ドラゴンの悲劇
「う~~む。まさか二日も調査して何も分からずとは」
「なんか情けないな、俺達」
バート高原の調査を二日続けて行ったけど、結局何も分からなかった。
分かったのは、謎の魔物が高原の魔物を殺していったという事だけだ。
その謎の魔物の正体も分からなかったし、全く収穫無しだ。
「仕方がない。ウェアークに戻り、グレスに報告するか」
「そうだな」
「こんなに気分が晴れねぇ依頼の終わり方は初めてだ」
「しょうがないわよ。何にも分からなかったんだから」
俺達は召喚獣に乗ってウェアークへの帰路に就いた。
しばらく空を飛んでウェアークの外に下りると召喚獣を戻して町の中に入る。
「おーい、お前達!!」
冒険者ギルドへ向かっていると、前方からグレスさんが走ってきた。
「グレスさん。依頼なんですけど……」
「報告は後で聞く! とにかく、急いでギルドに来てくれ!」
「どうしたんじゃ? 慌てておるが?」
「来れば分かる!」
グレスさんがギルドに向かって走ると、俺達は少し動揺するが駆け足でグレスさんの後を追う。
ギルドが見えてくると、ギルドの前に大きな人混みが出来ていた。
人混みの中を進み中心に出ると、そこには一体の傷だらけの緑のドラゴンが倒れていた。現在そのドラゴンは治療を受けている。
「ドラゴン? 何で町中に?」
「あれ? このドラゴン見覚えありませんか?」
「そうか?」
フィーズは記憶力良いから見覚えがあるんなら間違いないと思うけど……俺も分からない。
「こちらのドラゴンを調べた結果、ドラング山脈の見回りをしていたドラゴンと一致しました」
「そっか思い出した。ドラング山脈を訪れた時に、最初に出てきたドラゴンだ」
確かにあの時のドラゴンも緑色だったな。
「それでグレスさん。どうして此処にドラング山脈のドラゴンが?」
「お前達が帰ってくる30分ぐらい前にやって来てな。どうやらジーリュに用があって来たらしい」
「ワシにか? あれほど傷が多いのも気になるのう」
俺達はドラゴンの顔に近づくと、そのドラゴンはゆっくり目を開け俺達を見る。
「ジ、ジーリュ様! うっ……」
ドラゴンは起き上がるが、傷の痛みかすぐに倒れてしまった。
「無理するでない。そのままで良い、何があった?」
「ジーリュ様……急ぎドラング山脈へお戻りください。しゅ……襲撃です」
「何じゃと!?」
――――――――――――――――――――
俺達は召喚獣に乗ってドラング山脈へ急いで向かった。
「ドラング山脈が襲撃って……殆どのドラゴンがいるのにか」
「これまでに、ドラゴンの角やら鱗やらを狙う盗賊がたまにやって来たが全て追い返した。じゃがわざわざ知らせに来るとは、只事ではないぞ」
ドラゴンはこの世界では強い生き物だから、そのドラゴンが慌てるなんて確かに只事じゃない。
しばらくしてドラング山脈に着くと、ドラゴン達が住んでる場所へ向かった。
「おい、あれ見ろ!」
ウィドが指差すと、その先はドラゴン達の住処だが、そこからいくつか火の手が上がり黒煙が上っていた。
近づいて空から見ると、その光景を見て俺達は驚く。
「これは……」
「なんて事じゃ……っ!」
俺達の目に映ったのは、建造物が破壊され、何体ものドラゴンの死体が転がっている悲惨な光景だった。
地面に下りて召喚獣から降りて戻すと歩いて見て回った。
リューラはドラゴンの死体をジッと見る。
「翼だけでなく首まで切られている。剣で斬られたのだろうか?」
「ドラゴンの鱗はとても硬いわ。相当な腕前じゃないと無理よ」
「こんな沢山のドラゴンを倒すんだもん。とっても強い奴が沢山襲ってきたのかな?」
「しかし、襲ってきた者の手がかりの様な物がありませんね」
ドラゴンの死体の山を進み奥まで来ると、ジーリュが何かを見つけて先に飛んで行った。
俺達は追いかけると、奥で倒れている白銀のドラゴンの前にジーリュが下りた。
「このドラゴン……もしかして」
「間違いない、セインじゃ」
現在ドラング山脈を治めている、ジーリュの息子のセインさん。
セインさんも酷い怪我だ。もう……。
「ぅぅ……」
「っ!? セイン!?」
「ち……父上……。お戻りになられていましたか……」
良かった、まだ生きてるみたいだ。
でも声が凄い弱々しい。
「無理をするな。今はあまり喋らん方が良い」
「申し訳ありません……。たった一人に、この有様で……」
「一人!? 襲撃して来た相手って一人なんですか!?」
たった一人でこの数のドラゴンを倒したのか!? どんな奴なんだよ!?
「はい……騎士の様な格好をした、女が……」
「騎士の格好をした女……」
リューラが反応する。
もしかしてそいつ、前にリューラを襲った奴じゃ。
冒険者が何人も襲われたって聞いたし、今度はドラゴンを?
「お気を付け……ください。奴は……人間では……ありません」
「なぬ?」
「奴は……ホ……」
セインさんは最後まで言えず、力尽きて目を閉じた。
「セイン……」
ジーリュは悲し気な表情になり、息子の死を見送った。
「ん? おいアレ!」
ウィドが指差すと、ウェアークにいるはずの緑のドラゴンがフラフラと飛びながらやって来た。
治療は受けていたのか包帯が巻かれている。
「ジーリュ様! セイン様は!?」
「……今、息を引き取った」
「そんな……!?」
「…………皆よ。セイン達を埋葬したい。手伝ってくれぬか?」
「ああ、勿論」
アルツが地面に大きな穴を開けると、俺達は穴の中に丁重にドラゴン達を入れていく。
最後にセインさんを入れるとアルツは穴を閉じ、その上にドラゴンの顔が付いた墓石を建て、俺達は合掌した。
「お主はこれからどうするんじゃ?」
「私はここに残ります。同胞がいなくなってしまっても、ここは私の故郷ですから」
「そうか……。では頼んだぞ。ワシ等の故郷を」
「はい」
俺達は召喚獣を呼ぶと背に乗り、ドラング山脈を後にした。
「いいのか? ジーリュ」
「うむ。ワシにもやる事があるしのう。ワシは戦えんから、仇を見つけたら頼むぞ」
「ああ」