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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第四十八話

 アールシュ様はドゥルーブさんが言っていた通り、子供たちとすぐに仲良くなっていた。

 言葉は通じなくても彼の人柄のおかげなのだろうか?

 

 見た目からして出身が違うであろう彼は初めこそ遠巻きに見られていたはずなのに、気づけば輪の中心にいるではないか。


(ああいう人をカリスマ性があるっていうのね、きっと)


 バッドゥーラ王国でも人気者だというのも頷ける話だ。


 ちなみにアレン様も子供たちに人気だ。

 私は上手く……うん、どう接したらいいのかわからなくて、少し遠巻きに彼らの様子を見ているだけだけれど。


 今回は教会に足を運び、町の人たちとの交流を中心に……という話でやってきた。

 町での暮らしや、人々が耳にする噂、そういったものが役に立つことも多いのだとか。


 普通ならば領主が自らすることではないと言われるのだろうけれど、アレン様は時間を作ってはこうして交流を重ねているらしい。


(アレン様は、すごいなあ)


 やりたいことを、やるべきことを見つけて前に進んでいくアレン様は、私にとってとても眩しい人だ。

 ずっと閉じこもることで自分を守るだけしかしてこなかった私には、とても眩しい。

 自分が変わろうとしている、実際に変わってきていると思ってもそれが最初の一歩を踏み出しただけなのだと思うと、どうしても恥ずかしく思うこともたくさんある。


(できることを、見つけたいな)


 それを見つけるためにも、モゴネル先生に師事して多くのことを学んでいこうと改めて心に決める。


「奥方様」


「……神父様」


 今日訪れた教会は、私が結婚してから初めて訪れた――いつかは離婚して出家するために……などと考えていた時の、あの教会だ。

 その意図はなんとなくバレていただろうなと思うと、気恥ずかしい。


「本日はお越しくださり、誠にありがとうございます。子供たちも領主様や他国のお客様にお目にかかることができて、とても喜んでおります」


「……こちらこそ。アレン様も、アールシュ様も子供たちと触れあえて嬉しそうですわ」


「普段忙しい分、無垢な子供たちと共にいると確かに心が安らぎますからね。体力的には持っていかれてばかりなのですが」


「まあ」


 困ったように笑う神父様に、私は何と返事をしていいのかわからなかった。

 確かに子供たちは全力ではしゃいでいるようで、あの駆け回る姿は見ている分には微笑ましいけれど……。


「それにしても、奥方様は随分と表情が柔らかくなりましたね」


「えっ……」


「きっとこれも神のお導きでしょう。……アレンは良い男です、信じてやってください」


「……はい」


 そういえば、神父様もまたイザヤたちと同じくアレンデール様にとって幼馴染だという話だった。

 おそらくは嫁いだばかりの私の行動を見て、この方にも心配をかけていたのだろうなと思うと反省しっぱなしだ。


「あの」


「……あら?」


 そんな風に自分を省みていると、神父様とは反対隣からか細い声が聞こえた。

 見てみると、そこには可愛らしい女の子が二人、ボロボロになった本を抱えて立っている。


「おくがたさま、しんぷさまとお話まだ、する……?」


「おや、私に用だったかな?」


「ごほん……」


 どうやらこの少女たちは神父様に本を読んでもらいたくて待っていたのだろう。

 それは悪いことをしたと私が一歩下がろうとしたところで、神父様が私を見る。


「もしよろしければ、奥方様がこの子たちに読み聞かせをしてあげてはいただけませんか」


「え?」


「普段は私が相手をしてばかりでして。違う人の声や語り口調も、この子たちにとって大切なものとなるでしょう」


「……私で、よろしければ」


 読み聞かせというもの自体は知っている。

 かつて私も先生にしていただいたことがあるから。


 ただ、あそこまで上手にできるかはわからないけれど……少し不安になって少女たちに視線を向けると、彼女たちが期待に満ちた目で私を見上げている。


「私で、いいかしら?」


 思わず彼女たちに、聞いていた。

 キラキラとした眼差しが自分に向けられているなんて、信じられない気持ちだ。


「うん!」


「おくがたさま、ごほんよんで!」


 少女たちが私を挟むようにして、それぞれ手を取って引っ張る。

 柔らかくて、温かくて、小さなその手の温もりに引っ張られて私は無性に泣きたいほど、嬉しかった。


「……ええ、そうね。頑張るわ」


 私にもできることが、見つかった気がした。


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