ウェアークの戦い⑤
イセクは生やした蠍の尻尾を伸ばすと、楓華は両手の短剣でどうにか受け止めて受け流した。
屋根の上にいる玲が矢を放つと、イセクは左手を蟷螂の前脚に変えて弾く。
「ううぅ~。またコイツの相手するの嫌だなぁ」
「なら大人しく死ね。もうお前達は用済みだからな。始末して構わないと言われている」
「そんな事言われたら余計抵抗するよ!」
楓華が短剣を構えると、イセクの背中から虫の羽が生えて空を飛んだ。
「えっ!? 空飛ばれたら手が出せないじゃん!」
「楓華ちゃん。うちが落としたる!」
玲は狙いを定めて矢を放つと、イセクは矢を躱す。
だが玲は、弓の力で矢を操ってイセクに向けて再び放つ。
「あー。そういやぁ矢を操れるんだったな!」
イセクは右手を蠍の鋏に変えると、矢を掴んで折った。
今度は矢を二本同時に放つと、イセクは回転して蠍の尻尾で矢を弾き落とした。
「鬱陶しい!」
イセクは両手を蜂の腹部に変えると、屋根の上の玲に向けて針を飛ばした。
「って、そんな事出来るん!?」
玲は走って逃げだすが、屋根が崩れて建物の中に落ちた。
「玲!?」
「友達の心配してる場合か、小娘」
次は楓華に向けて針を飛ばすと、楓華は走りだす。
徐々に追い詰められていくと、足に針が掠った。
「痛っ!」
楓華は転び、足を押さえる。
そんな楓華の元にイセクが下りてきた。
「失敗したな。毒針にしとけゃよかった。ま、これで終わりだ」
イセクは右手を蟷螂の前脚に変え、右手を振り下ろすと、楓華は目を瞑った。
すると、クラスメイトの女子達が駆けつけて、イセクを押さえつけた。
「何っ!?」
「皆!?」
「楓華! 私達が押さえるから、今の内に!」
女子達を振り払おうとイセクが楓華から離れると、楓華は起き上がる。
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「ううっ……ん? クラスの皆おるやん!? 大丈夫なん?」
起き上がった玲は建物の中から外を見ると、クラスの皆が楓華を助けているのが見えた。
「こりゃあ負けていられん。うちも頑張らな」
玲は立ち上がって背中の矢筒から矢を取り出そうと、矢が残り三本しか無い事に気付く。
「あかん。きっとさっき落ちたせいやな」
周りに折れた矢が幾つも落ちているのを見て、玲は少し焦る。
「この二本だけで、何と勝たなあかん」
玲は再び外を見てチャンスを待つ。
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「このっ、離れろ小娘共!!」
イセクは押さえつける女子達を振り落とし、楓華に目を向ける。
「今度こそ終わりだ!」
走りだしたイセクの尻尾に、一人の女子が槍を突き刺して、そのまま地面に押さえつける。
「なっ、小癪な!! だが無駄だ!」
イセクは左手の蜂の腹部を楓華に向けて針を放とうとした。
すると、一本の矢が飛んできて、イセクの左手を射抜き左手が落ちた。
「っ!?」
イセクは矢が飛んできた方向を見ると、建物の中にいる玲と目が合った。
「またあの小娘か。いい加減くたばれ!」
右手を蜂の腹部に変え、玲に向けて針を放つ。
玲は建物の中を走って針を避けていく。
針を放つイセクの背後から、魔法が飛んできて背中に当たり振り向くと、杖を持った数名の女子達がいた。
「チッ。さっきから鬱陶しいなぁ!!」
イラつき出し、声を荒げるイセクは、地面ごと尻尾に突き刺さった槍を無理やり抜くと、尻尾が伸びて周りにいる女子達を薙ぎ払った。
すると、また一本の矢が飛んできて、イセクの尻尾を射抜き尻尾が落ちた。
「またかよ!?」
玲を睨んだイセクは針を飛ばそうと向けると、楓華がイセクに跳びつき、首に短剣を突き刺した。
「ぐっ……! こんなんで、俺を倒せると思うな、小娘ぇぇぇ!!」
イセクは右手を蟷螂の前脚に変え、楓華の首に向けて放った。
そして、玲は最後の一本の矢を放つと、イセクの右手を射抜いた。
楓華は玲に向けて親指を立てると、玲も親指を立てて返す。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
楓華はイセクの首に突き刺した短剣に体重を乗せると、イセクの首を更に深く刺し、そしてイセクの首を斬り落とした。
「痛っ!」
その拍子に地面に落ちて転がると、近くにイセクの首が落ち、胴体が倒れると、首と胴体がひび割れていき、やがて崩れた。
「や……やった~……」
楓華は全身の力が抜け、地面に寝そべった。
玲がいる建物に目を向けると、丁度壁が崩れて中が見える所に座り込んでいる玲が見え、楓華はピースをすると、気付いた玲もピースをした。




