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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第六十四話

「いい感じで噂が回ってますね」


「……噂、ですか?」


 あの買い物から数ヶ月。

 私は変わらずモゴネル先生やシュタニフ先生から教えを受けつつ、社交も少しずつこなすようになっていた。


 まだ立派な淑女かと問われると難しいところではあるが、少なくとも大きな失態は犯していないといったところで及第点だろうか?


「ええ。町中で奥方様のことを好意的に受け止める人も多いですし、エアリス様によれば夫人たちの反応も上々。ただ、やはり気になるのはユルヨの動向が相変わらずわからないというところですかね」


「……ええ、そうですね」


 私が目立てばユルヨが動くと思ったけれど、そんな様子は見受けられない。

 あの男が好むという花が飾られて以来、なんの音沙汰もないのだ。


 シュタニフ先生によるとあの花はダチュラというらしく、毒があるという話だった。


(綺麗な花を咲かせるのに、毒があるなんて……本当にあの男に似合う花だわ)


 バッドゥーラで悪さをして、そしてパトレイアに来て好き勝手に振る舞った男。

 それがたった数ヶ月で尻尾を出すはずがないと頭では理解していても、嫌悪感と焦燥感が抑えきれなくて私は自分をぎゅっと抱きしめる。


(慌ててはいけない)


 私が絶望していないことは、きっとあの男にとって望ましくない。

 だけれど同時に、私を絶望に追い落とす楽しみがあの男にはあるということにもなる。


 なら、それは幸せの絶頂が狙い目だろうとアレンデール様は仰った。

 私も、そう思う。


(でもそれはいつなのかしら)


 現段階で、私は幸せなのだ。

 誰からも馬鹿にされない、好きなものを好きに着ていいし応えてくれる人がいて、愛の言葉をもらい、抱きしめてもらえる。

 食事だって美味しいし、花は綺麗に咲き、学ぶことが許されて、外にも出られる。


 これ以上ない幸せを享受しているというのに、これ以上があるのだろうか?


(……これでアレンデール様に、跡継ぎを産んで差し上げることがで来たら)


 特別『男の子』である必要はないとアレン様は仰ったけれど。

 男女どちらでもいい、アレン様の志を継いでモレル領を守ってくれる子がいてくれたら、きっと喜ばれるに違いない。


 私の時のように、放り出したりなんかしないように。

 だからってマリウスに対してみたいに張り付くようにしてはいけないのだろうけれど。


「あ、そうか」


「……ヘレナ様?」


「ユルヨは、私の幸せを追い落としたいのよね」


「ええ、そう、ですね……?」


 モゴネル先生が困ったように小首を傾げた。

 私も、笑みを返す。


「先生、アレンデール様にお話を通してからになりますが、孤児院の子供たちに手伝ってもらうことになるかもしれません」


 噂が私を苦しめた。

 なら、私も噂でユルヨを呼ぼう。


 あの男が、私を見ているというならば。

 きっと耳を傾けるに違いないのだから。


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[一言] 一本釣りの前に撒き餌は必要
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