七人目のエレメンター
町に広がる病の原因を探すため、俺達はビトと共にジュノの町の近くの森にやって来た。
「ホントにこの森に病の原因があるのか?」
森を歩いている中、エンが少し疑わしそうに聞く。
「この森から変な臭いがし始めてから町で病が流行り出したんだ。手がかりがあるのは間違いないね」
臭いか。やっぱり獣のエレメンターだから嗅覚もいいのかな。
森の中を進んでいると、何故か横から視線を感じ目を向けると、ビトが俺の方を横目でジッと見ている。
「えっとー、何?」
「別に。ただ、父さんがずっと待ってた光のエレメンターがどんなのかなーって思ってたけど、なんか頼りなさそうだなーと思って」
「うっ」
そんなハッキリ頼りなさそうって言われると、流石に傷つく。
「まぁそう言わんでくれ。エレメントの力は一つでも無くなるのは良くないからのう。復活しただけでもワシ等は嬉しいのじゃ」
ジーリュがそう言うと、ビトは「ふーん」と返すと、何かに気付き足を止めた。
「あの臭いだ」
ビトの体が光ると、ビトに犬の耳と尻尾が生えた。
「こっちだ」
ビトは周辺のにおいを嗅ぐと、指差して進み、俺達も後をついて行った。
途中で襲ってくるゴブリンや虫の魔物を倒しながら森の中を進んで行くと、大きな湖に辿り着いた。
「この辺りから臭いが強くなってる」
ということは、この湖に原因が?
周りを見渡していると、ヒレアが何かを見つけた。
「湖の真ん中に木があるけど、なんか不自然じゃない?」
ヒレアが指さした先には、湖の真ん中の一本の木が生えた小島があった。
よく見ると森の木と比べて少し短いし、幹の色もなんか薄い。
「あんな木あったっけ?」
ビトが首を傾げている。
知らないって事はあの木が怪しいな。……でも。
「調べようにも、距離があるな」
どうやって行けばいいんだろうあそこまで?
泳いで行こうにも、深さがどれぐらいなのか分からないし。もしかしたら凶暴な生き物が住んでるかも知れない。
流石に脚力を強化させてジャンプしても届かない距離だしな、どうするか。
「僕に任せてくれませんか?」
フィーズがそう言って前に出ると、手から冷気を出して湖を凍らせた。
そっか。この手があった。
「これなら進めるのう」
「滑るので気を付けて下さい」
俺達は凍った湖に足を乗せていく。ライデンだけ滑って転んだけど。
フィーズが凍らせながら、俺達は滑らない様に気を付けて進み、湖の真ん中の小島に着いた。
思ったより小さく、人一人乗れない。
「この木からあの臭いが強く出てるよ」
ビトが嫌そうな顔で鼻を押さえながら言う。
「やっぱりこの木が原因なのか」
「なら、この木をどうにかすりゃあ解決って事だろ? 簡単じゃあねぇか」
エンは掌に火の玉を出して、木に向かって投げようとすると、突然木が大きく揺れ出した。
「何だ!?」
すると今度は、小島の周りの氷にヒビが入り割れだしていく。
「皆、離れよ!」
ジーリュの言葉に、俺達は木から離れると、木の下から何かが飛び出した。
それは、背中にあの木が生えている白い大きな蜥蜴だ。
「あれは、ツリーリザード!」
「ゴォォォォォォォン!!」
背中から木が生えた大きな蜥蜴の魔物、ツリーリザードが凍らせた湖から姿を現し咆哮を上げると、背中の木から鱗粉の様なものが出て周囲に広がっていく。
「うっ! あの臭いが……一段と強く」
ビトが嫌な顔をして鼻を押さえる。
俺も鼻にツンっと来る臭いがして鼻を押さえる。皆も鼻を押さえているから、大分臭いが強くなったな。
「やっぱりあの魔物の木が原因なのか」
「そのようじゃな。しかし、湖の中にいたせいか、背中の木が普通より倍近い大きさまで成長しておる。恐らく、風に乗って鱗粉が町まで飛んだんじゃろう。それで町全体に病が流行ってしまったんじゃ」
普通はそこまでは出来ないって事かな? まぁとにかく、今はコイツを倒さないと。足場の氷も割れて減って来てるし。
「こりゃあマズい。奴が放つ鱗粉は体に悪影響を与える。このままでは今より酷い症状が出てしまう危険性がある」
「じゃあ、やっぱりあの木燃やせば良いんだろ!」
エンは掌に大きな火の玉を生み出し思いっきり投げると、ツリーリザードは口から火を吐いて相殺した。
「チッ。もういっちょ……おわっ!?」
エンとツリーリザードの火でエンの足元の氷が溶け、エンは湖に落ちてしまった。
「もう、何やってんのよ!」
レインとヒレアに腕を引っ張られて、エンは氷の上に上がった。
「悪ぃ、助かった」
ツリーリザードは氷を砕きながら進み陸に上がると、俺達も陸に移動した。
「今なら濡れてるから、これが効くな!」
ライデンが手から電撃を放つと、狙い通り電撃が濡れたツリーリザードにかなり効いていた。
ツリーリザードは口を開いて火を吐こうとすると、アルツは土のエレメントで土の塊を生み出し投げるとツリーリザードの口を塞いだ。
土の塊を取ろうとツリーリザードはジタバタしていると、フィーズが手から冷気を放ち、背中の木を凍らせた。
「今だ!」
口が塞がれ、木が凍っている隙に俺はツリーリザードに向かって走りだすと、ツリーリザードは近くの岩に土の塊をぶつけて壊すと、俺に向かって火を吐こうとした。
距離が近く、避けられないと思ったその時、猫の耳と尻尾を生やしたビトが近くの木を登って飛び降りると、ツリーリザードの顔を思いっ切り蹴り飛ばした。
「ほら、今の内に」
「ああ。ありがとう!」
ビトの蹴りで怯んだ隙に、俺は光を纏わせた剣でツリーリザードの背中の木を斬り落とした。
「ゴォォォォォォォン!!?」
ツリーリザードは悲痛な声を上げ体をふらつかせる。
木を斬られたからか、ツリーリザードはかなり弱まり、その後は特に苦戦することなく、最後に俺が首を斬り落として倒すことが出来た。
「これで町の住民は大丈夫じゃろう」
「はぁー、良かったよ」
安心したビトは安堵の息を吐く。
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「まさかツリーリザードが原因だったとはな」
ジュノの町に戻った俺達は、薬屋に戻ってケインさん達に報告した。
「とにかくこれで安心だ。これ以上増えることは無いだろうし、後は、今いる病人を何とかすれば解決だな」
「そうね」
ケインさんとモアさんがそう言うと、ケインさんはビトに顔を向けた。
「さてビト。エレメンターの皆は旅立つ。俺が言いたいことは分かるか?」
「あぁーもぅ、分かったよ。皆と一緒に行けって事でしょ? はいはい、行きますよ」
少し嫌そうながらも、ビトが仲間になってくれた。
これでエレメンターは七人目。残りは五人で半分を超えられた。




