王宮内の争奪戦①
「クロース……」
「何だよ、ジジイも一緒なのか」
「先ほど結界が割れる様な音が聞こえ嫌な予感がしたが……」
「あー。結界の中に入るなんて、グラデの力で楽勝だったぜ。ヒレアも今頃寝てるだろうな。まぁんな事より……」
クロースは左手の剣を鞘にしまうと前に突き出した。
「その時の短剣を渡せ。痛い目に遭いたくなかったらな」
「どうしましょうジーリュさん、スカイブさん」
「渡す訳にはいかぬが……逃げ場も無い」
「うむ……」
現在ジーリュ達がいる部屋には窓が無く、唯一出られる扉の前にはクロースが立っている為出ることが出来ない。
このままジッと味方が来るのを待つか、強行突破するかジーリュは頭を悩ませる。
(人造エレメンターの力を侮っていた。まさかヒレアの結界が抜けられるとは。皆は今どうしているんじゃ? 状況が分からん)
徐々に焦りだすジーリュに対して、クロースは徐々にイラつき出した。
「さっさとしろよ!! 渡すのか殺されるか、どっちか決めろ!!」
「ど、どうしますか?」
「……仕方ない。ワシがクロースの気を引く。その隙にこの部屋を出てくれ」
「大丈夫なのか? ジーリュ殿」
「たとえ小さくてもドラゴン族の長老。簡単にはくたばらん」
ジーリュはクロースに向かって飛ぶと、「は?」と驚くクロースが振り下ろした剣を躱して顔に引っ付いた。
「うあっ!? 何してんだジジイ!!」
「今の内じゃ!」
スカイブと林子は頷くと、扉に向かって走る。
顔に引っ付いたジーリュを引きはがそうとするクロースの横に差し掛かると、タイミング悪くクロースはジーリュを引きはがした。
「くはぁぁっ! 小さくなってみっともねぇ事しか出来なくなったな、ジジイ!」
左手で持ちあげたジーリュをクロースは剣の腹を叩きつけて吹き飛ばすと、ジーリュは壁に激突し「ぐえっ!」と声を出して倒れる。
「ジーリュさん!」
「ぐあっ!」
クロースに蹴り飛ばされたスカイブは床に倒れると、その拍子に時の短剣を手放してしまい床に転がり落ちた。
鼻で笑うクロースが時の短剣を拾いに行こうとすると、林子がクロースの左腕を掴んで押さえた。
「あ?」
「い、行かせません!」
「チッ。放せテメェ!」
林子を振り払おうとクロースは左腕を動かしていると、近付いてくる足音が聞こえ、部屋の中に厚、美奈、大貴、楓華、玲が駆けつけてきた。
「先生!?」
「皆さん、来てくれたんですね」
林子が声を掛けた際に腕を掴む力が弱まり、その隙にクロースは腕に力を入れて林子を振り払った。
「邪魔だ!」
「きゃあ!」
突き飛ばされた林子は壁にぶつかり気を失ってしまった。
「先生!」
「良かった、気を失ってるだけみたいや」
厚達は一安心すると、床に時の短剣が落ちている事に気付く。
「アレが時の短剣だ!」
「チッ、まだ邪魔が入っちまった。だが、アレさえ手に入れりゃあここにもう用は無ぇ!」
クロースが時の短剣に向かって走ると、玲が放った矢が曲線上に曲がってクロースの目の前の床に突き刺さり足を止めた隙に、美奈が魔法で火の玉を放ちクロースは避けていく。
「へっ、外したな」
「それはどうかしら?」
「は?」
クロースがしかめっ面をすると、マントの力で素早さを上げた楓華が時の短剣を拾い皆の元に戻って来た。
「何!?」
「ナイスやで楓華ちゃん」
「へへーん」
「くそっ! 渡しやがれ!」
走りだすクロースの前に、厚、美奈、大貴の三人が立ち塞がった。
「風間さん、氷室さん。僕達が足止めするか、その間に二人は時の短剣を」
「うん、分かった」
「気ぃ付けてな」
二人は部屋を出て走り去ると、厚達は構えてクロースと対峙する。
「メンドクセェな、ガキ共!」
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王宮の中に入ると、そこではアルツがグラデと戦っていた。
どうにかアルツは持ち堪えてるって感じだ。
「お、勇也。戻って来たのか」
「ゴメン、任せて」
「平気平気。それより、さっき厚達が来て奥に行ったぞ」
厚達が来てるのか?
確かに、クロースが侵入してしまった以上、ジーリュと小森先生だけじゃあ時の短剣を守れないな。
話によると、天空族には強い戦士がいないみたいだし。
「コイツはオイラに任せて、勇也は奥へ行ってくれ」
「分かった。気を付けろ」
俺は奥へ続く通路へ走ると、グラデが目で追う。
「次から次へと。こうなれば」
グラデが床に潜り、アルツが「またかよ!」って叫ぶと、次の瞬間王宮が揺れ出した。
「な、何だ!?」
「もしかして、あの野郎何かしたのか!?」




