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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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幕間 橋渡しの男爵夫人

「まあ! シュタニフ先生からだわ!!」


「ええっ、シュタニフ先生って……エアリスの尊敬する植物学の専門家の? あの高名な?」


「そうよ! そのシュタニフ先生よ!!」


 わたくしは、ディノス国の伯爵家に生まれた。

 幸い両親は学べるときに学べという姿勢と、学ぶ相手を貴族に拘らないというポリシーを持った人たちだったため、わたくしには他に兄や姉、それから弟と妹がいるのだけれど、みんな見識広い方々に教えを請うことができたわ。


 シュタニフ先生もそのお一人。


 おかげでわたくしは多くのことを学べたと思っている。

 

 伯爵家では、跡取り以外が働きに出ることも少なくない。

 わたくしは礼儀作法に長けていたため、下位貴族の令嬢たちの家庭教師としての職を得ていた。

 そこで出会ったのが夫のジャックだ。

 ジャックは当時、そこそこ大きな商会に勤めていた男性。


 トントン拍子で結婚が決まり、独立したジャックはこの国の外に目を向けた。

 楽しそうに商売をする夫を支える生活に不満はない。

 その中で、彼が爵位を得たときには驚かされたけれど……それよりも今回の手紙には驚かされたわ!


「ええ、っと」


「なんだって?」


「まあ、まあまあ! 先生がこのディノス国に、それも例のモレル辺境伯夫人のところに逗留なさるらしいわ!」


「……へえ」


 モレル辺境伯夫人ヘレナ様。

 先日、王城で開かれたパーティーでわたくしもそのお姿を拝見したわ。

 言葉を交わすことはなかったけれど……。


 噂に聞くようなケバケバしさなどなく、まるでお伽噺に出てくる月の妖精、いいえ美しいお顔立ちにほっそりした体つき、そこに加えて儚げな雰囲気に愁いを漂わせた表情。

 妖精と言うよりは女神と申し上げた方がよろしいかもしれません。


 わたくしたちのような一代貴族も招かれていたとはいえ、お言葉を交わすにはやはり雲の上の存在とばかり思っておりましたが……シュタニフ先生は辺境伯夫人の力になってくれないかとわたくしに言ってくださったのです。


「あなた、わたくしモレル辺境伯領に参りますわ!」


「ええ!? 迷わないの!?」


「シュタニフ先生が仰るのですもの、あの人嫌いで偏屈もので物腰柔らかい癖に学ぶ意思のない者に対して一切の情を見せないあの方がわざわざわたくしに声をかけるほど、モレル辺境伯夫人を気にかけていらっしゃるのよ? むしろこちらからも是非にお目にかかりたいではありませんか!」


「……まあ、こちらとしてもモレル辺境伯と縁が結べたらありがたいけどねえ。あの時の様子を考えるに、バッドゥーラと今後やりとりをするならあの領地は鍵になるだろう」


「では善は急げですわ! あなたもモレル辺境伯領に来られるよう、いつでも面会できるように調整しておいてくださいませ。とりあえずモレル辺境伯の館に泊めてほしいだなんてさすがに厚かましいでしょうから、しばらくは宿暮らしをいたしますね」


「うん、わかったよ」


 日々、充実していると思っていた。

 だけれど、どうしてかしら?


 わくわくするわ!


 そうしてモレル辺境伯領で再会したシュタニフ先生からお話を伺って、直接ヘレナ様(・・・・)とお言葉を交わしてわかったの。

 ああなんて可愛らしい方なのかしらって!

 このように愛らしい御方、貴族夫人たちの毒牙にかかったらあっという間に傷つけられてしまうに違いありません。


 わたくしはそれらから身を守る術をお伝えしなくては!

 そして例の危険な男についても、わたくしも同じ女として許せません。

 殿方だから、淑女だからと言う問題ではなく人間として許せないではありませんか。


 とはいえ、夫にもこれはまだ話せない事柄です。

 夫を信じているからこそ、今はまだ黙っておくのです。


 ヘレナ様が、話しても良いとお許しくださって、夫がモレル辺境伯夫妻のお力になりたいと言ってくれるよう。

 わたくしは、しっかりと橋渡しをしなくては!!


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