ホムンクルス
「それでジーリュ。あと二本の時の短剣は何処にあるの?」
クロークに時のエレメントが戻らない様にするためには、残り二本の時の短剣を守らないと。
「それが……ワシも知らんのじゃ」
『は?』
思わず俺達は呆気に取られた声を出した。
「いや、何で知らないの?」
「実はのう、時の短剣を悪用されない様にするためになるべく隠し場所が広まらない様にしようとワシも場所を知らぬようにしていたんじゃ。じゃからワシが知っておるのはクロークが持っている二本だけなのじゃ」
「マジかよ」
「今になって後悔しておる」
じゃあ残りの二本は自力で探すしかないのか。
厳重な所にありそうだし、骨が折れそう。
「時の短剣を奴等の手に渡さないのは勿論だが……私はディーテに今度こそ勝つ。負けたままではいられん」
龍の人造エレメンターとの戦いを思い出したリューラは、刀を強く握る。
「私も。今度こそ勝ちたい」
「俺だって同じだ! このまま負けっぱなしでいられるか!」
ミスクとウィドも、人造エレメンターとの戦いを思い出し拳をグッと握る。
「うむ。確かに、人造エレメンターとの再戦は避けられぬかもな。しかし、あの強さも厄介じゃが、一番厄介なのは、あやつ等がホムンクルスという事じゃな」
「どういう事?」
「うむ。これは百年以上昔の話なんじゃが……」
ジーリュの話によると、昔ある帝国の学者が偶然の産物として生み出したもの。
それが人造人間……ホムンクルスだった。
「ホムンクルスの大きな特徴は二つ。一つは創造主への絶対服従。そしてもう一つが、無限の体力と疲労しない身体じゃ」
「疲労しないって事は、疲れないって事?」
「そうじゃ。疲れも感じず、更に痛みも感じない」
その帝国はホムンクルスを大量に生産し、その特徴を活かしてホムンクルスを兵士にして隣国を攻めていき、領地を拡大していった。
帝国の勢いに危惧した周辺の国々は、手を合わせて連合軍を組み、更に当時のエレメンターも協力して帝国に挑み、大きな戦争になった。
「数では連合軍が有利じゃったが、全く倒れないホムンクルスに連合軍は押されていった。そんな時、ワシ等はホムンクルスの弱点を見つけたのじゃ」
「弱点?」
「ホムンクルスの弱点。それは、創造主が死ぬと機能が停止するんじゃ」
その弱点を見つけた連合軍は、当時連合軍の一つだったある国に捕らえられていた暗殺者に釈放を条件に依頼を出して、帝国の学者を殺させた。
学者が死んだことでホムンクルスは全て動かなくなり、連合軍は勝利して帝国は滅んだ。
その後、帝国の領地を連合軍で分け合い、ホムンクルスは全て撤去され、製造も禁止、製造方法も消された。ちなみに暗殺者は暗殺業から足を洗おうとしていたらしく、それからは一度も殺しをしていないらしい。
「今の話から考えれば、クローク殿が死ねば人造エレメンターも動かなくなる、という事でしょうか」
ラースさんの疑問に、ジーリュは頷いた。
「恐らくな。じゃがクロークもその事は知っているはずじゃ。どうやって製造方法を知ったのかは知らぬが、護衛の為に人造エレメンターを数人置くはずじゃ。簡単にはいかぬじゃろう」
人造エレメンターを護衛につけられたら、確かに難しいな。
「それに人造エレメンターの中にはオリジナルのエレメントもおった。ワシ等が会った三人の他にもいるかも知れぬから、相手の正確な人数が分からぬ」
オリジナルのエレメント。
確か糸、毒、そして虫の三つだったな。
分かってるだけでも、人造エレメンターは最低14人。
更にまだ何人かいるかもしれないんだよな。
……そう言えば、光の人造エレメンターがいないような。
「さて。残り二本の時の短剣。クロークも隠し場所は知らぬはずじゃから絶対先に見つけねばな」
「そう言えばさ、何で四本に分裂させちゃったの? まぁ隠すんなら多くした方が良いと思うけど」
「うむ。時のエレメントの時を操る力は主に四つあるからなんじゃ。時を速くする、遅くする、戻す、止めるの四つじゃ。じゃから時の剣を四つに分裂させた」
ちなみにクロークの手に渡ったのは、時を速くする力と止める力らしい。
「時を止めるってヤバくない? 動けない間にボコボコにされそうじゃん」
「その心配は無いぞい。時を止めるという事は、その姿のままにするという事じゃ。じゃから時を止められている間は傷を付けられることは無い。まぁ動けなくなるから厄介なのには変わらぬがのう」
相手より先に残り二本の居場所を掴んで手に入れる。それが重要だな。
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「なぁ兄貴。何でアイツ等生かしたんだ? あのまま戦わせりゃあ全員ぶっ殺せただろ」
エレメンターに止めを刺さなかった事に不満げなクロースに、カプセルを眺めるクロークが口を開く。
「残り二つの時の短剣の行方は私も分かっていない。そして奴等もな。奴等も必死になって探すはずだ。だから奴等にも探させる。そして見つけたら奴等よりも先に手に入れるだけだ」
「成程な。だからレヴィアータにあんな指示を」
「ああ。そろそろ着くはずだ」




