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世にも奇妙な『悪辣姫』の物語  作者: 玉響なつめ


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第四十三話

「お久しぶりでございます、ヘレナ様!」


 快活に笑うケーニャ・モゴネル先生は私の記憶に在るままの姿だった。

 勿論、あの頃から幾年も経過しているのだから互いに齢を重ねてはいるものの、それでも優しい笑みは私の記憶にあるままだ。


「先生……!」


「まだ先生と呼んでくださるのですね、ありがとうございます。会いたいとも仰ってくださったとか……とても嬉しかったです」


「いいえ、いいえ……私の方こそ、先生にずっと会いたくて! お礼を、申し上げたくて……!!」


 モレル領に来るまでに、ご迷惑はなかっただろうか。

 パトレイア王国で今も暮らしていたという先生がこちらに来ていただくなんて。

 本来ならば私が足を運ぶべきだったのでは。


 いろいろと考えが散らばる中で、私は躊躇いながら先生の手をとる。

 先生は嫌がるどころか、にこやかな笑みで私の手を握り返してくれた。


「ヘレナ様。大きゅうなられましたね。そして大変美しくなられました。ご成婚の話は国内にも聞こえておりましたが、こうして再会できる日が来るなんて……」


「先生……」


「そちらの方が、もしかして?」


 先生が視線を向けた先で、アレン様が一歩前に出る。

 そして軽く会釈をしてからいつものように話そうとするのを、イザヤが肘で突っつくのが見えた。


 こほんと咳払いを一つ。


「……モレル辺境伯アレンデールだ。この度は遠方まで足を運んでいただき、感謝している」


「ご丁寧な挨拶をいたみいります、辺境伯様。わたしは言語学者のケーニャ・モゴネルと申します」


 辺境伯らしい(・・・)挨拶をしなくてはと頑張ったらしいアレン様の横で私はなんだか胸がいっぱいだ。


「ヘレナ様、以前よりも表情が豊かになられましたね。結婚が良い機会となったのでしょうか? 改めまして、ご結婚、おめでとうございます」


 どこまでも、温かいその言葉に私はくしゃりと自分の顔が歪むのを感じた。

 これまで、パトレイア王国側の人間でこれほどまでに私の結婚を祝ってくれた人はいただろうか?


 親、そして姉兄だってそんな言葉をくれたことはなかった!


 じわりと視界が歪む。

 泣いていたってどうにもならないと思ったのに、嬉しくても涙が出ることをこの地に来て知った。

 それ以来、私の涙腺は留めることを忘れてしまったように、こうして些細なことで涙を零すようになってしまった。


「あらあら。ヘレナ様……」

「も、申し訳ございません先生……う、嬉しく、て」


「……わたし如きの言葉でよろしければ、心からお祝い申し上げます。何度でも。幾度でも」


 重ねて言われたその内容に、私の涙は止まるどころか溢れるばかり。

 そんな私を、先生は優しく抱きしめてくれた。


 この温もりも、アレン様以外では先生しかいなかった。

 でも先生は来なくなって……私は愚かにも、当時の自分の悪評が理由で先生も嫌になってしまったのだろうと、勝手に失望したのだ。


(どうして、この優しい人が私を見限ったのだなんて思ってしまったのかしら)

 

 あの頃、自分は幼かった。

 周囲に嫌われ、疎まれ、蔑まれ、それを受け入れて自分を殺して生きることが精一杯の自分の身を守る方法だった。


 そんな中で先生が、先生だけが『王女』でも『悪辣姫』でもない私を見てくれたような気がして、でもある日突然いなくなってしまった。

 ああ、この人も同じだったのだ――そう思ってしまったのは、幼さゆえの一言で片付けてはいけない話だ。


 本当のことを知りたい。

 今なら、どんな答えであろうと受け止められる。


 それどころか、こうして再会してわかった。

 先生は決して私のことを嫌ったり、見限ったのではない。


「先生……教えていただけませんか。どうして、何も言わずに私の前からいなくなったのか」


 私はもう、孤独ではなくなった。

 振り払われることもなく、優しく私の手を握り返すこの温かな人ならば……きっと私が必要とする答えを、くれると今度だけは自信があった。


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