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エレメンターズ  作者: 至田真一
戻った日常
135/203

怪盗を捕まえろ

「封力の杖? なんだよそれ?」

「先端にエネージ鉱石で出来た宝玉がある杖じゃ。杖から放たれる光を浴びると魔法、そしてエレメントがしばらく使えなくなってしまうんじゃ」


 エネージ鉱石。魔力やエレメントなど、様々なエネルギーを吸収して溜め込むことが出来る特殊な鉱石。

 さっきの光を浴びた時のあの脱力感はそのせいか。


「ふんっ! ……くそ、風が出ねぇ!」


 ウィドは風のエレメントで飛ぼうとするが、エレメントが使えず歯を食いしばる。

 俺も手から光の玉を出してみようとするが少しも出ない。完全に封じられてるな。

 こんな事をしている間に、シャドーは会場を出て廊下に入ってしまった。


「しまった。しょうがないから、エレメント無しで追いかけよう!」

「ちっ! そうするしかねぇか!」


 俺達も廊下に出てシャドーを追うが、足がとても速くて距離が縮まるどころか逆に離されていく。


「足速っ!?」

「影すら踏ませんと自負している程じゃからな。しかし、あやつが封力の杖を持っているなんて初めて聞いたぞ。あの杖は入手も困難。一体どうやって手に入れた?」

「考えるのは後回しにして、今はあいつを追いかけよう」


 シャドーは立ち塞がる兵士の頭上を軽々と飛び越えて領主の部屋に近づいていくと廊下の角を曲がった。

 追いかける兵士達に続いて俺達も角を曲がると、ある部屋の前で二人の兵士が倒れていた。


「あそこは領主の部屋じゃ!」

「マズい、急がないと!」


 部屋の前に着き中に目を向けると、手に小さな金庫を持ったシャドーが開いた窓から飛び下りようとしていた。


「一足遅かったようだね。それではごきげんよう」


 そう言い残してシャドーは窓から飛び下りて外へ逃げた。

 俺達は窓へ向かって走って顔を出すと、シャドーは袖からワイヤーの様な紐を伸ばし木の枝に巻き付けると地面に着地して走りだした。


「あっ、待ちやがれ!」

「ちょっと待ってよウィド! エレメントが使えない今の状況で飛び下りたら危険よ!」

「ミスクの言う通りじゃ。急ぐのは分かるが、今は玄関から外に出て追う方が良い。時機にエレメントも使えるようになるはずじゃ」

(それに……流石のシャドーでも、鍵無しであの金庫は開けられぬはずじゃ)


――――――――――――――――――――


「……ここまで来れば大丈夫か?」


 トラレから少し離れた森の中でシャドー息を潜めていた。


「しかし、この金庫私でも開けられないとは。鍵開けには自信があったんだけどな。『あの男』はどうやってこれを開けるつもりだ? ……っ!」


 視線を感じたシャドーはバッと振り向いたが誰もいなかった。


「……気のせいか。まぁいい。早くこれを渡しに行、おわっ!?」


 歩き出そうとしたシャドーは突然転び、金庫を落としてしまう。


「痛ててて……何だ?」


 シャドーは自分の足に目を向けると、地面から蔦が伸びて足に巻き付いていた。


「何だこの蔦?」

「逃がさないぞ!」


 声が聞こえた先には、エレメントの力が戻った勇也達エレメンターがいた。

 シャドーの足に巻き付いた蔦も、力が戻ったレイフによるものだ。


「もう時間切れか。ならばもう一度」


 シャドーは封力の杖を取り出すと、空から鳥になったビトが飛んできて変身を解くと封力の杖を蹴り飛ばした。


「しまった!」


 シャドーの手から放れた封力の杖が地面に落ちると、走りだしたアルツがアースハンマーを振り下ろし封力の杖を砕いた。


「よし!」

「ああっ!!」


 封力の杖が砕かれて絶句しているシャドーを、厚と大貴が上から取り押さえた。


「おらっ、逃がさねぇぞ!」

「ここまでだ」

「ううっ……」


 取り押さえられ落ち込むシャドーに勇也達が近づくとジーリュがシャドーの前に立つ。


「領主に明け渡す前に一つ聞きたい。先程ビトが、お主が誰かから依頼されたと聞いた。依頼主は誰じゃ? 何故ステイルの家宝を狙う」

「成程。感じた視線は彼女か。生憎、依頼主が誰かなんて知らないし、理由も知るわけが無い」

「やっぱり教えてくれるわけないよ」

「いやいや。本当に知らないんだよ。相手は顔を隠してたし、理由も『お前が知る筋合いは無い』なんて言ってて」

「む~。とにかく、後はステイルに任せるか」


 勇也達はシャドーを縛り付けて領主の屋敷に戻ると、領主のステイルが駆け寄って来た。


「おお、エレメンターの皆! 金庫は?」

「無事取り返しました。どうぞ」


 勇也は金庫を手渡すと、ステイルはホッと安堵の息を吐く。


「良かった。衛兵、シャドーを牢へ」


 ステイルの指示で兵士達はシャドーを屋敷の地下牢へ連行した。


「礼を言う。今晩は屋敷に泊っていってくれ」

「ありがとうございます」


 勇也達は屋敷の中に入っていくと、ステイルは胸元のブローチを外し金庫の鍵穴にはめると鍵が開き中を確かめる。


「ちゃんとある」

「シャドーは誰かから依頼されたと言っておった。相手は何者なのか、理由も知らぬようじゃ」

「念のため、しばらく警備を強化しよう」

「そうした方が良いじゃろう」


 ステイルは頷くと、金庫の中に入っている赤い刀身の短剣をもう一度見て金庫を鍵を閉めた。


――――――――――――――――――――


 数日後、王都から来た護送馬車にシャドーは乗せられ、馬車は王都に向かっていた。


(この怪盗シャドー、依頼を受けて失敗するとは一生の不覚。エレメンターの力を侮っていたか……)


 シャドーは俯いて落ち込んでいると、馬車が急に止まった。


「何者だ、お前達は。今犯罪者を護送中だ。道を開け、ぐあああああああ!!」


 外にいる騎士の悲鳴と爆発音が聞こえ、馬車の中にいるシャドーと騎士は動揺する。


「何だ? この中で待っていろ!」


 騎士は馬車の外に出て扉を鍵で閉めた。

 その後も騎士の悲鳴と爆発音が聞こえると、しばらくして音が止んだ。

 すると馬車の扉が斬られ外が見えると、全身をマントで覆った男と赤い髪の男が立っていた。


「ん? ……あんたは!」


 シャドーは馬車から降りるとマントの男の前に立つ。

 周りには騎士が全員倒れ、所々に火の手が上がっている。


「助けてもらってすまない。今回は失敗してしまったが、次は必、ぐあっ!!」


 礼を言うシャドーの顔を赤い髪の男が掴み持ち上げると強い力で握る。


「あああああああっ!!」

「凄腕の怪盗と聞いて頼んでみたが……ガッカリだな。折角封力の杖を貸してやったというのに」

「ま、待ってくれ! 次は必ず! 必ず成功させるから、もう一度チャンスを――!」

「失敗したお前にはもう頼まん。やれ」


 マントの男がそう言うと、赤い髪の男の手から火が出てシャドーの体が燃えた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 体が燃えてシャドーは暴れるが、男の握る力は一向に弱まらず、やがて力尽きると地面に投げ捨てられた。


「やはり、自分の物は他人に頼らず自分の力で取り返さんと駄目か」

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