重傷の氷少年
「はぁー」
調理中、冷えた手に俺は息を吐いた。
「なんか寒くなってきたな」
「ヒョドの村が近いからのう」
次の目的地であるヒョドの村は雪原地帯に近い為、結構寒いらしい。
確かに遠くに白い山が見える。あれ雪かな?
「そろそろいいかな?」
鍋を混ぜるのを止めて、オーコの村で買った野菜とミルク、お礼で貰ったバファロの肉で作ったシチューが出来るとアルツが覗き込んだ。
「お、美味そうだな」
「寒いし、これが良いかなと思って」
食器にシチューを入れて皆に配った。
「はぁ~あったかくて美味しい。私寒いの苦手だし」
隣でシチューを口にしてレインが言う。
寒いのが苦手なのには同意するけど、レインの場合、露出あるその服装が原因だと思う。
「皆よ。食べ終えたらコートを着ておくのじゃ。ヒョドの村はここより冷えるぞ」
「まだ寒くなるのは嫌だなぁ」
俺がそんなことを嘆いている中、エンが鍋の中を見る。
「おい勇也。シチューもう無ぇのか?」
「え? まだあるはずだけど、もう無いの?」
鍋の中を見ると、空っぽになっていた。
変だな。皆に渡した時は半分ぐらいあったはずなのに。
「えぇもう無いの!? まだ食い足りねぇよ」
アルツが文句を言ってるけど、無いものはしょうがないよ。
「またおかわりしたかったのに」
「また?」
食べ始めてそんなに時間経ってないはずだから、おかわりする時間はあまり無いはずだけど。
「先程から、アルツ様がシチューを沢山口にしておりました」
やっぱお前かよ。どんだけ食ったんだよあの短時間で。
なんか食料の量問題が出てきた気がする。
食べ終えた後、俺達はコートを着て馬車に乗ってヒョドの村を目指した。
――――――――――――――――――――
馬車に揺られて一時間以上、遠目に村が見えた。
「あれがヒョドの村じゃな」
「うわぁ、雪積もってるじゃん。本当に寒そう」
東京育ちだから雪は積もる所は積もってたけど、それよりも積もってるな。
村に入るとまずいつも通りに馬車を預けてエレメンターの情報を聞いた。
「エレメンターですか。んー……」
宿の店主の男の人は何か言いづらそうにしている。
「もしや、この村にはもう居らぬのか?」
「いえ、そうではないんですが……。実は先日、近くで崖崩れが起きて……それに巻き込まれそうになった村人を助けて、代わりに彼が巻き込まれてしまい……」
「なんじゃと!?」
「幸い命に別状はなかったらしいんですが、酷い大怪我をしたと聞きました」
その話を聞いて俺達は驚く。
大怪我って……。命に別状は無くても大丈夫なのか!?
俺達は家の場所を聞いて急いで向かった。
正直、あんな話を聞いた後だと不安が募る。話によると、その事故の後昏睡状態でまだ目を覚ましていないみたいだし。
「ここじゃな」
頭の上に乗っているジーリュが言い、教えられた家に辿り着いた。
家の前に立ちドアをノックする。……が、一向に返事が無い。
「誰もいないのかな?」
「留守なんじゃねぇか?」
もう一度ノックしようとすると、ドアがゆっくり開いて白い髪の40代ぐらいの男の人が顔を出した。
「誰だ?」
男の人は眠そうな目で俺達を睨むと、視線を上げて俺の頭の上のジーリュに気付き、目を大きく見開いた。
「ジーリュ!? それにヒレアも! では、この者達は……」
「うむ。この者達は当代のエレメンターじゃ」
「やはりそうか! ……だが、来てもらって悪いが」
「話は聞いておる。氷のエレメンターが大怪我したと」
ジーリュの言葉に男の人は視線を下げた。
その後俺達は男の人、ヒョーガさんに案内されて家の中に入ると、一つの部屋に案内された。
部屋の中には、ベッドに横たわっている白い髪の少年がいた。
「息子のフィーズだ。事故からずっとこの状態だ」
「命に別状はないと聞いたが」
「ああ。だが両腕の怪我が特に酷く。医師の話だと……もう両腕は使えないと言われた」
「そこまでか……」
ジーリュは暗い声で嘆く。
俺達は手から光とか水を出すから、両腕が使えないのは致命的だな。
「それで今、両腕の代わりになる義手を作ってるんだが……苦戦してな。なんせ作るのは普通の義手ではないからな、ここしばらくまともに寝れていない」
だから眠そうな目をしてるんだ。
「ところで普通じゃないって?」
「エレメントの力を使える義手でないといけないんだ。そこが難しくてな、何度も頭を悩ませている」
エレメントを使える義手か。そういうの詳しくないから何とも言えないな。
「あの、義手の設計図ってありますか?」
「ああ、あるぞ」
ライデンがヒョーガさんに聞くと、義手の設計図を持ってきた。
「ん~……。これなら、エネージ鉱石があれば作れるな」
「エネージ鉱石……成程。確かにあの鉱石の特性なら」
なんか理解してるみたいだけど。
「ねぇジーリュ、エネージ鉱石って?」
「エネルギーを溜め込む力を持った鉱石じゃ。魔力だけではなく、エレメントの力も吸収することが出来てのう。それを使った武器に、これまでのエレメンター達は苦労しておった」
「ああ。あれは手ごわかった」
ヒョーガさんが嫌そうな顔で言う。
そんなのがあるのか。気を付けよう。
「クロエ用のがあるんだけど、足りるかな?」
「あ。もしかして、火を溜められるパーツを造るのに必要って言ってた特殊な鉱石って……」
「ああ、エネージ鉱石だ。クタガラの近くの鉱山でたまに採れるんだけど、今持ってる分だと……足り無さそう」
たまに採れるって言ってるし、そんなに持ってないのかも知れないな。
「エネージ鉱石なら、村から少し離れた洞窟で採れるはずだ。……だが最近、その洞窟の入り口付近にゴーレムが住み着いていると聞いたな」
「ゴーレムですか。大丈夫です、必ず持ち帰ってきます」
「すまないが任せた。待っている間、私は出来る限り義手の製作を進める」
俺達は洞窟の場所を聞くと、村を出てその場所へ向かった。




