ウェアークの戦い④
「はいっと」
ペルセネの右手が木質化すると、無数の木の棘を放った。
レイフは無数の蔦を生やして蔦の壁を作って防ごうとするが、木の棘の方が硬く、蔦の壁を貫きレイフの左肩に刺さる。
「うっ……!」
レイフは地面に倒れると、肩に刺さった木の棘を抜く。
肩から流れる血を見て、ペルセネは口元に手を当ててうっとりした表情になる。
「あぁ……相変わらず美味しそうな血」
「本当に不気味な人ですね」
舌なめずりをするペルセネを見てレイフは引くと、ペルセネは周りを見渡す。
「それにしても、随分木が少ないわね、この町。建物も木製じゃないし」
「植物が少ない事には同意しますが、今は有難いです。貴女は木の中に入れますから」
木の中に入って移動出来るペルセネを危惧しているレイフ。
だがペルセネは、余裕の表情をしていた。
「無いのなら、作れば良いのよ」
「え?」
ペルセネが地面を蹴ると、周囲に巨大な木の根が生え、木の根のレイフとペルセネの周りを覆った。
「そんな!? これでは……!」
自分を覆う木の根の壁に目を奪われていると、いつの間にかペルセネの姿が見えなくなっていた。
レイフは目を見開いて焦りだすと、後方から木の根が伸びてきてレイフの両腕両脚に絡みつき、木の壁に引き寄せる。
「きゃっ!」
引き寄せられ背中が木の壁にぶつかると、木の壁からペルセネが出てきた。
「うふふ。捕まーえた。あ~勿体ない。こんなに血流しちゃって」
ペルセネは血が流れているレイフの左肩を眺めると、顔を近づけて血を舐め取る。
「あぁぁぁ……やっぱり美味! あなた以上に美味しい血は無いわ! もっと頂戴!」
ペルセネの体から六本の木の根が生えると、先端が開いて牙が生えた口になると、レイフの両腕に噛みついた。
「あああっ!」
続けて両脚、首に噛みつくと、残りの一本はワンピースの中に潜り込み腹に噛みついた。
噛みついた木の根は、レイフの血を吸い上げていった。
「あ、ああ。ああああっ……!」
「一気には吸わないわ。この美味を長く味わいたいから」
更に木の根を伸ばし、レイフの体中に噛みつかせる。
全身に痛みが走り力が抜けてくると、手に持っていた神木の杖が手から落ちた。
「痛いでしょー。でも、まだこんなものじゃないわよ」
「え……?」
ペルセネの怪しい笑みを見てレイフは背筋が凍ると、噛みついた木の根の牙から小さな根が伸びてきて、レイフの体に纏わりつく様に絡みついてきた。
「ひっ!?」
「この根が貴女の全身を侵蝕した時、貴女は木になるのよ」
その言葉にレイフは顔を青ざめ震え出す。
「安心して。貴女が木になったら日当たりの良い所に植えてあげる。綺麗な水を上げて育てて、一定に育ったら私の栄養になるの。そしてまた栄養を蓄えさせてまた私が吸うの。そうして貴女は、私の永遠の栄養源になるのよぉ」
想像しただけで震えが止まらず、レイフは更に顔を青ざめる。
全身の力が抜け体が痩せ細っていくと、根が体の殆どに纏わりつき呼吸が弱くなっていく。
(ああ……もう……力が……)
頭の中が真っ白になり、体が根に覆われると顔を覆い始め、口の中に入ろうとしていた。
(…………まだ)
エレメントラインが消えだし、視界がぼやける程まで弱ると、レイフは意地で拳を作り体に力を入れる。
「まだ……死にたく……ありません!」
レイフが声を上げると、エレメントラインが伸び、全身に纏わりついていた根がヒビ割れて砕け落ち、噛みついていた根も離れた。
「なっ!?」
ペルセネは驚くと、レイフは神木の杖を拾った。
杖を掲げると、先端から木の葉が出てレイフの周りを纏うと、痩せ細った体が元に戻った。
「あらヤダ。折角良い所まで行ったのに」
「貴女の悪趣味に付き合う気はありません」
――――――――――――――――――――
街中で大きな水しぶきが上がると、水しぶきの中からレインが飛び出した。
レインは水しぶきの向こう側に目を向けると、レヴィアータが歩いてきた。
「今度こそ逃がさないわよ~。もっと楽しませてもらいたいんだから~」
レヴィアータは指を水の触手に変えて伸ばすと、レインは大海の杖を振って水の幕で防いだ。
「水が無いからちょっと不便ね~。……あっ」
「ん?」
レヴィアータの視線の先を見ると、そこには噴水があった。
水になって噴水へ向かおうとするレヴィアータを、レインは水の弾丸を放って妨げた。
「行かせる訳ないでしょ!」
「だよね~。どうしましょ?」
レヴィアータは口を尖らせて顎に手を当てて考える。
「……あ」
何かに気付いたレヴィアータは微笑むと、手を水の槍に変え、地面に深く突き刺した。
すると、突き刺した地面から大量の水が噴き出した。
「っ! しまった、水道!」
町の地下にある水道管から水を出し、足元に水が溜まっていった。
レヴィアータは水になって足元の水に紛れ込む。
レインは歯を食いしばって注意を払うと、周りから水の触手が伸びてきてレインは躱す。
「危なかった……」
「何処が?」
背後からレヴィアータの声が聞こえて振り向こうとすると、脚に水の触手が絡みついてきて持ち上げられる。
レヴィアータは捕まえたレインを見上げると、両腕にも巻き付かせ、足を自分の体に近づける。
レインの足がレヴィアータの腹に触れると、足がレヴィアータの体の中に沈み込んだ。
「ひゃっ!?」
「私の体の中に入れてあげる。帰ってからゆっくり楽しむ為に」
レインの体が徐々にレヴィアータの体の中に入っていき、下半身が沈みこんだ。
レヴィアータの体から水の触手が伸びてレインを体の中に引き込ませると、等々顔まで沈み込み、伸ばした右手だけとなった。
「ふふ。いらっしゃ~――」
レインの右手が飲み込まれる直前、突如レヴィアータの首が斬り落とされた。
「あれ?」
呆気に取られたレヴィアータの首が地面に落ちると、首を斬り落とした張本人はレインの手を掴み引っ張り出した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「きゃあ!」
救出されたレインは、引っ張り出してくれた人物の上に乗る様に倒れると目を合わせた。
「ゆ、勇也!?」
「ううっ、大丈夫か? レイン」
「え、ええ。勇也の方こそ大丈夫? まだ体の調子が戻ってないんじゃ……」
「大丈夫だよ、これぐらい」
レインは勇也の上から下りて勇也は立ち上がろうとすると、ふらついたのでレインが支えた。
「はは……まだ駄目っぽい」
「無理しないで」
勇也とレインは目が合うと、昨夜の事を思い出し頬を赤らめる。
「あらあら~。見せつけるわね~」
首の断面から水が伸びると、レヴィアータの首がくっ付いた。
「後ろから女の首を斬るってどういう事?」
「彼女のピンチに駆けつけない奴がいる訳無いだろ」
勇也はライトカリバーを杖代わりにして何とか立つと、レインと共にレヴィアータと対峙する。




