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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 素知らぬ顔して悪意は潜む

「ふふ、ふふっ」


 思わず漏れた笑い。

 ああ、なんて可愛らしい。


 可愛いあの子は、変わらず可愛いままなのだ。

 徐々に感情を失って行くその姿はいじらしく、感情を取り戻して輝きを取り戻した美姫もまた愛でるに相応しい。


(ああ、愛を知ったらしく花を咲かせた彼女の表情が絶望に歪むさまは、どれほど美しいのだろう!)


 わたしが歪んだ人間であると自覚したのは、幼い頃だった。

 父と母がいて、兄や姉がいて、裕福な暮らしで使用人に(かしづ)かれる、そんな満ち足りた生活。


 ある日、姉が大事にしているブローチが壊れたと言って母に泣きついていた。

 悲しむその顔に、ぞくりとしたものを覚えた。

 あの顔が見たくて、わたしはこっそり姉の持ち物を壊した。

 翌日涙に暮れる姉を慰めながら、なんと愛らしいのだろうと胸が満ちた。


 兄が友人と仲違いをしたと苦しそうな顔をしていた。

 いつも穏やかに微笑み、わたしたちを撫でるあの大きな手を握りしめて辛そうな顔をしている姿はとても美しかった。

 だから兄の周りから少しずつ、少しずつ人を排除した。

 徐々に絶望に染まるその表情は、やはりとても美しかった。


 わたしが見ている世界は、きっと歪みに歪んでいるのだろう。

 人とは違うのだとその時にはもう気づいていて、だけれど罪悪感なんてなかった。

 だって、父も母も、兄姉も、聖典も、聖職者たちだって当たり前のように言っている。


 みんな違ってみんないいってね!


「ふふ、あはは」


 恵まれた容姿、知性。

 それだけで人はわたしを気に入って、そして懐に入れるのだ。

 わたしは何もしていない。

 彼らがわたしを招くのだ。


 わたしはわたしらしく(・・・)いる。

 勿論これが、世間では望ましくないとして排除の対象であると知っているからこそ、密やかに。


「ヘレナ様、ああ、愛しい子」


 銀の髪に青紫の、美しい少女。

 あの子だけは、これまで出会った誰とも違う感情をわたしに与えてくれた。


「攫ってしまえば良かった」


 あまりに愛しすぎて、少々戯れが過ぎてヘレナ様に逃げられてしまったのは痛恨のミスだった。

 もう少し周りを削いで、あの子の感情を削いで、それから連れ出すつもりだったのに。

 あの子のいろんな表情を、わたしだけしか知らない表情を手に入れて、全部を壊しきったらわたしで満たすつもりだった。


 だから、わたしを遠ざけた後も彼女の中を満たす者が現れないように努力をしたというのにパトレイアの愚王のせいで彼女はディノス王国に嫁いでいった。


 でもたった一人で花嫁として送られた彼女の孤独な姿を思い描くと、愉悦が走る。

 ああ、彼女はどれほど孤高で美しかったのだろう!

 愛されることを知らなかった花嫁が、人身御供として嫁ぎ、震える中で初夜を迎えるだなんてこの目で見たかった!!


(わたし以外の者が満たした、それは好ましくない。だが……)


 大輪の花とまでは行かずとも、そっと花を綻ばせた彼女の姿を遠目に見てわたしは思ったのだ。

 知っているからこそ絶望は大きくなる。

 その時こそ、わたしの花嫁に相応しい、と。


「ああ、ヘレナ様。楽しみですねえ。二度目の花嫁衣装はどのようなものがいいでしょうか」


 どこからどう壊していこう。

 人を遠ざけていく? 傷つける?

 また花を贈って怖がらせる?


 それとも、誰かを裏切らせる?


「ふふふっ、ふふっ、あはは!」


 楽しくてたまらない。

 ねえヘレナ様。

 わたしはここにいるのです。

 貴女に焦がれてしまった愚かな男と笑うでしょうか?


 いいえ、違いますよ。

 わたしが貴女を見初めたのです。


 だから貴女は、ここまで堕ちてきてくれなければいけないよ。


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― 新着の感想 ―
ここまで気色悪いキャラ描けるのは凄いと思う
[一言]  愉悦神父の同類か。  なら未来は確定かな。
[一言] おまわりさん、あいつです
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