーブルの上に座るジーリュは、前脚を組んで考えていた。
どうすれば俺の事をリューラが認めてくれるかを。
「アイツは勇也が自分より弱かったから認めないって言ってたんだからよぉ、勇也がアイツより強くなれば良いんじゃねぇか?」
「でもあの子の強さは本物よ。これまで相当鍛えていたのが分かる。多分今から頑張っても時間が掛かるわ」
「エレメンターが全員揃うまであと一歩なんじゃ。出来ればすぐに仲間にしたい」
ジーリュが頭を捻らせる。
「こうなったら、俺があの女に挑んで勝ってくる!」
立ち上がったエンが向かおうとするとヒレアが止めた。
「無駄よ。あの子が認めたいのは勇也。貴方が勝っても意味がないわ」
「うっ……」
「それにエンでもリューラには勝てないわ。それほどなのよ、あの子の剣の腕は」
「落ち着きなよ、兄さん」
エンは悔しそうな顔で椅子に座った。
「で、あれからずっと黙ってるが、お前はなんか考えてないのか?」
頬杖を突いてるウィドが俺にそう聞くと、皆が俺を見た。
「え? あ……いや、特に……」
「ったく、しっかりしろよ」
俺はまだリューラに歯が立たず、呆気なく負けたことをまだ引きずっていた。
あんなすぐに負けたんじゃ、勝てるのなんて大分先だ。
そんな悔しさと、こんな俺に彼女を納得させられるのかという不安に俺は震わせながら拳を握ると、隣に座ってるレインが俺の拳の上に優しく手を乗せる。
「大丈夫、勇也?」
「……ああ、大丈夫」
不安そうに尋ねるレインは俺はどうにか安心させようとする。
すると、外で爆発みたいな音がして屋敷が揺れた。
「な、なんじゃ!?」
俺達は立ち上がって戸惑うと、部屋のドアがバンッと開き、一人の女性が入ってきた。
「すみません! エレメンターの皆さんが戻っていると聞いたのですが!」
「お主は……冒険者ギルドの職員じゃな? どうした?」
「大変なんです! 突如町にワイバーンの群れが押し寄せて来て暴れているんです!」
「何!?」
ワイバーンって、ゲームや漫画によく出る前肢と翼が一体化した、飛竜とも呼ばれてるドラゴンだよな。
ドラゴンの一種だから強いイメージがあるけど。
「とにかく皆、外に出るぞ!」
俺達は外に出ると、真上を何かが通過し上を見ると、町の上空には緑色の鱗のワイバーンが大量に飛んでいた。
「凄い数」
「ジーリュ。アンタ確かドラゴン族の長老なんだろ? コイツ等どうにかできねぇか?」
「無理じゃ。ワシが話せるのは故郷の同族達だけじゃ。それにこやつ等は野良じゃ」
ジーリュでも駄目なのか。
とりあえず俺達は町中を進み広場に来ると、そこでは誰かが一体のワイバーンと戦っていた。
「あれって……」
「リューラじゃ」
ワイバーンと戦っていたリューラは距離を取ると、俺達に気付いた。
「お前達か」
リューラは俺をチラッと見た。
「リューラよ、今は緊急事態じゃ。ここは一緒に――」
「協力する気は無い」
リューラの体が光ると、リューラの頭から二本の角、腰からは尻尾、背中からは翼が生えた。
リューラは飛んでワイバーンに一人で向かって行った。
「ちっ。頑固な女だぜ」
「勇也の事を認めないと、僕達と協力する気は無いみたいですね」
ここでもか……でも今は。
「ワイバーンから町を守ろう!」
『おお!!』
町中を飛ぶワイバーンの一体に、俺は手から光の玉を放ち当てるが、あまり大きなダメージにはなっていない。
「あまり効いてないな」
「相手はワイバーンじゃ。以前戦ったクロウの群れよりは数が少ないが、強さは別格。こっちの方が厄介じゃ」
ワイバーンは口から火を吐くと、俺は走って避けた。
また別のワイバーンが火を吐き、俺は他の皆と離れてしまった。
「くそ。防御力が高い上に飛べるし、火も厄介だな」
「んー、しかし何故このワイバーン達は町にやって来たんじゃ? こやつ等は町からかなり離れた山脈に住んでいる。ここまで来ることは無いはずなんじゃが?」
「何か理由があるのかな?」
「恐らくそうじゃろうが、今はこの群れをどうにかせんといかんぞ。クロウの時の様に群れのリーダーがいるはずじゃ」
「確かに、そいつをどうにかすれば……」
町を見渡して、リーダーと思われるワイバーンを探した。
すると一体だけ、他よりも大きいワイバーンが上空に留まっていた。
「アイツかな?」
「間違いないじゃろう」
「でも、高いな……」
リーダーと思われるワイバーンは、結構上空を飛んでいる。
身体能力を上げたジャンプでも、光の玉も届かない。
「ん?」
「どうしたんじゃ?」
「あのワイバーン、何か捜してる様に見えない?」
よく見るとワイバーンのリーダーは、首を振って町を見渡していて、まるで何かを捜している様に見える。
「確かに、そう見えるのう」
すると、ワイバーンのリーダーは何かを見つけたのか、真っ直ぐ飛んでいく。
「勇也、追いかけるぞ」
「ああ」
俺とジーリュはワイバーンのリーダーを追いかけると、町の一画の上空に停まった。
「ここに何かあるのか?」
俺とジーリュは高い所から見下ろした。
見渡していると、遠くてよく見えないが、建物の間に一人の男が隠れているのが見えた。
しかもその男は隠すように何かを抱えていた。
それは白くて丸い大きな物体だ。……もしかしてあれ。
「なぁジーリュ」
「何じゃ?」
「あそこに隠れてる男が持ってるのって、もしかして卵じゃないかな?」
「むー……確かにあの大きさはワイバーンの卵かもしれん」
「じゃあこの群れは、卵を取り返すためにウェアークに来たのか!?」
「間違いないじゃろう。確か先々代のエレメンターと共に魔物の売買をしている組織を潰した事がある。卵でも十分高値で取引されておった。ワイバーンの様な竜種の卵なら、特に高い値が付いていたはずじゃ」
「それが目的か」
俺とジーリュは男の元へ行こうとすると、足のジェット機能で飛んでいるクロエがやってきた。
「勇也様、ジーリュ様、こちらにいましたか」
「クロエ。丁度良かった。ワイバーン達の目的が分かったから、皆に伝えて!」
「分かりました」




