学園の噂
「一人失踪!?」
次の日の朝。寮の食堂で俺達はメーダ教頭からそんな話を聞かされた。
「はい。昨日、寮の裏で授業をサボっていた三人の生徒がいましたよね? その内の一人が今朝いなくなってしまったようなんです」
昨日のあの三人か。
それにしても本当に急にいなくなるんだな。これまでは実感が湧かなかったけど、本当に怪事件だな、これ。
「この事件マジでヤバそうだな」
「次いなくなる前に早く終わらせちまおうぜ」
「それ賛成……」
また寝不足になった美奈は早くこの事件を解決したさそうだ。
これ以上出ないようにするために、俺達は寮の食堂を出て調査を始めた。
――――――――――――――――――――
「寮の周りには、誰かが通った様な跡は無いな」
男子寮の周りを皆で一通り見たけど、誰かが侵入した様な形跡は特に無かった。
「誰かが忍び込んで誘拐した可能性はやっぱり低いか」
「本当、何処に消えたのかしら?」
確かに、消えた生徒達は何処に行ったんだろう?
せめて消えた生徒の物が見つかれば、少しは手がかりになるんだけど。
「さて、失踪直後なら寮の周りに手がかりがあると思ったが、検討違いじゃったな」
「ああ。また分かれて探そう」
昨日と同じように何人かに分かれて学園の敷地を捜索し始めた。
「失踪が起きたばかりなのに、こんなに何も手がかりが無いもんなのか」
「これは骨が折れそうじゃのぅ」
ジーリュは難しい顔をして頭を掻いていると。
「ジーリュ殿」
「ん? おお、ラース。どうしたんじゃ?」
校門の近くを調べていた俺、レイン、ジーリュ、そして地球組の元にラースさんがやって来た。
「時間が出来たので、事件の調査の進展具合を」
「そうか。来てもらってすまぬが、あまり進んでおらん。今朝も一人いなくなってしもうたし」
「そうですか……。この事件は時間が掛かりそうですね」
「すいません、力になれず」
「いえ、調査をしていただけるだけでありがたいです」
騎士は国の平和維持が仕事だからな。一つの事件に集中するわけにはいかないもんな。
「エレメンターの皆さぁん! お話したいことが……!」
一人の女子生徒がやって来るとラースさんを見る。
「あれ? お父さん」
「え? この子、ラースさんの娘?」
「お主娘がおったのか? 初耳じゃぞ」
「すいません、伝えていませんでした」
ラースさんは申し訳なさそうに微笑する。
「それでスピナ。エレメンターの皆に何か用があるんじゃなかったか?」
「そうでした。さっき友達と話して思い出したことがあって」
ラースさんの娘、スピナはそう言うと用件を言った。
「実は最近、学園内で幽霊が出るって噂が広がってるんです」
「幽霊?」
「はい。夜中、校舎に向かって漂う薄く光る白い光が最近学園内で目撃されているんです」
「それがどうかしたの?」
「実は、その幽霊が目撃された次の日の朝には、必ず失踪する生徒が出るんです」
それを聞いた俺達は目を見開く。
「最近目撃される幽霊。そしてその次の日には消える生徒。無関係では無さそうじゃな」
「そうですね。スピナ、これはいい手がかりになるかも知れないぞ」
「それは良かった」
ラースさんに褒められてスピナは嬉しそうだ。
スピナが立ち去ると、厚が何か気になってるような様子に見えて、隣の大貴も気付いたのか聞き出した。
「どうしたんだ厚?」
「……昨日授業をサボった三人の生徒の内、一人が今朝いなくなってってたんだよね?」
「ああ。そうメーダ教頭が言ってたじゃないか」
「どうして失踪したのがその三人全員じゃなくて一人だけなのかと思って」
「……言われてみれば。問題児だけが失踪するんなら三人共いなくなるはず」
なのに消えたのは一人だけ。
その一人は何か違うのか?
「そう言えば、これまで失踪した生徒は必ず一人づつでした」
「うむ……。一人づつしか消えないのならば、その残り二人の生徒の内どちらかが今夜失踪するかも知れんな。もし、先ほどの幽霊が本当に事件に関係があり、今夜現れれば、更に現実味が増すな」
謎の幽霊。それが事件を解く鍵か。
――――――――――――――――――――
「……んで。結構寝ずに待つが、全然そんなの出ねぇぞ。眠みぃし」
「我慢してくれエン。俺だって眠い」
皆に昼間の事を話すと、その幽霊を見つけるために夜通し寮の部屋から外を見張っていた。
同室のエンと交代しながら見張っているが、もう零時はとっくに過ぎてるから凄い眠い。
「エンそろそろ交代して」
「待ってくれ、ちょっとションベン行ってくる」
「え~。早く済ませてよ」
エンはトイレに入り、俺は窓から外を見るが……ヤバい、眠気が一気に押し寄せてきた。
寝ない様に……しないと……。
…………………………。
「おい。起きろ勇也!」
「ハッ! ヤバっ、寝てた」
「起きたんなら早く外を見ろ!」
目を擦って窓から外を見てエンが指差す方を見ると、そこには校舎に向かって薄っすら光る広い光が漂っていた。
「あれは!?」
「皆にも知らせようぜ!」
通話機で皆に知らせ外に出ると、光が漂っていた場所に向かう。
「ここ等辺にいたんだけど……」
「いねぇな……消えたか?」
「とにかく、もしその光が本当に生徒が失踪する原因ならば、朝になれば分かるはずだ」
もしこれで生徒が失踪したのなら、あの光が原因の可能性が高くなるな。
そしたら、あの光(幽霊?)の正体を突き止めないと。