獣人の町の獣少女
六人目のエレメンター、氷のエレメンターのフィーズを仲間に加えて、俺達はヒョドの村を後にし、エレメンターを探す旅を続けた。
「皆、ここらで一回休憩にしましょう」
馬を扱っているヒレアがそう言うと、馬車を停めて俺達は馬車から降りた。
皆が馬車から降りると、フィーズが周りを見渡し始めた。
「どうしたのフィーズ?」
「いえ、村からここまで離れたことが無かったので、ここまで暖かいとは知らず」
俺達にとっては丁度いいぐらいの気温だけど、あんな寒い所でずっと暮らしていたフィーズにとってはこの暖かさは新鮮らしい。
その後俺達は簡単な食事を取った。
「次の目的地には明日には着くはずじゃ。もう少しじゃぞ」
ヒョドの村を出発して一日。次のエレメンターがいると思われるジュノと言う町に向かっている。
その町には獣のエレメンターがいるらしい。
獣のエレメントは動物に変身したり、動物と話すことが出来る力らしい。
そう言えばジュノの町には獣人が多く住んでいるってジーリュが言ってたな。
漫画とかだと、よく獣人は差別されるのを見るけど、実際はどうなんだろう?
「ねぇジーリュ。この世界って人間と獣人の仲はどうなの?」
「そうじゃなぁ。昔は仲が慎ましくなかったが、歴代のエレメンターのお陰で今は良好じゃぞ」
仲は良い方なのか。悪くないのなら良かったよ。仲が悪いと気まずいし。
「なぁ、もう無いのか?」
「お前な。どんだけ食ってんだよ! ちょっとは遠慮しろ」
アルツがまた食料を沢山食べてしまいエンが指摘した。
「これからどんどん増えていくのに、食費が大変だ」
せめて、アルツ程の食いしん坊が増えないことを祈ろう。
――――――――――――――――――――
次の日、俺達はジュノの町に着いた。
「ここがジュノの町か」
見た感じは普通の町だけど、これまでと違う点があるとすれば、町中を歩いている人の殆どが動物の耳や尻尾を生やした獣人という事だ。
獣人なんて初めて見るなぁ。凄い新鮮。
「獣のエレメンターじゃが、以前送られた手紙によると、この町で薬屋を開いているそうじゃ。そこへ行ってみよう」
俺達は馬車を預けた後、宿の人からその薬屋の場所を聞いてそこへ向かった。
「なんか……人が少なくない?」
町中を歩いて気付いたけど、歩いている人が結構少ない。
それどころかなんか活気が無い気がする。顔色が悪かったり、咳込んでる人までいる。
「そうじゃな、随分と寂しく感じるのう。明らかに普通では無いな」
頭の上に乗っているジーリュも町の異変を感じている。
また問題発生かな?
ジュノの町を進み、大通りから少し離れた所に目的の薬屋が見えた。
「あの店じゃな」
店に近づくと、中から出てきた紙袋を持った咳込んでいる犬の獣人の女性を少し目で追うも中に入った。
「いらっしゃい」
棚の薬品を整理していた茶髪の男性店員がこちらに振り向くと、俺の頭の上のジーリュとヒレアを見て目を大きく見開いた。
「ジーリュ。ヒレア。久しぶりだな」
「久しいの、ケイン」
「そうね」
この反応……もしかしてこの人。
「皆よ、こやつは先代の獣のエレメンターのケインじゃ」
「よろしく。ところで、ジーリュがここに来たって事は、もしかしてあの予言の子が?」
「うむ。この勇也があの予言の少年じゃ」
「ど、どうも」
ケインさんは驚いた後、俺の顔を見つめた。
「そうか君が。……不思議だな、ライトスに似てる気がするよ」
なんか前にも言われたことがある気がするけど、似てるかな?
「ところでケインよ、エレメントの力は無事受け継がれているのか?」
「ああ。獣のエレメントは娘に受け継がれているよ」
ケインさんがそう言うと、店の奥から一人の女性と10歳ぐらいの男の子が出てきた。
「お父さん、工房の掃除終わったよ」
「補充分の風邪薬持って来たわよ」
「ありがとうモア、ドゥノ」
「ケインよ、この二人は?」
ジーリュが聞くと、ケインさんは答えた。
「ああ、俺の妻と息子だ。娘は今、薬の材料の薬草を採りに森の方へ行ってる。もうそろそろ帰ってくると思うが……」
ケインさんが腕を組んで言うと、ドアの方に目を向ける。
「お、丁度帰ってきた」
俺達は店のドアへ顔を向けるが、そこには誰もいなかった。
「あの、いませんけど」
「違う違う、窓の方だ」
ドアの隣にある窓に顔を向けると、窓枠に袋をぶら下げた一羽の鳥が止まっていた。
鳥は店の中に入り床に着くと、鳥の体が光り、茶髪のボブショートに白の服に茶色のズボンを穿いた少女になった。
「ただいまー。材料集めてきたよ」
「ありがとなビト」
少女は袋をケインさんに渡した。
「ねーちゃんお疲れ様」
「うーん。あ、お客さん?」
「まぁ、一応そうだな。ビト、彼等はお前と同じエレメンターだ」
「え!? エレメンター!?」
少女は驚いた顔で俺達を見る。
「皆。この子が俺の娘で、現代の獣のエレメンターのビトだ」
「んー、よろしく」
ビトが俺達に挨拶すると、ケインさんに向きなおした。
「そうだ父さん。薬草が減ってきてるから、このままだと薬の生産が追い付かないかも」
「やっぱりか。早く原因を調べないとな」
「何かあったのか?」
ジーリュが訊ねると、ケインさんは困り顔で答えた。
「実は最近、ジュノの町で病が流行ってるんだ。どんどん症状が悪い人達が出てくるし、今は何とかある薬で対処できているが、このままだと薬の生産が間に合わなくなる可能性があるんだ」
町に活気が無かったのはそのせいか。この店に来た時も咳込んでた人がいたし心配だな。
「話を聞いた限り原因はまだ分かっていなさそうじゃな」
「町の警備団も調べているんだが、まだ分かっていない」
ケインさんが不安な表情になった後、俺は皆の方に顔向けると皆は頷いた。
「俺達も調べに行きますよ」
「良いのか? それならありがたい。ならビト、お前も一緒に行ってあげなさい。この辺りはお前が一番詳しいんだし」
「え~僕も? ……はぁ~、分かったよ」
ビトは肩を落とすも、俺達と一緒に同行してくれることになった。




