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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第四十七話

 アールシュ様がディノス王国に滞在する期間は、一ヶ月。

 本来なら王城で国内の話をいろいろ聞いて、自分たちが親しくする相手を見定める予定だったとのこと。


『予想外に良い友に巡り逢えて、嬉しい』


 そう笑うアールシュ様は、昔から勘に優れている方だそうだ。

 ドゥルーブさんは護衛も兼任していて、昔から一緒にいるんだとか。


「アールシュ様が勘で動くところが多く、そして大抵がその勘に従って成功するのです。まあ、護衛泣かせではありますが……ご本人がこれまた強いものですから、なかなか大変ですよ」


「まあ」


『ドゥルーブ、今俺の悪口を言わなかったか?』


 私と話す時、ドゥルーブさんはディノスとバッドゥーラ、二つの言葉を使い分ける。

 なかなか器用だなと思うけれど、その目的としてはアールシュ様とアレンデール様に両国の言葉を覚えてもらうため、らしい。


「なかなか難しいな……ああ、ところで視察についてくるのはいいが子供たちが無礼をしても許してくれ」


「問題ありませんよ。アールシュ様は子供好きで、バッドゥーラでもよく近隣の村々に下りていってははしゃいでおりましたから」


『おいドゥルーブ、お前絶対に碌なこと言ってないよな!?』


『ははは、気のせいですよアールシュ様!』


『ヘレナ、本当か!?』


『ええと、アールシュ様は近隣の村々で子供たちに好かれていると』


 そんな感じで毎日が賑やかだ。

 アールシュ様は私がパトレイア王国でどのような扱いを受けていたのか知って、腹を立ててくださった。

 アレン様と同じだ。

 でもその違いは、愛情と友情の違いなのだと思う。


 これまで私はそういった感情の違いが……そういうものが存在するとわかっていたけれど、違いがよくわからなかった。

 でもこうしてこの国に来て、少しずつわかるようになってきて、それらがもたらす心の温もりが私を支えてくれることを実感している。


(こうやって、本当は、心が育つんだわ)


 書物では、わかっていた。

 親がいて、子がいて、兄弟姉妹がいて、周囲がいて、そうして人間は集団生活をするにあたって心を育て、互いを思いやるのだという風に書物には書いてあったと思う。


 では、私は?

 衣食住に満ち足りていても、そこに伴う心はなかったのではないか。

 心という植物の種は私という体に埋め込まれても、育つことなく枯れているのではないかと思ったこともある。

 だけど、ディノス王国に来てから私の目に映る世界はあまりにも鮮やかで。


(ゆめ、みたい)

 

 嫁いだばかりの頃は実感がなくて、幸せはただ夢で見るだけで、それまでの現実はどうだったかなんて考えたくもない。


 今、こうしているも実は夢なのではないかと毎夜眠るのが怖いなんて、誰にも言えずにいる。

 共に眠っているアレン様にも。


 でも怖いと思えるということは、私の中で何かが育っているのだとも思う。

 いつかはちゃんと怖いと言葉にできたら、いいとも思った。


「そういえばヘレナ、教会から先日贈ったものについてお礼状が届いていた」


「え?」


「子供たちからだ。まあ神父が代筆したみたいだけど」


「……」


 そうだ、先日また教会に行った時に、子供たちが寒そうだったから。

 私は毛布を贈ったのだ。

 といっても数に限りはあるから、教会の中で彼らが使うようにと。


 神父様によると教会が古く石造りなせいもあって寒いらしく、そのせいで嫌がられることもあるという話だったから。

 教会でもある程度は用意しているのだろうけれど、それでも数を賄うにはお金がかかるもの。

 

 教会で配るのに適しているのはなんなのか、彼らが礼拝と勉強と足を運ぶ理由になるように、私なりに考えてのことだった。


「……喜んでもらえたなら良かったです」

 

 食糧は足りているし、人々の暮らしは決して裕福ではなくとも貧しくもない。

 毛布が正しいか正しくないかよりは、話をして必要とされるものの中から選べるようになりたい。


 今回は、聞いていた量を予算内で贈ることができたから良かったが、他の教会はまた違うかもしれない。

 全てを叶えることは無理だ。でも、できることはある。


「アールシュに協力してもらって薬草が増やせれば、領内で流通する薬ももう少し安価になるな」


 アレン様がそう笑ったのを見て、私も頷く。

 少しずつ、領民たちのために何かをしよう、そう思えるようになった私は、変わってきたのだなあと改めて思ったのだった。


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