先代エレメンターの悲劇③
「魔王軍の幹部、バルクを倒したライトス達は、国王だけでなく、王都の民からも大きく感謝された。……じゃが……」
ジーリュの顔が突然曇りだし俯いた。
「国民の中に、ダーケルを恐れる者が出始めたんじゃ」
「え? 何で?」
「あやつは根は良い奴なんじゃが、言葉遣いの悪さと顔つき、更に闇という印象の悪いエレメントの使い手という事も相まって、一部の国民はダーケルを怖がってしまったんじゃ」
「はぁ!? んな理由でかよ。王都を救ってやったってのに」
「そうじゃな。ウィドの言う事は最もじゃ。じゃから……ワシ等はもっと早く、あやつに声を掛ければ良かったと後悔しておる」
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「うおおおっ!!」
セアノ王国の城の訓練場を使わせてもらっているエレメンターは、そこで特訓を行っていたが、そんな中、ダーケルはこれまでに無いほどの気迫で木剣を振り下ろし、ライトスはライトスは木剣で受け止めた。
「どうしたんだダーケル!? なんか君らしくないよ!?」
「うるせぇ!!」
いつもと様子が違うダーケルに、ライトスだけでなく他のエレメンターも戸惑っていた。
ダーケルの猛攻に防御で手一杯のライトスは、一瞬の隙を突き木剣をダーケルの腹に叩き込みダーケルを吹き飛ばした。
「ぐあっ!!」
「はぁ……はぁ……っ! ごめん、つい!」
ライトスは倒れたダーケルの元に駆け寄り手を伸ばす。
……しかし、ダーケルはライトスを睨みつけた後、手を弾き自分で起き上がり訓練場を出ようとする。
「ダーケル!」
ライトスの呼びかけにも応じず、ダーケルは訓練場を出ようとすると、ジーリュが声を掛けた。
「ダーケル、お主……」
「……話しかけんな、ジジイ」
「待つんじゃ、ワシの話を――」
ジーリュの言葉にも耳を傾けず、ダーケルは訓練場を後にした。
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「それからもダーケルは、ワシ等の言葉を聞く事は無く、完全に亀裂が入ってしまった」
「あの頃はよく覚えています。ライトス殿も、どう声を掛ければ良いのか悩んでいた様に見えました」
「そうね。私も話しかけようとしたけど、駄目だったわ」
ジーリュ、ラースさん、ヒレアの沈んだ顔を見て、とても辛かったのが伝わってくる。
「そんな時じゃった。魔王の城がある島が発見され、ワシ等は魔王討伐の為にその島へ向かった。島に着いたワシ等は魔王軍と戦い魔王の城へ入った。迫りくる魔王軍を倒しながら城内を進み、最高幹部の四天王も三人倒し、最後の一人を魔王の部屋の前で倒した」
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「ガハッ!!」
扉を守っている最後の四天王、鎧に身を包んだ赤い肌の魔族は、ライトスに斬られ手に持っていた剣を落とし、膝から崩れ倒れる。
「ふぅー。こいつが最後の四天王だよね」
「うむ。あとは、魔王だけじゃ」
「よし、じゃあ突撃だ!」
グレンが扉に向かって走ろうとすると、ウィアが襟首を掴んだ。
「待ちなさいよグレン。魔王だけだからこそしっかり準備しないと」
「ううっ……」
「ははっ! 流石のグレンもウィアには頭が上がらねぇな!」
「うるせぇな」
エレメンターは魔王との戦いに備えて休みだすと、倒れている最後の四天王の右手がピクッと動きゆっくりと人差し指をライトスに向ける。
(せめて……奴だけは……)
人差し指に魔力を集中させ狙いを定めると、メーシャがそれに気づく。
「ライトスさん!!」
メーシャはライトスに向かって走り突き飛ばすと、魔族が放った魔力弾がメーシャを貫いた。
「がはっ……!」
「メーシャ!!」
「おの、れ……」
メーシャは吐血をして倒れると、力を使い果たした魔族は塵となって消えた。
「メーシャ、しっかり! ヒレア! メーシャを!」
ヒレアはライトスが抱えるメーシャに手をかざすと、口を強く閉じ首を横に振る。
「心臓を撃たれてるわ。これじゃあ私でも……」
ヒレアの言葉にライトスは言葉を詰まらせると、メーシャは目を薄く開き口を動かす。
「ライトス……さん……」
「メーシャ!」
「すみま……せん……」
メーシャの目が閉じると、そのまま息を引き取った。
ライトスは歯を食いしばると涙を流し、他の皆も悲しみに染まっていった。
「ライトス……」
ジーリュがライトスの肩に手を乗せると、ライトスは涙を拭き頷く。
「……そうだね。僕を守ってくれたメーシャの為にも、魔王を倒そう」
皆は頷くと、メーシャの遺体と布で包み魔法袋に入れ、扉に目を向ける。
「行こう皆。魔王は目の前だ」
『ああ!』
魔王との戦いに意を決して行く中、ダーケルは扉をジッと見つめる。
「魔王……」




