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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第四十六話

 さすがに手続きも含め、引っ越し作業もあるからと先生がこちらに戻ってくるのは一週間以上かかるだろうとイザヤは言った。


 その間に私たちはアールシュ様と共に領内を巡り、薬草に関することやその他今後バッドゥーラの船を迎えるにどうしたらいいのかなどを考えなければならない。

 とはいえ、私はまだこの地に嫁いで来たばかりで地理も把握していないので、領民たちと心を通わせることを優先してほしいとアレン様からは言われている。


 私もその通りだと思った。


(領主の妻としてできること、か……)


 社交は正直にいえば、私には不向きだと思うのだ。

 これまで人と接することが少なく、社交的な物言いや雰囲気、流行を先取ること、言葉の裏の裏まで読むこと……そうした淑女として本来必要なことを、あまりにも知らなすぎると自分でも理解している。


 少しずつこちらに関しては学んでいく必要があるということもわかっているので、できればディノス国内で信頼できる貴族家の奥方と知り合いになれたら……と思うけれど、この間のパーティーで親しくなれた相手がいるかと問われると難しい。


 今後はお誘いいただいた茶会などで交友を広めるしかないのだろう。

 その間も失敗はつきものと覚悟をすべきだ。

 少しばかり怖いけれど、今は新しい環境に少し浮かれているのも事実だ。


 これまで何も持てなかった、持たなかった私がアレンデール様の妻という立場を得て、自分らしさを探していいと言われているのだ。

 恋愛感情というものはよくわからないけれど、アレン様に抱いているこの感情はとても温かくて、彼のために私ができることがあるのならばなんでも努力してみたいとすら思えるのだから、不思議でならない。


(そうだわ、学校……)


 アレン様のおじいさま、それよりも前のモレル辺境伯たちが考えていたこと。

 多くの民に学びの機会をと願うそのお気持ちに、私も添えるようになりたい。


(今は教会の一室を借りているのよね)


 そこに今後はモゴネル先生も加わる。

 ならば私はそこで何ができるだろう?


 まだその『何か』はわからないけれど、私が努力すべき点はそこにあるのではないだろうか。


(……先生は、私にどうやって教えてくれたっけ……)


 初めの頃の教師たちは間違えると鞭で打ってくるから怖くて、とにかく覚えなくてはいけないと思っていたような気がする。

 あまり思い出したくない記憶なので、曖昧だ。


 だから、当時は学ぶことはそんなに好きじゃなかったと思う。


 先生に出会えて、文字が読めると本が読める。

 本が読めると羨ましいような世界がそこにはあると知った。


(……そういえば、本って高価なのよね)


 王城にも、このモレル家にも書庫があるから当たり前のように感じてしまうけれど。

 この館の人のように自由に領主の館で本が読めることは、おそらく珍しいことだと思う。

 本に触れる機会があれば、子供たちは喜ぶかもしれない。


 だからといって教会に本を寄進するのは難しい。

 領内にある教会だけでもかなりな数になってしまう。

 予算には、限りがあるのだ。


(私に、できること……)


 それでも各地の教会に、本を数冊ずつ贈ることは許されるだろうか?

 置き場の問題があるかもしれないし、保管で手間をかけてしまうかもしれない。


(ああ、だめだ)


 一つ考えが浮かべば、だめな点ばかりが思いつく。

 それは良くないことだと改めなければいけないと思いつつ、私はまた一人だけで考えを完結させようとする自分に気がついた。


(先生が来られたら、相談してみよう。それから教会の、神父様たちにも)


 私が勝手に〝こうだ〟と決めつけて、諦めてはいけない。

 無知であることはわかっているのだし、世間知らずであることもわかっているのだから私は人に何かを聞けばいいのだ。


 全てを聞くのではなく、自分が考えたことに可能性があるのかを誰かに相談したっていいのだ。

 きっと、ここでは私の声を拾ってくれる人がいる。


 そしてできると思ったら、アレン様に相談しよう。

 きっとアレン様は、私の力になってくれるから。


「ヘレナ?」


「はい、アレン様」


「アールシュと出る時は、一緒に来てくれる? 通訳としてじゃない、俺の妻として」


「……はい、勿論です」


 何度も、何度も。私を妻と呼び、尊重してくださるアレン様。

 私はこの人のために、何かができる人間になりたいと思った。


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